* ダブル&ダブル *












「それじゃあ、私大介と帰るから」
「うん。また明日」


・・・・・・。
こうして私たちは別れた、のだけれど。


どういうことよ!!


私となぎは、本当に仲がいい親友で。
共に“彼氏居ない歴13年同盟”を組んでて。

それが一週間前。



「8組の林君と付き合うことになったのv」



・・・・・・。
瞬間鉄拳を食らわそうか悩んでやめた。

「へーそうなんだ。おめでとう」と、棒読みで言ってやった。
向こうは「本当に祝う気あるぅ?」と疑ってきた。

そんなもんないわ!

と叫びたかったけどやめた。
諦めて親友の恋路を応援することに決めたのでした。


とはいってもやはり不満が沸々と。
なぎの同盟破りー!
だったら私にいい人紹介しろー!!
なんてね。本音がポロリ。
でも、いい人なんてそうそう居ないよねー…。








――次の日。



「はぁ?デートに付き合えー!?」
「うん。今度の日曜日v」

なぎは手を組み合わせてお願いのポーズだ。
私は机をダンと叩いた。

「冗談じゃないわよ!なんで私が…」
「まあまあ。条件があるんだから聞いてよ」
「……何」

私は椅子を斜めに傾けながら聞いた。
既に断る気満々なんですが。
とりあえず聞くだけ聞いてみることに。

「向こうもフリーの男連れてくるって」
「…乗った」

嗚呼。

なんでこうなんでしょう自分…。
涙が出そうになるよ。
でも、これってチャンスじゃない?
もしかしたら素敵な出会いがあるかもよ?

「それじゃあ決まりね!あー、今から楽しみ」
「……」


そうね。
結構楽しみかもしれない。

既に私の心は期待で一杯で、
来たる日曜日に胸を寄せるのでした。






――日曜日。



「ちょっと早かったかな?」
「約束の時間まであと15分だよ」

待ち合わせの場所に随分早く付いてしまった私となぎ。
無論向こうはまだ来ていない。
いくら早く来たって意味ないのにねー。
と思っていたら。

「よぅ」
「あ、早かったねぇ」

「………!?」

予想より早く到着した相手に振り返る。
そこに居たのは…。


林大介。

池田雅也。


そういえば去年はこいつらと同じクラスだったなーとか思うのも束の間。

「(我が学年一の問題児じゃないの!!)」
「ちひろー、紹介するね」

苦悩する私を他所に、なぎは嬉しそうに自分の彼氏を紹介してくる。
そしてその連れも。


…知ってますよ。知ってますとも。
紹介されなくとも知ってますってば!!

そうだよ…8組の林君と付き合うって言ってたじゃん。
大介大介って毎日言ってたじゃん!
なんで気付かなかったんだ!?
なぎに彼氏が出来た…それだけで一杯で。
相手が誰だとか深く考えてなかった。


コイツらと…今日一日行動する…。


考えただけでどっと疲れが出た。

どうせなぎは林とベタベタでしょ?
私は…余り者同士池田とくっ付いてろっての!?

チラリと池田を見た。
すると偶然にも目が合った。
向こうはぱっと視線を逸らした。
……何よ。


「それじゃあ、どこ行く?」
「遊園地がいい!ね、いいでしょ?」

何気な仕切りやの林。
それにべったり張り付くなぎ。
…駄目だ。反対したって無駄です。
素直に従うことにしましょう。

「…私は構わないわよ」
「おれも」
「じゃあ決定だな」


何でデスカ。

訊きたかったけど答えは出ないだろうので諦めた。



…何か嫌な予感がする。


溜息を付くと、余計疲れが伸し掛かってきた。








――遊園地。


天気の良い休日ということで、それなりに混んでいた。
私、人込みってあんま好きじゃないのに。トホホ。
まさかこんなことになるとは…。


「それじゃあ一日フリーパスだし、どんどん乗っちゃおう!」

なぎちゃまは張り切ってます。
でも…私はどうも盛り上がりきれない。
……はぁ。

ところで、私と同じくしてお荷物で連れてこられた
池田くんの方は一体どんな気持ちなんでしょね?
知ったこっちゃないか。はは。


とりあえず、私たちは行動を開始した。



ジェットコースター。

「きゃー!!」
「なぎは怖がりだな」

「………」


お化け屋敷。

「いやぁー!ゾンビ!!」
「はは、あんなの作り物だよ」

「………」


ゴーカート。

「大介運転上手ーいv」
「こういうのは得意なんだ」

「…池田、もっとスピード出せないの!?」
「これ以上は無理だよ」
「えーい前の二人め、いちゃこきやがって…それクラクション!クラクション!」
「おい、やめろよ…」


