* Pieces *
『ああ 勝てなかっただろうな』
エージ先輩の「オレ達だけじゃあ…」という言葉に対し、
そう返した大石先輩の顔が浮かぶ。
優しい笑顔だったよな、と思う。
あの時先輩はどんな気持ちだったのだろう。
考えたけど明確な答えは出てこない。
オレはフェンスに寄りかかって空を見上げた。
「桃」
「あ、大石先輩」
「何してるんだ、こんなところで」
「そういう先輩こそ」
今日は朝練がなかった。
それなのにオレは家を早く出た。
そしてこの屋上に上ってきた。
朝一番で人が居なかった屋上は、
なんだかガランとしていたけど気持ちよかった。
「昨日の試合のこと…か?」
「えぇ、まあ…」
オレの横にきた先輩。
そっちの方を向く。
学生服の袖から包帯が覗いて見えて、
オレはパッと視線を戻した。
今、先輩はどんな気持ちで居るんだろう。
「…桃、お前には感謝してるよ」
「え……」
「昨日の試合、お前がいたから勝てた」
オレは体制を起こした。
フェンスかカシャンと唸る。
「有り難う」
言ったときの先輩の表情は、
昨日あの言葉を言って迎え入れてくれたときと同じで。
思わず訊いてしまった。
「先輩は…どんな気持ちだったんスか?」
「えっ?」
口から飛び出た言葉に気付いた後、
まずったかな、と思ったけど引くわけにもいかねぇ。
ここまできたら聞き出すしかねぇよな、うん。
「試合中、それから試合後…そして今」
「……」
「どんな気持ち、なんスか?」
ヒューと風が吹く。
壁に沿うように枯れ葉がカサカサと流れていく。
朝の空気は澄んでいて心地好い。
「まあ…悔しくないといったら嘘かもしれないけどな」
「―――」
「でも、嬉しいよ」
そう語る大石先輩はやはり笑顔で。
空を見上げながら話す様子をオレは横顔だけ見てた。
「純粋に勝てたってこともそうだし…お前が英二と力を合わせて、
それで戦ってくれたことも嬉しかったし」
「そんな…オレは大石先輩のアドバイスがなかったら、何も」
「それが嬉しいんだよ」
「――」
自分勝手な考えかな、と大石先輩は苦笑を浮かべていたけど。
こっちを真っ直ぐ見据えると言ってきた。
「3人だからこそ築けた絆で勝ってくれたってのが、嬉しかったんだ」
そのときの先輩の視線は余りに真っ直ぐで。
背けることさえままならなかった。
「カケラとカケラを繋ぎ合せれば大きく変われるように」
「……」
「それを見て…感じているのが、好きなんだ」
な、と笑いかけてくる先輩に、
オレは自分なりの笑顔を返せた。
空気は澄んでいる。
差し込んでくる陽光は眩しい。
今日はいい天気になりそうだ。
一つ一つのカケラを合わせ築いていくのさ僕等の未来を。
2003/07/15