* 焼きそばパン。 *












事の始まりは、ある日の午後。
全ては一つの焼きそばパンから。



昼休み。

「…あ、あれ!?」
「どうしたの、
「ない!お弁当が…やだ、鞄に入れるの忘れたんだ〜」

鞄の中をがさがさと漁る。
でも入れていないものはあるわけがない。
そうだ…今日の朝寝坊して焦ってて。
それで忘れてきたんだ!

「ちょっと購買行って適当に買ってくるね」
「早くしないと売れ切れるよ」
「分かってるって」

そうして私はパタパタと廊下を駆け抜けた。

相変わらず今日も繁盛してて、
購買の前には長い行列が。
静かにその一番後ろに並ぶ。
すると、遠くから凄い勢いで走ってくる男が!!

「おばちゃーん!今日もハムサンドにカレーパンにそれから…」
「いいから並んどくれ!」
「勿論焼きそばパンも必須だぜ」
「はいはい」

な、なんなんだ…。
周りからは、「今日もだよ」「もう名物みたいなものだよね」
なんて会話が聞こえてくる。
常習犯ってわけ?不思議な人…。

私は唖然として後ろに並んでくる男の顔をマジマジと見つめてしまった。
すると、目が合った。

「ん?お前あんまり見かけない顔だな。1年か?」
「し、失礼ね!これでも一応2年生ですっ!」
「なんだ同い年かよ」

な…なに、この人。
こんな失礼な人間がこの世の中には存在するものなの!?

「自分がちょっと背が高いからって調子に乗って…」
「そんなことはないぜ。オレだってテニス部レギュラーの中じゃ、
 下から数えたほうが全然早いんだぜ」

それはテニス部に凄い人が多すぎるだけだからでしょ…と思った。
だって、テニス部のレギュラーのことはよく話に聞く。
周りの子みんながカッコいいって騒いでる。

でもこんな人も…中には居るのね。
傍若無人っていうかなんていうか。

ところでこの人もレギュラーって言ったわよね。
つまり…結構凄いわけだ。
噂で聞く限り、2年レギュラーは二人だけだから…。

「海堂薫…桃城武…」
「あぁ?」
「…どっち?」
「お前なぁ、オレをアイツと一緒にするなよ!」

突然叫んだかと思うと、
親指でビシッと自分のことを指差し高々とこう言い放った。

「青学2年、男桃城。ヨロシク!」
「は、はぁ…」

私は頷くことしか出来なかった。
なんなんだろう、この人…。

「大体、オレ薫って顔してねぇだろ?」
「あ…確かに」
「…清々しいほどきっぱり答えてくれるヤツだな」

そんなこんなで談話を続けているうちに、私の順番がやってきた。

「えーっと、焼きそばパン一つと…あと苺ミルク」
「あいよ」
「お前それしか食わねぇのか、死ぬぞ?」
「五月蝿いなぁ…」

後ろから覗き込みながらいちいち口出してくる。
ちょっとは静かになれないのかしら。

それにしても…桃城武か。
名前はよく聞くけど、話すのは初めてね。
関わったことなんて全然なかったし。

「お、あんた運が良いねぇ。焼きそばパンはこれが最後の一個だよ」
「ホントですかぁ!」
「何ぃー!!」

……本当にやかましい。
よく言えば明るく元気、
悪く言えば五月蝿いの一点張り。

「ちょっと待てよおばちゃん、オレが先に予約しといたろ!」
「でも並んだのはこの子が先だから」
「かぁーっ!一日一個は焼きそばパンって決まってるのによ!」
「はい、お釣りね」
「どーも」
「って無視かよ!!」

