* Nothing to do. *
『ゲーム手塚…6−4!』
「………」
これが、手塚の実力か。
改めて突きつけられてその差を感じる。
手塚は…強い。
「乾」
「――」
「いいゲームだった」
言われて差し出された左手。
それを固く握り返す。
他の者とは違い試合に使っていたその左手は、少し熱い。
「さすがだ…参ったよ」
「お前もな。本当に力を付けた」
「後半は一ポイントも取らせてくれなかった癖にな」
手を離し、眼鏡を上げながら皮肉気味に言った。
思わず口から苦笑が零れた。
手塚は表情を変えない。
その固い表情のまま、
「全力を出さなければやられていた」
と言うだけだった。
「でも今回は新たなデータが取れた。次はその上を行く」
「…楽しみにしている」
そこで会話は終わり、俺達はコートを離れる。
周りからは、拍手が響いていたことに気付く。
……手塚。
お前は、どこまで強い。
追えば追うほど遠くへ行く。
だからといって足を止めれば見えなくなってしまいそうだ。
俺はどうすればお前に追い付ける。
データは嘘を付かない。
しかしデータは進化してくれない。
最終的にテニスを作り上げるのは、自分自身なのだと。
「…全く。面白いヤツだ」
アイツを追い続ける限り。
俺のテニスはどんどん上へ行く。
追い付く付かないの問題じゃない。
俺は確実に上へ上っている。
ただ、いつかは頂点へ立ってやるからな。
そう誓った。
負けてこそ得られる強さもあるのさ。
2003/07/13