* Just leave me alone. *
「……」
「どうしたの、大石」
「不二」
後ろから掛けられた声に、
自分が無意識に腹を抱えこんでいたことに気付いた。
俺は引き攣った笑いを返すのが精一杯だった。
「どうもしないさ」
「本当に?」
「……」
「やっぱり無理してる」
こういうとき、嘘を吐けない自分の性分が恨めしい。
といっても、無理な笑顔で「大丈夫」と言ったところで、
余計心配掛けるのは目に見えているから。
「どうせ他の部員の悩みでも抱え込んでるんでしょ」
確かに、俺はよく相談役に当てられるが。
それによって他の人の悩みまで分かってしまって、時により辛い。
今回に限っては、そうじゃないのだけれど。
「本当にどうってことないから。気にするな」
「…ま、大石がそう言うならいいけど」
そうして不二が背中を向けて言ったのを確認して、
俺は一つ大きな溜め息を吐いた。
悩みの種に心配されたんじゃ、敵わないな。
心配するな。
構わないでくれ。
そう言いたい。
しかし、それ以上に離れていってしまうのが怖い。
らしくない考えだ。
だけど、それが俺の真実。
考えるほど辛いのに、考えてしまうのは何故だろう。
放れて行ってしまうのが、怖いんだ。
「大石」
「――」
「ランニング始まってるよ」
「あ、悪い」
言われて走り出す。
頬に当たる風が少し俺を冷静にしてくれるようだ。
このまま、青い空の下を駆け回って居たい。
やっぱり今日の自分はらしくないな。
そう苦笑して、前を走る背中を見た。
それほどに小さいわけでもない。
そんなに遠くに居るわけでもない。
なのに、掴めそうにない。
擦り抜けていってしまいそうだ。
触れることすら出来ないのが心配で、手すら伸ばせそうに無かった。
一人になりたい時だってあるさ。
2003/07/09