* misanthropy *












時より自分が怖くなる。

他人が怖くなる。

自分も人間なのだと思うと、余計怖くなる。


「不二」

「………」

「不二!」

「―――」


呼ばれた声にはっとする。

前に居るのは…大石。


「どうした、柄にもなくボーっとして」

「やだな。僕だって物思いに耽ったりするよ」

「そうか」


大石はくすりと笑った。少し申し訳無さそうに。

こんな大石の顔を見てると落ち着くし、好きなんだと思う。

だから今僕たちはこんな関係に居るわけで、

そしてこれからも変わらないと思っていた。


だけど――…。



「ねぇ、大石」

「ん?」

「英二が羨ましいと思ったことはない?」


訊くと、大石は顎に手を当て少し悩んでいた。


「羨ましい…か。特に思ったことはないけど。どうしてだ?」

「なんか天真爛漫っていうか…無邪気でさ。世界中なんでも愛してるって感じ」

「確かにそれはいえるな」


天井を仰ぎながら大石は言った。

そしてすぐ笑顔になって微笑みを浮かべる。

きっと今頭の中には元気な笑顔で飛び回ってる英二が浮かんでいることだろう。


「でも…それが不二には羨ましいのか?」

「うん。とっても」

「んー…俺はそうでもないかな。一応、俺自身この世界は愛してるつもりだからね」


ちょっとくさかったかな、と大石は照れ笑いをした。

そうしていつも笑顔を浮かべていられる大石も羨ましくなってくる。

君が笑えば笑うほど不安になる。


「じゃあ、僕のことは?」

「ん、何がだ?」

「………」


訊き返してくる大石に、僕はひたすら視線を向けた。

大石のことだから、とぼけてるんじゃなくて本当に分かっていないのだと思う。

それでも睨み続ける僕に、やっと気付いてくれたらしく

軽く溜め息を付くと


「分かってるんだろ」


と言った。



でもね、大石。

僕には分からない。分からないんだよ。


君が僕を愛してくれている。

仮にそれが真実だとしよう。

でもそう思えばそう思うほど、

僕が君を想うことが不安になる。


僕は純粋に世界を愛せない。

人間誰も愛せない。

こんなことを考えている自分が嫌い。

明るく笑う君たちが羨ましくなる。



 コノヨノスベテガ コワインダ―――。





















人間不信。不二は黒くも繊細にヨロシク。


2003/07/12