* Simplest Stupidity *












「武、帰ろっ!」
「おーっス」

桃城武13歳。もうすぐ14。
テニス三昧で勉強チンプンカンプンだけど、
そんなオレにも彼女というものは一応居るわけで。

に告白されて付き合い始めて3ヶ月。
楽しいといえば楽しいのだけれど、
何かが足りないような…そんな気がしている日々だ。


「それじゃ、また明日ね」
「うん。バイバイ」
「じゃあなー、
「またね、桃城」


クラスメイトと軽く会話を交わし、
部活がない日はこんな感じでオレたちは帰路に着く。
歩きながらの会話は楽しいのだけれど、
やっぱり何かが足りないような…そんな気がする。

「なあ、?」
「んー何?」

しかし、向けられる笑顔を見ると…。

「…なんでもねぇ」
「何それ。隠し事するのは禁止って言ったでしょ?」
「だって本当になんでもねぇんだもん」

なんでオレってこうなんだろな。
何かが引っ掛かっている気がする。
それはずっと前から分かっているんだけどよ…。
その“何か”ってのが分からないから言い出せずに居る。

やっぱオレ馬鹿だから、こういうのを考えるのは苦手だ。




  **




翌日の朝。
今日もはオレの机の前で、
最近起こった面白いことなどを報告してくる。

「それでね、その時に……あっ」

チャイムを聞きつけると、急いで立ち上がって手を振った。

「それじゃ、また後でね」
「おうよ」

の後ろ姿が教室のドアから消える。
オレは無意識に溜息を吐いていた。

「……ふ〜ぅ」
「どうしたの、溜息なんて桃城らしくないじゃん?」

横から掛けられた声。
だ。

「いやー、なんつーか人生の悩みよ」
「そんな大きな悩み事抱えてるようには見えないけど」
「んだと!?」

拳を振り上げると、はケラケラと笑った。

……ったく。
本当に女ってのは分かんねぇ。
でも…コイツとは結構話しやすいな、とは思う。

「で、実のところはどうなのさ」
「んー…なんつぅか、アイツの気持ちが掴みきれないというか…」
「アイツって…?」

訊かれて、オレは頷いた。
だって、分からんものは分かんねぇ。


は、の親友だ。
部活が一緒だとかどうとかで。
オレとが付き合うことになったのも、
が仲を取り持ったから…らしい。

らしいっていうのは、オレにははっきりとした自覚がないから。
でも考えてみれば、ある時から突然色々訊かれるようになったな。

誕生日に星座、血液型。
趣味、特技から果てには家族構成まで。
思えば、あれはに頼まれて、オレと同じクラスである
親友を思って色々と聞き出し作業に身を入れていたのだろう。

活動日が多いテニス部に入っているオレにとって、
クラスが別である彼女のより、
ただのクラスメイトであると話すことのほうが多い…気がする。
最近は席替えして偶然にも席まで近いしよ。

なんか、引っ掛かるんだよな。


「でもさぁ、っていい子でしょ?面白いし」
「それは分かるんだけどよ…」
「じゃあ何が分からないっていうのさ」

訊かれてオレは固まった。
…そうだよなぁ。
何が分かってねぇんだ、オレは。
それすらも分からねぇよ。

「全く、女が全員お前みたいだったら分かりやすくていいのにな」
「…それってどういう意味よ」
「単純ってこと」
「何それ、自分は複雑だとか思ってるの!?」

そんな談笑をしている間に時は過ぎた。
担任が教室に入ってきて、ショートホームルームが始まる。
オレはそれを聞き流してボーっとしていた。


「というわけで、と…桃城!」
「え、オレ!?」

突然自分の名前が挙がってガバっと立ち上がる。
ボーっとしてたのがバレたのか!?

