「らぶりーらぶりー薫ー♪ラブリ〜ラブリ〜カオ〜ル〜♪」
「ねぇ乾」
「おわっ!?不二、盗み聞きとは感心しないな」
「…あのさ」

部活の休憩時間、ベンチの上でノートに何らかを書き込みながら歌っていた乾。
そこに不二は後ろから声を掛けた。
乾のお門違いな発言は流して、不二は言った。

「君はいつも海堂君の名前を呼んでるけどさ、あんまり繰り返すと…」
「何を言う、不二。アピールすることが大切だとこの前の件で分かっただろ?」
「まあ、そういう場合もあるけど…」

この前の件というのは、まあ説明すると長いので
同シリーズ手塚編を読んでいただきたい。(狡い手段を使う)

不二は潜めた眉をまた上げると、乾に告げた。
一つ溜息をついた後に。

「乾、前に僕がさ」
「ん?」
「海堂くんに『最近乾先輩にストーキングされてるような気がして怖い』
 って言われたって言ったの覚えてる?」

ああ、と乾は頷いた。
そして思い出したかのように振り返りながら言う。

「でも、あれはお前の脅しを兼ねた冗談…!?」

振り返って、乾は固まった。











  * 恋愛相談室 〜ゲッチュー薫編〜 *












何故乾が固まったのか、説明しよう。

その時の不二の表情は、目が笑ってるんだけど口も笑ってて、
要するに両方笑ってたわけですが。
なんというか恐ろしいわけです。そう、恐ろしい笑顔。
恐ろしいといっても、恐怖的な意味合いで恐ろしかったのではなく、
妙なほどニンマリした口とか八の字気味の眉とか、まあとにかく恐ろしかったのだ。

「ま、まさか…っ!?」
「僕は何も言わないよ…」

しかし、乾は悟った。
海堂は本当に不二にそう相談したのでは、と…。

「オーノー!マイキューティー!!」
「いいから落ち着けメガネv」
「ハイ」

突然頭を抱えながら立ち上がる乾だったが、
不二の言葉の鉄拳でまた静かに座りなおした。
(思わず背筋がピンと張ってしまう勢いである)
(言葉の暴力は時により体への暴力より人を傷付ける)
(もちろん乾はこのようなことで傷付くたまではないが)
(不二もその辺は承知の上だ/ここら辺が不二乾)

「冷静に行動することが大切だよね」
「ああ」

話しながら、二人は他のレギュラー陣が何をしているのか眺めた。

少し離れた位置、桃城と菊丸が楽しそうに話している。

「そうだ…桃城が菊丸に張り付いていれば薫はフリー…」
「ちょっと待って」

そこに、手塚との練習メニューの話を終えた大石が加わる。
3人で話を始めて和気藹々。
いつの間にやら菊丸が大石にのみ話すようになる。
大菊ラブラブ。桃城孤独。
ぶらりと歩き出したところに自主トレをする海堂。
ちょっかいを出す。
喧嘩交じりに会話が始まる。
めでたし愛でたし。


「ぬぉっ、そういう仕組みか!」
「そうだよ。ほっといても桃は海堂くんの所へ…」
「まずは大石かっ!」
「はぁ?」

乾の突飛な発言に不二は間抜けな声を出す。
凄い勢いでノートにメモを始める。
不二は呆然とそれを見ていた。

「乾、一体何を…」
「聞いてくれるのか、不二!?」

くるりと振り返ると、乾は不二の手を両手で掴むようにした。
そりゃあもう、がっしりと。
不二は爽やかに言う。

「その汚い手を離してくれたらねv」
「オゥ」

乾はとりあえず手を離した。
(※不二乾はばっちり成立しているカップルである)