騒ぎ立てる桃城武を無視して、
私はさっさと教室に戻ろうとした。
すると…。

「おい、お前」
「何よ」
「名前は?」

一瞬嘘の名前でも教えてやろうかな、
と思ったけど素直に答えることにした。

「……
「よし分かった、。ちょっと待ってろ」
「え、どうして…っ」
「えっと、カレーパンにハムサンド、ジャムパンあんぱんに…お、ツナマヨもいいな!」

「……」

私が少食だって言われた理由、分かった気がする。


「お待たせ〜」
「で、なんの用よ」

機嫌良さそうに鼻歌交じり現れてきたけど、
さっさと教室に帰りたい私は素早く切り返した。
すると、コイツはこんな事を言う。

「一緒に食おうぜ」
「ヤダ」
「………」

間髪入れずに切り返すと、
さすがに向こうも何も言ってこれなかった。

「私教室に友達待たせてるんだから。行くわよ」
「オイ、そりゃぁねーだろ!」

不満の声を漏らしていたけど、特に追ってきたりはしなかった。
諦めはいいようで。スパッとしてて宜しい。

「オレ、屋上で食べてるから」
「…行かないって」

前言撤回。
この人、意外としつこい。


でも、絶対行かないんだから。








、お待たせ〜」
〜、もう食べ終わっちゃったよ!」

は笑いながらそう言った。
空っぽのお弁当箱を見せながら。

「それにしても遅かったね。そんなに混んでた?」
「いや、それが…」

事情を話すこと、約2分。


「何やってんの!!」


私は友人に鉄拳を食らうことになる。

「え、何よ…」
「分かってるの、テニス部レギュラーの桃城君でしょ!?」
「は、はぁ…」

私はひたすら気迫に押されるのみである。
そういえば、ってテニス部の追っかけだったっけ。
本命は手塚先輩…とかなんとか言ってたけど。

「折角お近付きできるチャンスなのに!」
「えー、アイツ性格悪い」
「そぉ?テニス部レギュラーの中では一番話しやすいって有名だよ」

周りのどんな声にも応えないで凛としてる手塚部長もカッコいいけどv
はなんだか惚気ていたけどそれはさておき。

そうね…。
私が初対面の男であんなに気兼ねなく話せたのって珍しいかも。

「どうせならこの焼きそばパンもあげちゃえばいいのに」
「いやよ!私のお昼ご飯」
「とーにーかーくっ!今すぐ行ってくる!!」
「は〜い……」

なんでこうなるんですか…。







結局、私は屋上の階段を上っている。
にさえ言われなければ、こんなところ…。


『キィ』

「―――」


開けた世界は、颯爽としてそれでいて鮮やかだ。
まず視界にパッと青い空が見えた。
その中に浮かぶ白い雲。
一歩踏み出すと、視線を遮る眩しい日差し。

「んっ…」

半目になって見たその先には、
桃城武が、居た。

「お、!やーっぱりきてくれると思ってたぜ」
「気安く呼ばないでよ」

とかなんとかいいつつ、
ちゃっかり横に座ってる自分。
…どうしたものか。

「で、どうして呼んだわけ?」
「ん?あ、ああ」

あんぱんの袋を開けようとしたところで、
桃城はこっちを向き直して言ってきた。

「焼きそばパン分けてv」
「却下」
「………」

やはり間髪入れず切り返す自分。
なかなか毒舌ぶり発揮。

「お前…本当に容赦ねぇな」
「お生憎様」

私も早速袋を開けて焼きそばパンに噛り付く。
それを、じーっと見てくる桃城。
た、食べにくい…。

「…何よ」
「いやぁ、美味そうだなぁーと思ってな」
「あげないわよ」
「分かってるって」

……しっかし、
こうもじろじろと見られると本当に居辛いもので。
やっぱりこなきゃ良かったかも。
に勧められてきたんだけど、面白い話の一つもありやしないし。


「…あ、飛行機雲」
「え、どこどこ?」

言われて、指差された方を振り返る。
私の座ってた方向からほぼ真後ろ。

青い空を切り裂いていくような、
真っ直ぐではっきりとした白い線。
それを作り出していくのは、
陽光を浴びて銀色に光る機体。

「はー…凄いねぇ」

思わず完全に見入ってしまう。
昔から好きなんだ。飛行機雲を見るのが。
飛行機に乗ったことは一度もないんだけど、
高い空から地球を見下ろしながら、
白い雲を棚引かせながら飛んでみたい…。
そう小さい頃から思ってた。

感傷に浸っていると、前から現実に引き戻される声。

「…お前隙有りすぎ」
「えっ……はぁ!?」

表を向き直ると、
30cmほどの位置に桃城の顔。
その口は、私が無防備に胸の前で持ちっ放しにしていた
焼きそばパンへと繋がっていた。

「わっ、私の焼きそばパン!」
「んん〜やっぱ美味ぇー!」


…やられた。

私はその瞬間にそう思った。


だって、結局一口とはいえ取られちゃったし。
あまりにも近くにあった顔に驚いて顔が赤いし。


「どうせなら両方側から同時に食ってってみる?ポッキーじゃなくてヤキソバパンゲェーム」
「っ!調子に乗らないでよね!!」
「あってー!」

振り上げた拳をそのまま振り下ろす。
勢いに乗りすぎてちょっと力篭もっちゃったりして。
痛いのはこっちだ石頭!と言いたかったけどそれは押し込めて。


「大体無断で食べるなんてどうかしてる!」
「だって言ったってお前分けてくれなかっただろ」
「…まあそうだケド」

言い返せなくて口篭る。
でも、私の焼きそばパンは私の焼きそばパンなの!!


「じゃあさ、こうしようぜ」
「?」

足の裏を合わせるようなあぐらで。
その部分を手で押さえながら。
満面の笑みを向けて、言ってきた。


「今度奢ってやるからさ。だから、また一緒に食べようぜ?」


…ズルイ。
そんなこと言われて、断れるわけないじゃないの。

でも照れているのを隠すために、こんな事を言っちゃったり。
私も素直じゃないな、と思う。

「ジャムパンも追加ね」
「え、そりゃねぇだろ」
「焼きそばパンの恨みは大きい」

話してる最中、背後に見えた青い空がやっぱり印象的で。
いつか空を飛びたい、と思った。


そして私が最後の焼きそばパンを口に放り込んだとき。

「あ、そうだ」
「?」
「間接キスだな」
「っ!!」

やっぱりコイツは常識外れだ、と思いながら。
でもそれでもいいんじゃん?なんて。






「それじゃあな!」

食べ終わった後、一足先に屋上から居なくなった桃城。
私は一人、青い空の下に居た。


今度また焼きそばパンを食べるときは、こんな空の下がいい。



そんなことを思いながら、立ち上がると大きく深呼吸をした。





 きっと、恋はあの瞬間から

  どちらともなく始まっていたんだ。


 そしてそれを引き起こしたのは、



    たった一つの焼きそばパン。






















あーもう普通に当日に執筆しまくってるぜ自分!
だってよぅ。色々忙しくってよぅ。(ホントか?)

なんか自分勝手やってますが。
桃ちゃんドリームだぜ。イェイ。
誕生日とか関係ないのは毎度のこと。
そういえば去年のもそうだったね、笑。

焼きそばパンというと山○さんを思い出してしまうのは私だけですか?
(分かる方だけ分かってください)

それじゃあこの辺で。
とにかく桃ちんハピバでっす*
BGMはJUMPでどうぞv(笑)


2003/07/23