「何立ち上がってるんだ。お前らが日直だと言っただけだ」
「あ……そっスか」

あーあ。オレ普段から早弁したり居眠りしたり、
教師に名前呼び上げられるのに慣れてるからなぁ…。

クラス中から笑いが巻き起こる。
オレは照れ笑いを浮かべながら席に着いた。
横からはが笑いを向けてきた。
オレはそれに微笑だけを返した。

とりあえず…そっか。日直か。
確認するために黒板の右隅を見て気付く。

ん、今日16日か。へー…。

「桃城」
「あ?」
「いつまでボーっとしてんの。だから先生に名前呼ばれちゃうんですよー」

はけたけたと笑った。
見回すと、周りは一時限目の体育の準備をしている。

「唯一の得意分野でしょうが。頑張りなさいよ」
「ウルセー。数学だって得意だよ」
「前回私のほうが点良かったもん」

…言い返せない。
ひらひらと交わしていったそいつは、
廊下でと掛け合うと、パタパタと駆けていった。

…掴めねぇよなぁ、色々と。




  **




今日は雨だから、男女共に体育館だ。
男子はバスケ、女子はバレー。
半面コートなんて、やる気でねぇよなぁ。
まあ、やるからにはマジだけどよ。

「ほっ!」

投げたボールは綺麗に弧を描いてバスケットを擦り抜ける。
オレってば実はバスケもプロかったりするんだぜ。
実はテニス部とバスケ部で悩んだんだけどよ…ってそれは別の話。

『バシッ!』

「キャー!さすが!」
「ん?」

女子の方のコートをチラッと見る。
がチームメイトと手を合わせて喜んでいた。
普段は見せないようなキラキラとした笑顔で。
そうか。そういえばアイツらバレー部だったかなー…。

「桃っ!」
「え?…どわぁ!」

オレは顔面にボールを受けてすっ転んだ。

「いってぇー…」
「何ボーっとしてんだボケが。やる気ねぇならコートから出ろ」
「うっせぇよマムシ!」

叫ぶと、海堂は「フン」と残して走っていった。
ボールを拾いにマサやんが走ってくる。

「頼むぜ、桃。うちのチームはお前が頼りなんだからな」
「ヘイヘイ。あよっこらせっと」

立ち上がってパンパンと埃を叩く。
幸い当たったところは大した怪我にはなっていないようだ。


全く。
こんな気分になるのも雨の所為かな。

そうだ。全部この湿気の所為だ。




  **




そんなこんなで授業も終わって下校の時間。
オレは隣の教室にやってきた。


「あ、武!どうしたの?」
「今日は雨で部活ないからよ。お前も今日はないよな?」

は箒でゴミを掃きながら黒板を見ると、
曜日を確認して笑顔を向けてきた。

「うん。無いよ」
「んじゃ、帰ろうぜー」
「オッケー!」

…まあ。
それなりに幸せ…なはずなんだけどよ。






傘を持って歩くと、距離が少し開く。
雨の音で話し声が遮断されるがために、
いつもより少し声を張り上げて話す。

「そういえば今日の体育で女子はバレーだったな。どうだった?」
「んーそれがね、一人にやられちゃって」

はそういって苦笑した。
わざと私が居ないほう狙うんだよー?私以外バレー部居ないの知ってて。
と、は半分愚痴交じりに笑いながら言った。

バレーやってるアイツ、楽しそうだったよなぁ。
教室なんかでは絶対見せないような笑顔振り撒いてよ。

「男子はバスケだったよね。どうだった?」
「おう。バッチリ勝ったぜ」
「さすがだよねー。武ってばスポーツだけは得意だもんね」
「うるへー」

横では笑っていた。
でも…オレの頭の中には、
スパイクを決めた瞬間のの光ったような笑顔しかなかった。

「そういえば途中で転んでなかった?…ねぇ武!?」
「ん?あ、ワリ」
「話聞いてたー?」
「…正直聞いてません」
「もー!!」

どうなってんだオレ。
オレはと付き合ってて。
それなりに幸せなはずなのに。

でも、その幸せってなんだ?
“それなりに”という言葉をつけたくなってしまうのは何故だ?