乾は息を大きく吸い込むと一息で言い切った。

「大石がやってくると菊丸がそっちに寄る!
 桃城が一人になる!薫の下へ向かう!世界は平和を失う!!
 何かを消すときにはまず本を断たねぶゎっ!!」

言った後、妙に清々しい表情をする乾だったが、
不二の視線は冷たかった。
しかしそれにも気付かず、ノートにペンを走らせ続ける。

「ふふ、ふふふ…まずは大石の息の根を止め…」
「止まるのは君だよ」

そして立ち上がろうとした、ところを不二に止められた。
立ち上がろうとしたところを肩を掴まれ、
乾はまたベンチに座り込む破目をくらった。
その乾に不二はできるだけ冷静に対応した。

「何言ってるの。大石を消したって桃が海堂くんのことを好きなのは変わらないよ。
 問題なのは本人の気持ちでしょ」
「ぬぅ…やはりきゃつか…」

この点、まだ不二は乾より冷静だと言える。
(いや、自分のことではなく他人のことだから客観視できているだけか…)

乾はというと、再びノートになにやら書き始めた。
凄い勢いでノートの数ページを書き終えた。
それぞれのタイトルは、
ハウ・ツー・呪い、
桃城武の殺し方、
絶対バレない完全犯罪、などなど。

覗き込んで、不二は笑った。

「ダメダメ。これは後始末が大変。完全犯罪っていうからには後も美しく…」
「そうか、なるほどな」
「…って違うよ」
「違うのか?」

一瞬乗りかけだったことはさておき、
不二はまた乾に訴えかけるように言った。

「君、まだ何も分かってないね?大事なのは海堂くんをみんなから引き離すことじゃなくて、
 海堂くん自身を振り向かせることでしょ?」
「む、確かに…」

乾は一瞬考えると、またもやノートにペンを走らせ始める。
今度の内容は、
惚薬入v野菜汁の調合法、
ハートを掴む☆惚れ薬、
身近な材料で作れる薬、などなど。

「へぇ。これを今度作るのかい?」
「ああ。念のため桃城武の殺傷薬も同時にな。フフフ…」

ちょっと考えた末、不二は笑顔で言った。

「ね、それ作るの僕も手伝っていい?」
「構わないが他言無用だ。ちなみにエプロン持参だぞ。割ぽう着も可だ」
「エプロン持って行くよ」

爽やかに答え、不二は乾の手伝いをすることになった。
その時、手塚の声が掛かり休憩は終わった。

ベンチから立ち上がってコートへ走りながら、

「(完成したらちょっとだけこっそり頂いちゃえ☆)」

なんて不二がこっそり思っていたことは、
眼鏡がテカテカ光ってる乾には知ったことじゃなかった。







そして、薬作りをした翌日。


「てーづーかっ」
「…なんだ」

不二がにこにこと笑顔で近寄ってきて、手塚は眉を顰めた。
(いや、表情が固いのはいつものことか。そうだ)

「あのね、クッキーを作ったんだ。手塚に食べてほしいなって」
「…また何か企んでるんじゃないのか」
「酷いなぁ。別に毒なんか盛ったりしてないって(薬は入れたけど)。
 味の保証はないけど(実は由美子姉さんが作ったんだ)、きっと(絶対)美味しいと思うよ」

裏だらけの不二の言葉はさておき、
不二はクッキーを手塚に渡した。
巧いこと言って由美子姉さんに作ってもらったため、味の保証はある。
(本人がしたことと言えばこっそり薬を入れたぐらいのこと)

無理矢理クッキーを手渡された手塚は、それと睨めっこをした。
しかし貰ったものを返すのもなんだし、だからといって捨てるのもよくない。

結局、食べた。

不二は手塚の眼前15cm程まで迫っていた。
手塚は一瞬顎を引いたが、不二は顔を両手で掴んだ。
(周りにいたものは、接吻でも咬ますのではないかと冷汗ものだった)

何故不二がそんなことをしたのかというと、
惚薬の典型的なタイプというのは、
食べ終わって始めに視界に入れたものに…というのが相場だからだ。

不二が手塚の顔をガッチリに固定した。
眼もギンギンに開いて手塚の目を見続けている。
手塚はわけがわからず瞬きを繰り返していたが、
食べ物を口に入れているときに喋るなどという行儀の悪いことはしなかったので、
とりあえず、飲み込んだ。
そして不二に質問しようとして口を開いた瞬間。