お昼。

「はい、あーんv」
「やめろよお前」
「いいからいいから!」

「……おじさーん、カレー大盛り御代わり!」
「太るぞ」
「ウルサイ!!」



 最 悪 。



なんだこれは…!
これは果たして、デェトというものなのか!?
仮にもダブルデートっぽい雰囲気だが。
あんたら二人で来いよ!と言いたくなる。

池田はなんか冴えないし。ちぇっ。



「じゃあ次はコーヒーカップね」
「へいへい」

わざとやる気な下げに返事をする。
しかし私のその厭味な発言にも気付いてくれず。

「大介、二人で乗ろうねv」
「分かってるよ」
「あ、怖いからあんまり速く回さないでね」

「………」


一つのカップの中、私と池田。
なんでコイツなんかと!!
…そうか、乗らなきゃ良かったのか!?
いや、絶対無理矢理乗せられてたな…がくぅ。


『チャララ〜ンラ〜♪』

メルヘンチックな音楽と共に周り始めたカップ。
まるで花でも舞ってピンク色の背景でも見えてきそうな隣のカップに対し。



  高 速 回 転 。




「オラオラオラ〜!!」
「稲瀬、あんまり回すと…」
「高速に回すのがコーヒーカップの醍醐味ってもんでしょが!」

回り続けるコーヒーカップ。
周りの景色なんて見えやしない。
外から見てる人にもこのカップだけは人の形が確認できなかったであろう。
(たまに高速に回転させてる少年とかいるけど、傍から見ると面白いのよね)

しかし。
カップが止まる頃、私は完全に疲労しきっていた。
足元はなんだかふら付くし。
頭もくらくらしてきたわ。


「ちょ、ちょっと頑張りすぎたかな…」
「だから言ったろ」
「アンタに言われたくないわ!ゔっ…」

力を入れて叫んだとき。


ヤバイ。キた。



「おい、稲瀬…?」
「大丈夫ですから大丈夫…うぷっ」
「ホントに大丈夫かよ!?」

「ねー!次は観覧車に…ちひろ?」
「やぁ、なぎさん…」

そう笑顔で爽やかに返事したつもりですが。


正直吐きそうです。


「ちょっと、大丈夫!?」
「大丈夫ですよ。さあ次行きましょ…ゔ」
「絶対大丈夫じゃないと思う…」

五月蝿いわね池田のマサやん。
ヤケ起こさなきゃやってられないのよ。
全ては気合で切り抜けられるんだから。

と思ってたら。


「じゃあこうしようぜ。俺たちはアトラクション回ってくるから。
 マサやんは稲瀬についててやれよ。いいだろ?」
「おれは構わない」
「待って、私が構う!」
「何言ってるの。ふらふらの癖に」

…くそぅ。言い返せない。
さすがにカレー2杯の直後にコーヒーカップ高速回転はまずかったか…。

「じゃーねーvv」

手を振りながら、なぎと林大介はどこかへ消えた。
ああ…折角のフリーパス。
無駄にしちゃたまらないのに…。


「…大丈夫か?」
「平気よ」

強がって見せたけど、ホントはふらふら。
立ってるのも実は結構必死だったりする。

「とりあえずベンチ行こうぜ」
「…おぅよ」

ここは従うしかなかった。

少し離れたところにベンチを見つけ、そこに向かって歩き出す。
おぉ…世界が揺れる……。

「………ぉぉ〜…」
「ん?わ、オイ!!」

転びかける私を、池田は支えてくれた。
…サンキュー。
口に出すのは癪だけどとりあえず心の中で呟く。

そうして支えられたまま、私はなんとかベンチまで辿り着いた。
本当だったら腕なんて振り解いて自分でさっさと歩き付きたかったのだけど、
どうも今の自分にそんなことは出来そうもなかったから。
支えてくれた腕に、ちょっぴり感謝する。

