* Kidding, aren't you? *
自転車を漕ぐオレの後ろに微かな重み。
気付けばコイツが居るのが当たり前になっている。
昨日は後ろ向きに座ってた。
今朝は横向きだった。
そして今は、立ってオレの肩に掴まっている。
越前リョーマ。コイツの名前だ。
初め何回か送り迎えしていたら、
そのまま流れでオレはコイツの足代わりにされている。
まあ、それは別に構わないんだけどよ。
「桃先輩」
「ん、どうした越前?」
振り返って顔を見ようとしたけど、漕ぎながらでは上手くいかない。
オレは諦めて前を見たまま耳だけを傾けた。
「桃先輩って、海堂先輩のことどう思ってるんスか?」
「あぁ、海堂!?なんでアイツの名前が出てくるんだよ」
「いいから答えてくださいよ」
「どう思ってるって…アイツはオレのライバルであり、それ以外なんでもねぇ!」
勿論実力はオレのほうが上だからどうってことないんだけどよ、
と付け加えておいた。
越前は「ふーん」と半分興味なさげに言った。
興味なさそうに言ってるけど、きっと頭の中では色々考えてるに違いねぇ。
コイツは単純なようでどこか掴めない。
「なんでそんなこと訊いたんだよ」
「海堂先輩が桃先輩のこと好きだって聞いたから」
キキーッ!
自転車が凄い勢いでブレーキを掛けて止まった。
一瞬前のめりになって、また後ろに戻る。
「……冗談だよな」
「冗談っス」
なんだよコイツは。驚かせやがって。
海堂がオレのことを好きなんて、そんなん虫唾が走る!
マムシに取って食われちゃ敵わねぇ。
アイツはオレにとってライバル以外の何者でもない…のだから。
オレは冷静さを取り戻して再び漕ぎ始めた。
なんだか先程よりペダルに掛かる力が重くなった気さえした。
全く。
「…桃先輩」
「今度はなんだ?」
興味なさげに聞き返してやった。
コイツの話を全部真に受けてたら身が持たねぇ。
「桃先輩は俺のことどう思ってますか?」
「…今度はお前がオレの事好きだとか言い出すんじゃねぇだろな」
もう本気に取らねぇと決めた。
だからやる気なさげに聞き返したのに。
のにだぜ?
「アタリ」
キキーッ!
…また自転車が良い勢いで止まった。
衝撃で越前がオレの背中に覆い被さるようになったけどすぐ戻った。
「……冗談だよな」
「さあね」
否定してくれよ、と思いつつオレは再び漕ぎ始めた。
体全体が重くなった気がして溜め息を吐いた。
「…まだまだだね」
「お前オレの事バカにしてるだろ」
「してないっスよ」
コイツには勝てねぇ、そう確信した瞬間。
だけどこれからも暫く付き合う相手なのだから。
正面に見える夕日を見て、オレは決めた。
「越前、ちょっとバーガーにでも寄ってかね?」
「いいっスね」
ペダルに力を込めて、足を速める。
通いなれたいつもの店へ一直線。
後ろに座るやつの表情を伺おうと思ったけど、
やっぱりこの体制からじゃよく見えねぇ。
生意気で。
イマイチ掴めなくて。
それでもどこか憎めないやつ。
もうちょっとの間、冗談にも付き合っててやるか。
もっとも、冗談なのか本気なのかも、分からねぇけどな。
リョ桃は自転車と決まってるらしい。そして曖昧桃海。ワンパターンだ。
2003/07/10