「……フゥ」
「どうした、溜息なんか吐いて」
それはある日の3年6組の教室、昼休み。
菊丸が3年2組へ向かったがために(理由は言うまでも無く)、一人になった不二。
一人机に肘を付き、切なげな表情で窓際である自分の席から校庭を見据えるのだった。
そこに背後から現れたのは、乾貞治以下略、である。
「乾…」
半分伏せた瞼で振り返る不二。
乾はそのまま空いている隣の菊丸の席に座った。
不二はゆっくりと始める。
「いや…なんかさ。何をしても手塚が振り向いてくれないなって」
「…そうか」
なんとも言えない空気が辺りを包む。
暫の沈黙。
――ここまでを見ると、素敵に青春満喫中の中学生男子である。
(というか実際もそんな感じなのだが、内容に問題有り。それはさておき)
まあ、形はどうであれ恋に悩むというのはなんとも美しいことであり。
しかしコイツらは違う。
「…やるか」
「オウ」
二人は同時に立ち上がると、そこに居た女子の視線を受けながら教室を後にした。
* 恋愛相談室 〜ウォンチュー手塚編〜 *
「さぁ、作戦はどうしたものか」
廊下を歩きながら、早速作戦を練り始める二人。
「まずは僕のことを手塚に意識させなくちゃ」
「しかし、手塚の性格上アピールすればするほど引くタイプだろう」
「何っ」
乾の言葉に不二は足を止めた。
視線は地面に当てたまま。
なんだか前髪から目の周辺に掛けて影被っちゃってるイメージである。
「…どうした」
不二は答えない。固まったままで。
そして顎に手を持ってくると、小さくボソリと呟いた。
「やっぱりアレはまずかったか…」
不二周助、久方ぶりに冷や汗タラ×2。
(いくら天才といえども焦ることはあるのだ)
「不二…何かしたのか!?」
「ふふ、フフフフフ…」
口元は笑っているが、開眼したままどす黒モード真っ盛りで笑われると非常に怖い。
しかし乾はそんな不二に怯むことなど全く無く。
優しく語りかけながら肩に手を乗せた。
「不二、俺たちの間に秘密はナシ、だろ?」
「ふふっ、触んなメガネ」
「つれないな、不二は」
不二はその手を爽やかに笑顔で払った。
怒りの篭もった笑顔ではなく、本当に爽やかな微笑みなのが逆に奇妙。
払われたほうの乾もそれに対してショックを受けるでもなく怒るでもなく。
こんな会話をしながらも二人揃って笑顔なのが(怖)な雰囲気だがさて置こう。
「で、結局のところはどうなんだ?何かしたのか?」
「うん。あれは君と付き合い始める前のことさ」
不二は壁に寄り掛かった。
乾は横に並ぶ。
「長くなるから覚悟してね」
「ああ。分かっている」
目を閉じると、不二は始めた。
「その日…大石は家の都合で先に帰って、日誌を手塚一人で書いてたんだ」
「ふむふむ」
「僕はそんなこと知らなかったわけだけども、
忘れ物を取りに帰ったら偶然手塚が一人だったんだ」
「うん」
「チャンスだ、と思うじゃない」
「だな」
前を通り過ぎていく女子が「不二君やっほー」なんて言えば手を振り返してみたり。
爽やかな笑顔も忘れずに。
不二とはそんな男だ。
しかし口から出てくる話はエグイのなんの。
(勿論女生徒たちはそんなこと知ることもなく)
「まあ、後は以下略ってことで」
「…短いな!」
「略しちゃったからね」
ミニ漫才は置いておいて。
乾は眉間に皺を寄せた。
「しかし、肝心なところに触れていないじゃないか」
「だってほら乾、考えても見てよ。ここ表だよ」
一瞬の沈黙。
そして二人は笑みを交わす。
乾は軽く不二の肩を小突きながら。
「はは、さすが不二。考慮が行き届いているな」
「ふふ」
しかしまあ、内容は丸分かりかもしれないがその辺は流していただきたく思う。(切実)
「いや、しかし…それってマズイだろ!」
「やっぱ?」