「ほら」
「……あぃ」

そのまま私はベンチにへたり込むように座った。
うぅー…なんか頭痛いし気持ち悪い…。
とりあえずこのまま休むしかないか。

全く。最悪のデート(とは認めないぞこの際)が有ったものだ。
どうせ、今頃なぎと林はラブラブ観覧車の中だろうよ。
折角なら頂上辺りでキスの一つでも咬ましてから帰ってこいや。

本当に、私が来た意味はあるんですかね?
どうせ二人で行動するんだったら初めから二人でも同じじゃん。
そう考えると池田も被害者その2よね。

「ねぇ、いけ……池田!?」


……いねぇ。
辺りを見回したけど、見当たらない。

何よアイツ!
乗り物酔い(まあ自業自得なんだけど)で苦しんでる娘がいるのに、
ほったらかしにして無言で立ち去るってのかい!?
なんなんだよー。
どうせアイスでも買って帰ってくるに違いない。
吐き気と戦っている私の横で暇つぶしに食すに違いない。
くっそぅ…。

「池田め…」
「なんだ?」
「!?」

見上げると、そこに居た。
これはまたナイスタイミング。

文句の一つでも言ってやろうかと思ったら。


「ほら」
「?」

差し出されたのは濡れたハンカチ。
一瞬意味が分からず瞬きしていると…。

「それ、額にでも乗せておけば少し気分良くなるかと思って」
「あ…ども」
「あと、飲み物でも買ってくるか?」
「おー…頼もう」

言葉の使い方を微妙に勘違いしている私はそのままに、
池田は、ここから離れるなよ、と一言残すと走ってどこかへ消えた。
言われなくたって離れたくても動けないわい。

……ヘンなヤツ。

ちょっとだけ、笑ってしまった。
まあ、思ってたよりは悪いやつじゃなかったかな。
少しだけ見直してやったんだから。感謝しなさいよ。

「お待たせ!」

池田がスポーツドリンクを持って現れたとき、
私は無意識に笑顔だったような気がする。

人間って変わるものね。


受け取った飲み物を持つ私と同じベンチに池田は座った。
しかし…微妙な距離が。
まあピッタリくっ付かれても困るといえば困るのだが、
微妙に離れられるのもそれまた不自然なわけで。
しかも座り方、浅っ!!
落ち着きのないやつね…。
もっと男らしく歯をキラシャーンと光らせながら
「辛かったらオレに寄りかかってもいいぜ☆」とか言うもんでしょが。
…ちょっと勘違い?
まあ、実際そうだったら…怖いし。
挙動不審のようにそわそわしてて今一決断力に欠けるのが、コイツというか。

「あ、その…他に何か欲しい物とかあったら…」
「んーん!」

首を横に振りながら否定する。
そうね…気分も少し良くなってきたし。
でも、なんだか疲れちゃった。

「何も買ってこなくて良いから…ここ、座って」
「…?」

私は自分のすぐ隣に来るように指で指示した。
不思議そうな顔をしながら言われるがままにする池田。

ちょっと行動力に欠けるこの人だけど。
その分私が動いちゃいましょうか。

「疲れちゃった。肩貸してね」
「!」

隣にきた池田の肩にパタンと頭を倒す。
向こうは驚いてたけど、無言でそのままにしてくれた。

なんか、こういうのも悪くないかもね。



こんなヤツのこと、絶対好きになんてなれないと思ってたけど。


でも学校でいくら問題児って言われたって、
そんな警察沙汰になるようなことはしてるようには思えないし。

実際全ての指令を出してるのは林の方だし。
そんな林も実は成績もかなり良い切れ者だし。
追い詰められると頼りになったりするやつなんだから。
なぎちゃんのことは宜しくお願いしますよ。

林や荒井なんかと一緒にいるから問題児にされてるけど
(というか本人も実際に実行犯なんだけど)、
本当は一人では虫さえ殺せそうにもない、池田。
強がってるけど、本当はちょっと気の弱いやつだったりして。
でもその分、結構優しかったりするんじゃないかなーなんて。