「あ……!」

手塚の顔は、微かに赤らんでいた。
頬は紅潮し、目もなんだかうっとりとしている。

「(かかった!)」

と、不二は心の中でガッツポーズしているところだったが。
手塚の視線が自分ではなく自分の背中の後ろの誰かに注がれていることに気付いた。

「(何、最初に見たのは僕じゃなくてその後ろ?
 それとも…いや、まさか!?)」

不二はばっと後ろを振り返った。
いや、手塚がそっちに走り出すのが先だったかもしれない。


「乾っっ!!」


手塚は、宙を舞った。(それはもう、アニプリSP並に/でも金にはなってない)
そして、海堂と桃城にそれぞれ違う色の汁を勧めている乾に、抱きついた。

「て、手塚っ!?」
「乾!俺にはお前だけなんだ!」
「ちょ、ちょっと待てぇ!?」

乾のシックスセンスが嫌な予感を察する。

「乾先輩、まさかこの汁、何か変なもの…」
「違う!健康にいいんだ!一瞬にしてマッチョになれるぞ海堂!!」
「悪いけど…お断りします」

乾、コップを返却される。(虹色をした液体入で)
海堂と桃城は「危なかったな」などと呟きながら去っていく。

乾は一人立ち尽くして動揺していた。
後ろには、それ以上に動揺…というかそれを通り越して怒りに達している不二。
下を向いたまま、拳が血管を浮き上がらせプルプルと振るえている。

「不二……ま、まさかっ!?」
「乾の馬鹿!眼鏡!死ネ!大体キモイんだよ貴様!
 Go to hell, and never come back! You stupid jerk!!(発音完璧)」
「何ぃ〜!?」

乾にしてみれば宛の違う怒りをぶつけられたようなものなのだが。
(寧ろ自分が作戦実行しているところを邪魔されたのだから謝られるべきだ)
(というか勝手に薬を持ち去られていたと言う時点で謝られるべきだ)
(しかし権力的に不二≫乾なのでそれもままならない/切ない男だ、乾)

「乾…コナクソ……っ!」
「待て、不二。濡れ衣だ!!」

そう。乾は何も悪くない。
惚薬は、“食べた者が乾に惚れるよう”に作ってあったのだ。
それを了承もとらずに盗み出し使った不二が悪いのだ。

しかし、誰にも不二は止められない。(ついに本性が)


「め〜が〜ね〜…」
「ちょっと待…」
「やめろ!!」

「「―――」」

不二が乾に目を光らせながら迫りよった、その時。

乾を庇ったのは、他ならぬ手塚だった。


「乾を殺るんだったら…俺の屍を超えて行け!!」





ぎゃふん。


不二の中で自分じゃない誰かが呟いた。
(いや、自分なんだけど。闇不二爆誕/遊○王にポ○モンときた)


乾を手塚が庇った。
それ以上に、手塚がしょうもないギャグを発したことが不二的にヒットだった。
(ショックじゃなくてヒットだったのだ。それはもう、クリーンヒット。鮮やかな安打)



固まる天才。
立ち尽くすデータマン。
縋るように抱きつく部長。
(もう大丈夫だぞ、とかなんとか言いながら)

加えて、
安堵の息を漏らしながらそそくさと立ち去る2年生二人組。
パートナーといちゃつき事態に気付いていない副部長。
面白いやつらだなぁと和んでいる寿司屋。(未バーニング)
我関せず、という雰囲気のルーキー。
唖然と立ち尽くす平部員。


もう長くないな、青学。






 〜教訓:何事も引き際が肝心〜






















40000HITリクの不二乾小説パート2です。
パソコンのデータが消えたおかげで書くの2回目なんですがどうなんですか。
(最終的な内容は変わってないけどディテール変わりまくり)

不二と乾のキャラの壊れが凄まじいですね。
そしてごめんなさい、手塚部長。(涙)

こんなんで申し訳ないような、いや寧ろ一番喜ばれるのか。
よく分からないけど壮真さんに捧げます。


2003/08/08