「ああ。手塚には最もしてはいけないことだな」
乾は汗で滑った眼鏡を上げながら言った。
ちなみに手塚とかそういうのの前に人間的に間違っているだろう、
ということは突っ込むべきなのだがそれでは話が成り立たないのでこれも流して欲しい。
「ねぇ乾、どうすればいい?」
「そうだな」
ウルリとした瞳で見上げる不二。(素だったのか作りだったのかは不明)
乾は3年1組に向けて歩き出しながらノートをパラりと捲る。
不二は少し駆け足になり横に付いた。
乾は低く言う。
「…押して駄目なら引いてみろ、ということだな」
「それってつまり…手塚に暫く近付くなと?」
「そういうことだ」
大菊(分かるであろうが大石と菊丸のことである。公認ホモめ)が
いちゃついてる3−2を目もくれず通り越し、
二人は3年1組の教室の前に来た。
不二は手塚をちらりと一目見る。
そして、強く言い放った。
「無理だ」
――。
データマン乾、固まる。
(そう、乾にでさえ未だ不二のデータは正確に取らせてもらえていない)
(天才の心情を読みとろうなど、蜘蛛を掴むようなものなのだ)
(雲ではなく、蜘蛛。つまり、恐ろしくて出来ないであろうという意味)
乾に横顔を見せたまま、不二は激しく訴えた。
「考えても見てよ乾。手塚、手塚だよ!?それを眼前にして手を出さないなど…無理だっ!」
「しかしそれでは作戦が…」
不二はぐるんと乾に向き直る。そして問う。
「じゃあ君は、放課後に海堂君が部室に一人で居た。さあどうする!?」
「襲う(即答)」
・・・・・・。
二人に幸有れ。
「と、とにかく作戦なんだ。数日様子を見てみよう」
「分かったよ」
こうして、不二が手塚と会話すらせず、近付きもせず、
一週間という月日が過ぎた。
「……・・!・・…っ・・・!」
「どうした、眉間に皺なんか寄せて」
それはある日の3年6組の教室、昼休み。
菊丸が3年2組へ向かったがために(理由は以下略)、一人になった不二。
指をバキバキと鳴らしながら、黒板の一点を睨んで動かないのだった。
そこに背後から現れたのは、以下略、である。
「イヌイ…!」
今にも食って掛からんという勢いで振り返る不二。
乾はそのまま空いている隣の菊丸の席に座った。
不二は叫ぶように始めた。
「あれから一週間手塚に近付いてないけど、なんの反応も示さないよ!?」
「…そうか」
「折角話し掛けられても無視までしたのに…」
それは人間的にどうなんだろうか、という疑問は胸に秘めて。
(虐めの発端だぜ)(まあ個人な限りはそうとは言わないだろうが)
「乾!この作戦は駄目だ。僕には向いてない。欲求不満で死にそうだ」
「じゃあ作戦変更するか」
乾はノートをぱらりと捲った。
「…押して駄目ならもっと押せ、だな」
なんとも言えない空気が辺りを包む。
暫の沈黙。
――ここまでを見ると、素敵に青春満喫中の以下同文、なのだ。
しかしコイツらはどうかというと、今までの文章で大体予想は付くだろうので省く。
「…ヤるか」
「オウ!」
二人は同時に立ち上がると、クラス中の視線を受けながら凄い勢いで3年1組へと向かった。完。
〜教訓:何事も強引さが必要不可欠〜
36363HITリクの不二乾小説パート1です。
不二がアホです。乾がキモイです。(※誉め言葉)
不二は手塚が好き、乾は海堂が好き。
それなのに間違いなくラブラブなこの二人のストーリーである。
遅くなってすみませむがこんな感じで良かろうか?
駄目といわれても無理矢理押し付けるつもりな私。(なんでもありだぜ身内)
次はパート2ということで乾海編を書くことにします。
毎度のことですが純粋なラブを求めて読まないで下さい。泣きます。(爆死)
とにかくありがとうございました。壮真さんに捧ぐ。
2003/07/30