視界に入る人々は楽しそうだけど忙しそう。
こういう風にゆっくりとするって方が、私は好きなのかも。
そう思って軽く目を伏せると、私の意識は夢の世界に入っていた。





  * * *





「あ、見つけた見つけたー!」
「お前らこんな所にずっと居たのかよ」
「いや、それが…さ」

少年の指差す自分の肩の上には、
目を伏せたまま動かない少女が一人。

「…なーるほどね」
「じゃ、上手くいったってこと?」
「……だと祈る。でも、アイツおれの事嫌ってそうだし…」
「お前もうちょっと自信持てよ」

その時その少女は、眠っていました。
意識なんて全くありませんでした。
周りの話し声も聞こえていませんでした。
夢の中で、自分の横にある暖かい存在にただ身を委ねるだけでした。

「ん……」
「あ、起きたか?」
「ちひろさーん」


ガバチャっ!


「ぅぉ!?」
「「おぉー!!」」

「……スピー」


普段から抱き枕を抱いて寝る癖のある少女は、
無意識のまま少年に抱きついているだけだったそうな。

辺りは一瞬沈黙に包まれる。
そして、笑い声。

「自信持てよマサやん」
「そーそー。この様子じゃバッチリでしょ!」
「でもコイツは寝て…」
「このプライド高い稲瀬が人前で簡単に寝るかよ」
「………」
「そだよ、ちひろは心を許してない人には絶対甘えないもん」

周りの言葉に対し、少年は照れた笑いを浮かべたそうな。
鼻を掻きながら、少し遠慮気味に。

「…サンキュ」
「じゃ、次こそは正式なダブルデートを申し込みましょうね」
「今度は双方ちゃんとした恋人同士だぜ」

盛り上がるカップル。
照れ笑いをする少年。
只管に寝続ける少女。

「だから、それまでにちゃんと告白するんだぜ、マサやん」
「え、マジかよ!」
「いやー、この様子じゃほっといてもちひろから言うわね」
「じゃあ俺はマサやんが先に言うほうにあんぱん」
「んじゃちひろにジャムパン」
「お前ら楽しんでるだろ」
「「うん」」
「…似合ってるよ、お前ら」

そろそろ閉園間近となってまいりまして、
空はちょっとずつ暗くなってまいりました。
一番星が出始めていて、それはそれは綺麗だったとか。


でも、少女は何も知らないのです。







「……あれ?」
「おー、お姫様が目を覚ましたぞ」
「おはようございまちゅー、ちひろちゃま」
「???」

私が目を覚ますと、電車の座席に座っていた。
横を見ると、池田が照れた笑いを浮かべていたりして。
今日の午前だったら「なに笑ってんのよ」と眼を付けそうな勢いだが、
何故か笑い返してしまったりして。

寝ぼけた私は
「今なんのアトラクションに乗ってたっけ?」
といっては周りのみんなを笑わせてみたり。


なんだかよく分からないうちに終わってしまったけど、
今になればいい一日でした。







そうです。私は何も知らないのです。


私が寝ている間、遊園地で3人が
どんな会話を繰り広げていたかも。

遊園地から電車までの帰り、
池田少年が負ぶってつれてきてくれたことも。

そもそも、あのダブルデート自体が、
自分の親友の好きな人が自分の彼女の親友と知った林が、
上手くくっ付けようと考えて思案したものだったことも。

数日後、普段は学食のなぎが購買でジャムパンを買っていた理由も。


何も、なーんにも知らないのです。




だけど…まあ。

私は今幸せなので、よしとします。






















マサやんBD記念!誕生日関係ないけど。(禁句)
見たことないよーマサやんドリームなんて。
また異色なものを書いてしまった…。(ブルブル)

書いてるうちにマサやんに惚れそうになりました。(爆)
考えてみると、行動が大石に被るんです!
ちょっと修正して、もう少しヘタレっぽくなるように頑張りました。
ああ…遊園地ネタ大石Ver.が書きたい。(BD祝ってるこの場で言うなよ)

マサやんの行動力に欠けるヘタレっぷり、
でも微妙に優しかったりするかもしれない。
そんなところが伝わればなーと思います。
ヘタレ代表のマサやんだって、好きな子のためには頑張るんだーい!ってことで。


2003/07/18