* last or last? *
静かだ。
周りはシンとしてる。
大会が終わったから?
それで人が居なくなったから?
そもそも、終わったのって大会だけだっけ――…?
「泣くな」
「――」
その声でハッと目が覚めた。
前を見ると、橘さんが立っている。
ボールを打ち合う音。
人々の笑い声。
なんだ、全然静かじゃないじゃん。
周りからはすすり泣く声まで聞こえてくるし。
情けない。よく人前で泣けるね。
――…どうして泣いてる?
「まだ終わってないだろ。お前らは2年だ」
「だって!橘さんは…」
「俺は俺でテニスは続ける」
横で神尾が声を張り上げる。
あーあ。涙ボロボロじゃん。
ところで…。
終わる?続ける?
何のこと?
「俺はお前たちとテニスをすることが出来て楽しかった。
ここまで勝ち上がれたのもお前たちがいたからだ。感謝するし、誇りに思う」
2年側から上がるのは、すすり泣く声だけ。
「この思い出を連れて、俺は高校へ上がる。何も終わっちゃいない」
夏の日差しが眩しい。
今日は嫌に太陽が明るい気がする。
目が焼けるような感じがするし、普通に熱い。
全く、なんだよ。嫌になるなぁ。
「ほら、帰るぞ。明日も練習は今まで通りだからな」
「…ハイ」
返事をしたのは森だけで、他は頷いただけ。
そういう自分は、微動だにしなかった。
涙を流したその姿のまま、方向を変えて皆歩き出す。
だけど空白状態のこの頭が、体を動かしてくれない。
どうして――…?
「深司」
「………」
橘さんに声を掛けられても、動けない。
視線だけは上を見上げるようにして。
「行くぞ」
後ろからポンと頭を叩かれる。
その勢いで少し下を向いた。
そして、漸く気付く。
はい、と小さく返事したはずなのに、
出てきたのは掠れた空気だけなのが悔しかった。
また何も聞こえなくなった。
世界は無音になった。
早くこんな状態を抜け出したいと思いつつも、終わりには来てほしくない。
そんなことを考えている自分は情けないと思った。
橘伊武だけど橘さん総受。笑。深司は泣かないだろうねぇ。
2003/07/11