何か引っ掛かってる。
何かが……あ。

「しまったぁ!」
「どうしたの?」
「オレってば今日日直だったの忘れてたぜ!」

そうだった。やべぇな、やべぇよ。
今日はと日直だった。
すっかり頭から抜けてたぜ。

「えーヤバイじゃん。もうサボっちゃえば?」
「いや…戻る」
「えー、どうして!?」
「行かなきゃいけねんだよ」

何故か分からないけど、行かないと行けない気がした。
どうしてだ?
の顔が見たかったのかもしれない。

「…なぁ、
「なぁに?」

走り出しかけて、後ろを振り返る。
向こうも同じくして水色の傘を翻してこっちを向く。

「もしかすると、今度大事な話するかも」
「そんなに大事だったら今してよ」
「いや…まだはっきりしてないから言えねぇ」
「…へーんなの」

ごもっとも。
でも分かんねぇんだよ、オレ自身も。
ほら、オレってバカだから。

「じゃっ」
「武!」
「…なんだ?」

再び駆け出そうとして呼び止められる。
はなんだか濡れて見えた。
雨の中だからだろうか。
傘は差しているのに。

「…やっぱなんでもない。日直頑張ってね」
「サンキュ。それじゃあ…ゴメンな」

言い残して、走り出した。
オレはもう振り返らなかった。

どうして謝ったんだろう。

一緒に帰れなくなったから?
……違う。

オレ自身も感じてるのかもしれない。
やっぱり…これ以上長く続かねぇよ、オレ達。
今気付いた。ずっと引っ掛かってたこと。


オレの頭の中は、アイツのことで一杯なんだ。




  **




上りなれた階段を駆け上がる。
そのときの気分は、まるで遅刻ギリギリで教室に飛び込むときのよう。

教室の中から明かりが見える。
そして、見慣れた後ろ姿。

「…よっしゃ、間に合った!」
「あ、桃城!!」
「途中で思い出して帰ってきた」
「もうほとんど終わっちゃったよ」

日誌を掲げながらは言った。
オレはの前の席の椅子をまたぐようにして後ろ向きに座った。

「お前丁寧なのな。他のクラスはもうみんな帰ってたぜ?」
「二人でやればもっと早かったかもね〜」

…もっともで御座います。

今の皮肉、結構応えたぜ?
オレは空笑いをするしかその場を切り抜ける方法は無かった。

「あ、そういえばさ。今日の日にち書いてて気付いたんだけど」
「?」

にこりと笑うと、は言ってきた。

「あと一週間だね、誕生日」
「――」

何でコイツが知ってるんだ?
そうか、のために聞き出したんだな。
そのときの記憶がまだあった…それだけだろ。

突然のことに返事を出来なかったオレ。
それに対しては心配そうな表情で見上げてきた。

「…あれ、違ったっけ?」
「いや、あってる。よくお前知ってたなぁ」

…やめろよ、そんな表情。
オレはそっちを見ないままに返事するのが必死だ。

だって、さっき気付いちまったから。
オレが好きなのは…きっと、じゃなくて――。

「なんかね、忘れられなくて」
「え?」
のために聞き出したはずなのに…私自身が忘れられないよ」

はそう苦笑を見せてきた。
それって…どういう意味だ?

