* TIMING! *












ボールがオレの横をすり抜けた。

そのまま地面に付くと、2回撥ねた。


「げっ」

「…あかんわこら」


途端、周りから歓声が沸き起こる。

そして、審判のコール。



「ゲーム、宍戸・鳳ペア 6−4!」



ど…どうなってんだよこれ!

オレと侑士が…負けた!?

だって相手は一度正レギュラーから外れた宍戸に

ノーコンの後輩の鳳じゃねぇか!

どうして…!


「岳人」

「…信じらんね」


後ろから声を掛けられても、立ち尽くしたまま。

足が棒みたいに固まって地面に張り付いてる。

ラケットを握った手が震えてる。


「負けは負けや」

「侑士!」

「いいからいくで」


オレは半ば引き摺られるようにしてコートを出た。

ベンチにどかっと座ると、後ろからタオルを投げられる。

頭の上に掛かったそれを掴みなおすと、顔を拭いた。

侑士は横に座ってるだけで何も言わない。


「…納得いかねぇ」

「事実は事実や」

「だけど!」


オレは侑士に食って掛かった。

だって…あれだぜ?

今日の試合はダブルス1か2かを決めるだけの試合だから良かったものの。

普段だったらそのまま正レギュラーから落とされるんだぜ?

全く、運が良かったんだか悪かったんだか。


「黄金ペアは絶対ダブルス1だろ…くそくそ。菊丸と戦えないじゃんか」

「お前は相手を意識しすぎや」

「なに!?」


侑士のことを噛み付くような視線で睨むと…コイツは笑ってた。

オレがどんな表情をしたって動じないって感じで。


「…全く。お前と居るとタイミング狂うんだよ」

「そう、それや」

「?」


突然態度を変えられた。

意味が分からない。


「どういうことだよ、それ」

「お前はいっつも相手にタイミング狂わされすぎなんや」

「う……」

「自分は自由気侭にやってるつもりが、実んトコは相手に飲まれてたりな」


…確かにその通りかもしれない。

そういうこと指摘されると言い返せないじゃんか。くそくそ。


「じゃあどうしろってんだよ」

「具体的な策は、浮かばんなぁ」

「なにぃ!?」

「ほら、また飲まれよる」

「ぐ……」


なんか…凄い自分が情けねぇんだけど。

意味分かんねぇよ、侑士。

お前と喋ってるだけでタイミング狂わされるのに。


「…オレお前とコンビ組むのやめたほうがいいのかも」

「コラ。何言いよる」


軽く叩かれてオレはそっちを見上げる。

侑士は…やっぱり笑った。


「まあ、それをカバーするんが俺の役目やからな」

「じゃあ侑士が頑張ってくれよ。オレは今まで通りやるから」

「…めっちゃ勝手やな、自分」


その言葉に対して、オレはこう返してやった。


「ま、それがオレの持ち味だろ?」


笑ってそう言うと、向こうはもう何も言ってこなかった。

なんだよ。お前だってオレにタイミングずらされてたりする?

まるでちぐはぐじゃん、オレ達。

でも、それがオレ達なりのタイミング、なのかもな。


とか思ってみたオレでした。終わり。





















ずれた間の悪さも、それが君のタイミング。


2003/07/19