* Violet *
「ん…?」
「どうしたぁ、越前」
「いや…そこに花」
コートの隅。
リョーマがしゃがみ込んだそこには紫色の小さな花。
「おー、こりゃスミレじゃねぇか?」
「へー。詳しいっスね」
「…これぐらいは人間として常識だろ」
「にゃーにやってんの?」
一つの花を見て話す二人。
そこに面白いこと大好きー、な菊丸が参入。
そりゃあ、コートの隅に二人でしゃがみ込んでいたら気になるであろうが。
桃城はその花を摘むと、目の高さまで持ち上げて目を寄せた。
「でも、こんな所に生えるなんてねぇ…」
「あー桃っ!植物愛護精神が足りないぞ!」
「そんなこと言ってもここにあったらボールでつぶれるのがオチっスよ」
騒いでいるうちに、人は更に増えてくる。
「何やってんだ、そこ」
「あ、タカさんに不二先輩」
「こんな所にスミレだよ!珍しいよね」
「スミレか…」
顎に手を当てると、不二は何かを思い起こしているようだった。
空を見上げて暫くして。あ、と人差し指を立てた。
「思い出した。スミレの花言葉」
「え、にゃににゃに!?」
「素朴…忠実に…愛、だったかな」
「うひょう!痺れるぅ!」
「何溜まってるんだ、そこ」
「あ、大石大石!聞いて、スミレの花言葉!素朴で忠実な愛、だよ!」
微妙に違うだろう、と全員が心の中で突っ込んだことはさておき。
こっちはこっちで盛り上がっているわけである。
「そういえば越前。お前あの子とはどうなってるんだ?」
「あの子って誰っスか」
「しらばっくれんなよ。よく練習とか大会見に来てるあの…」
「ああ…アイツか」
「可愛い子だよな。ああいうのを素朴っていうのかね」
桃城はリョーマを肘で小突きながら言う。
正直なところリョーマは迷惑そうである。
「それとももう一人の方か!あのいつも元気に応援してる…」
「なんでそうなるんスか」
「隠さなくていいって!全く青春だねぇ」
「そういうてめぇは不動峰のやつとはどうなってるんだ」
「げ、マムシ!」
いつの間にか大きな人だかりになっているテニス部コート…隅。
ラブラブに引っ付いているところあれば、
その様子をほのぼのと見守るものもあり、
またオーラを放ちながら喧嘩するものも居る。
「別に…オレは橘妹とは無関係だよ」
「顔赤いっスよ」
「違ぇ!これだけは違ぇ!!」
ギャーギャーと騒ぎ立てるそこ。
練習しなくていいのか、青学テニス部よ。
「海堂、今日は青紫のバンダナだね」
「あ、はあ。いつものは洗濯してるんで…」
盛り上がりが絶頂に達したとき、菊丸がまた余分なことを言う。
「じゃあ、スミレが一番似合うのはだーれだ!」
一瞬沈黙。
そして、騒乱。
「ねぇ大石、オレは?オレは??」
「英二はどちらかと言えば向日葵かな」
「えー!なんでぇ〜!?」
「不二って意外にスミレが似合うよね」
「そうかなあ」
「勿論あのお下げの子だよな、越前」
「そういう桃先輩は…」
「だから!アイツはなんでもねぇ」
「海堂は今日はスミレ色のバンダナだけど」
「別にスミレが似合ったって嬉しくねぇっス」
「似合わねぇから安心しろ」
「フシュゥゥ〜…」
周りの部員もそのコート隅に視線集中させていた、その時。
「何やってるんだお前ら!!」
「――」
テニス部顧問 竜崎スミレ先生。
「「……練習しまぁ〜す」」
「その前にそこに溜まってた奴らはグラウンド20周だ。行って来い!」
そうして皆、グラウンドを無言で走り続けたそうな。
誰も、隅に咲いているスミレなどには目もくれなかった。完。
ごめんなさい。(土下座)
2003/07/21