書ーけたっと、と言いながらは立ち上がった。
荷物を鞄に仕舞うと、一つ息を吐いていってきた。

「…どうせすぐ夏休みになって顔合わせなくなるだろうから、今言っちゃおうかな」

の後ろの窓からは、雨がさっきより大降りになっているのが見えて。
背景と同化して見えるは、
さっきの以上に濡れていて、そして冷たそうに見えた。

「ちょっと早いけど、お誕生日おめでと。それから…」

次の言葉を聞いて、オレは固まった。



  スキダヨ。




「――」
「じゃあねっ!私が日誌出しとくから…」

鞄を拾い上げるとオレに視線を合わせず教室を出ようとする
オレは凍結から解けて振り返ると腕を掴んだ。

「言い逃げはよくねぇな、よくねぇ…っよ!」
「わぁっ!!」

走って行こうとした
その腕を無理矢理に掴んだものだから…豪快にすっ転んでくれやがった。
腕を掴んでいたオレも、引っ張られるようにして共に転ぶ。

教室の中。
机と椅子に阻まれた空間で。
オレたちは一つ、深い口付けを交わした。

「待っ…!」

抵抗するも何のその。
オレは力尽くで押さえつけると何度もキスを繰り返した。

駄目だ。
ここまで来るともう止まらねぇ。
そのまま勢いで制服のリボンに手を掛けた時――。

『パァン!』


………。

そんなに力は込められてねぇと思うけどよ。
結構痛いんだな、平手打ち。

「見損なった!」
「……」

まあ、その気持ちも分かるけどよ。

「どうしてこんなこと…どうしてキスなんか…したっ!?」

の目からは涙が。
おーおー。オレってば女泣かせ。結構やり手じゃん。

ってそんな場合じゃねぇよな。

「私が好きだって言ったから…だからなの!?」
「まあ簡単に言っちゃうとそうかもな」

飄々と切り返すと、は更に声を張り上げた。

「…最っ低!どういうことよ、それ。つまり女なら誰でもいいってことでしょ!?」
「違ぇよ。別にオレはそんな…」
「違くない!が告白してもあっさりOK。私が告白したら、こんな、こと…っ!」

は制服のリボンをギュッと掴んでいた。
手が震えてる。
俯いた顔からは流れる涙も見える。

なーにやってんだオレは。


「……
「………」

あー、無視ですか。そうですか。
まあしゃあねぇけどよ。

「じゃあ…これは独り言だから。聞き流してくれてもいい」
「……」

は小さく頷いた。
独り言だって宣言してるのに返事するなんて。
全く律儀なヤツだな、コイツ。

「……オレ、と別れる」
「!?」
「もう続かねんだよ、オレたち」

これにはさすがのも顔を上げて言葉を返してきた。

「なんで!?今日も一緒に帰ってたじゃん!私見たんだよ、桃城が7組の教室行くの」

本当だったら連れ戻して日直やらせるところだけど、
と仲良くやってくれてるんだったらそれでいいって…それで行かせた。

はそう言った。一字一句間違いなく。

「我慢して見届けた私は、なんになるのよ…!」


確かにな。
本当に自分のしたことが恨めしいぜ。
何も言い返せねぇ。

でもこのまま自分の思いを伝えられずに終わるのは、癪ってもんだ。


「……何」
「きっとオレは、ずっとお前のことが好きだったんだな」
「え……?」

そんな顔してみるなよ。
こっちまで情けなくなるじゃねぇか。

「きっとそれものためだったんだろうけどよ…。ある時からさ、
 お前がよくオレに話し掛けてくるようになったじゃん。質問持ち掛けて。
 教室で話す機会とかも増えて…楽しかったんだぜ?オレも。
 それでお前に呼び出しくらって場所に行ってみれば、いるのはお前の親友じゃん」

二人の間に走る沈黙。
背中からは水の音が聞こえる。
さっきより些か雨脚を強めて。

「驚いたぜぇ、あの時は。結局断れなかったし」
「……」
「どうしてだろな。もしかしたら…お前の笑顔が見れなくなるのが嫌だったのかもしれない」

言ったとき、はオレに飛び付いてきた。
胸に顔を埋めて。
叫びに近いような泣き声で。

「自分勝手!」
「…分かってらい」
「私傷付いた。も傷付く」
「本当に馬鹿したと思う。反省してる」

涙で濡れた顔を上げると、は訊いてきた。

「さっきの言葉は…本当だよね?」
「え?」
「私もむっとして酷いこと言っちゃったけど…」


 ダイスキ。


言ったときのの表情をオレはきっと一生忘れられないと思う。
涙で濡れた瞳は綺麗に輝いていて、でもどこか淋しげで。
再び開いた口から出た言葉は半ば投げ遣り気味に吐き捨てられた。

「アンタもバカだけど私もバカ!こんなバカ好きになるなんて…私バカすぎ!!」
「…あんまりバカバカ言うとオレだって傷付くぜ?」
「五月蝿い!お相子だっ!!」

その通りだ。
オレには何も言い返せねぇ。
でも…コイツは確かに言ったんだ。

「本当に…オレの事好きで居てくれるのか?」
「そうじゃなかったら…私だってこんなに傷付かずに済んだわよ」

その言葉を確認して、オレ達は再びキスをした。
そして今度は、無理矢理離されることもなく。

その状態のまま、オレは制服のリボンを解いた。
ゆっくりと口を離すと、意地悪な声で問い掛ける。

「こんなことしちゃっても許されるわけ?」
「…特別に許可する」
「どーもっ」

しゃくり上げながらも言ってくる
なんか可愛いやつじゃん、コイツ。
とかなんとか思いながら完全に取り払う。
肌蹴た胸元は、なんとも言い難く、綺麗だった。

「へー。お前着痩せするタイプなのな」
「やっ!…バカ!!」

顔を真っ赤にして腕で隠そうとする
オレはそれを軽くどかすと、笑い交じりに言ってやった。

「そーそー。オレって本当にバカなんだよな。でも……」
「んっ…!」
「タイプだぜ」

現れた肌にそっと舌を這わせる。
ぞっとするほどきめ細やかで戸惑いすら覚える。

しかし…これからどうすればいいんだよこりゃ!?
勢いに任せて大胆な発言しちまったけど…。
オレもこれまた童貞である訳でして、
きっと向こうも処女なんだけどそれを破るのはまたオレで有り…だーちっくしょう!

やっぱりバカだから考えるのはよそう。
日本男児桃城、野生に生きることを決意。

「外すぜ」
「うん…」

ついに下着に手を掛ける。
しかしなんだ…このわけの分からん構造をしたものは!
外す方の身にもなってみろよ…。
誰だ、こんなものを作ったのは。
どうせブラ=ジャー博士とかそんなヤツだろ。

「じれったいもの着けんなよ」
「知らないよ…そんなの」

言いながらはむくっと起き上がった。
げっ、怒ってる!?
と思ったら…自分から外してきやがった。
背中に後ろ手回しているその姿は、
なんというか色っぽかったわけだ。

「お前って…意外とやり手?」
「五月蝿いなぁ。やるならちゃっちゃとやっちゃってよね」
「…ホントいい性格してんな、お前」

そんな会話も交えながら、行為は進んでいく。
でもやっぱりどうすりゃいいのかわかんなくて、
随分と手間取ったままだけど。

とりあえず、下着も外していただけたわけだし、
セーラーの下でもお邪魔するか…。

と、制服を捲った瞬間。



それから暫くの記憶が、オレには、ナイ。



ただ断片的に覚えてるのが、
無我夢中になっての全身に手や舌を這わせたことや、
いつの間にか繋がっていたオレ達。
そして、その最中にに「武」と呼ばれたことも覚えている。
一瞬違和感を感じて、ああ、にそう呼ばれてたっけ、
とか妙に冷静な部分があったりして。

気付くとオレは疲れた身体で壁に座って凭れていた。
はオレの学ランを下に敷いて床に寝てた。

結局お互い一回もイケなかったな、ってことに気付いた。
やっぱりオレの技術不足かね、と思いながら
とりあえずその体制のまま自分でヌいた。







その後オレはちゃっちゃと身支度をして、
寝たまま起きそうにないを抱えて職員室まで行った。
日直の仕事をしてる最中でこいつが倒れたから保健室に行ってて遅くなったとか、
なんとか凌ぎ通せる言い訳を無理に作ってその場は切り抜けた。
一応バレなかったっぽいので、よしとする。
(バレたら自宅謹慎…いや、退学か?それ以前にオレ達の名声がなぁ)




オレの背中には鞄を二つに女が一人。
寝た人間を自転車の後ろ座席に乗せるわけにもいかず。
仕方なしに今晩は自転車を学校に放置することにした。
あんなことをしてる間に雨がやんでくれたのがせめてもの救いだ。

明日の朝は越前と一緒に持久走かな。
アイツ文句言いそうだなー…と。


「……ン?」
「お、起きたかお姫様」
「うん……おはよう」
「おう。グッモーニン」

はは、コイツさては寝起き悪いタイプだな…と笑っていると。
耳元で突然叫び声。

「うわぁー!!」
「げっ!鼓膜破れるぜお前!?」
「あ…ごめん」

は照れた笑いを浮かべた。
とりあえず下ろして、というので背中から下ろしてやると、
そのまま地面にへにゃへにゃとへたり込みやがった。

「うわ、どうしたんだお前!」
「…腰が立たない」
「無理すんなよ…よっと!」
「ごめん」

雨がやんでるとはいえ濡れてるものは濡れてる。
お陰で制服はびしょ濡れだ。
元々スカートなんか色々と伝って染みが出来てんのによ。
(ちなみにその色々というのが何かというのは訊くのは禁止だ)

「まあ、あと学校も数日しかないのが救いだよな」
「うん…」

オレは二つの鞄を持って、左では人を支えて、そのまま歩く。
正面に赤い太陽が見えて、後ろに流れていく黒い雲が皮肉にさえ思えた。

「とりあえず学校がある間に…に決着付けとかなきゃな」
「私も…どうやって説明しようかね」
「本当のことを言うしかねぇだろ」
「まあそりゃそうだけどさ」

一回使ってしまったがために濡れている傘を右手でグルグルと振り回す。
あーあ。なんともやり切れねぇな。

「…ね、23日ってテニス部も部活あるでしょ?」
「ん、ああ。あったと思うぜ」
「じゃあさ、バレー部も確かあったと思うから…お祝いはその日にもう一回ね」

笑顔で言ってきた。
オレはコイツの笑顔が純粋に好きだと思う。

全く、幸せなこったな、オレも。

難しいことを考えるのは苦手だし、嫌いだ。
だから、ありのままで行くしかないと思う。



…そうだ。
23日、アイツがオレの事を正式に祝ってくれたら。
そうしたら、こう言ってやろうと思う。

オレがをそう呼んだように。
アイツがオレの事をそう呼んでくれたように。


”って、名前で呼んでやろうと思う。


それでアイツが笑顔を向けてくれれば、それが最高のプレゼントだ。






















桃ちゃんBD記念ってことで。
本当はBD当日の話だったはずが、学校もう終わってるじゃん!
ってことで一週間前の話にした。泣っ!笑っ!(笑っちゃった…)

きっとこの物語の真相を語ったら冷めるので語らない。
と、意味深なことを書いてしまったので多分書かざるを得ない。(何)
真相を語るというか…今度の展開の予想。
結局桃ちゃんが友人ちゃんに申し訳なさとか感じちゃって、
今は主人公ちゃんのことがはっきりと好きなんだけれども、
でも情が移っちゃったというか、嫌いにはなれないんだよ。
主人公ちゃんと二人で話したりしてても、
どっかしらで友人ちゃんが出てきたり、比べちゃったり。
全く不器用だね、桃ちゃんてば。(超勝手)
でも学生時代はずっと主人公ちゃんと付き合い続けるのさ。普通にラブラブ。
なのに同窓会とかで友人ちゃんと夫婦として登場。爆笑。(笑うな)

でもまあ、それは関係なしに。
キャラ視点の裏ドリは初です。なんか疲れた…。
とりあえずおめでとう桃ち!


2003/07/21