* Hope against Hope *












「うぁー、今年も雨だっ!」

「どうかしたのか?」


玄関口。

外を覗いて、思わず叫ぶ。

そこに後ろから声を掛けられた。大石だ。

オレは思わず力んで外を指差しながら言った。


「大石ぃ!ホラ見てよ!雨!!」

「別に雨ぐらい普通じゃないか」


何も気付いてない様子の大石。

オレはついつい力が篭もってしまう。


「だって大石!今日は何の日だ」

「7月7日…七夕か」

「そうだよ!去年も雨!一昨年も曇り!ここ最近ずっと七夕に星を見てにゃい!」

「そういう時期だからな」


苦笑いする大石。

オレはぷぅと頬を膨らました。


だって、一年に一度なんだよ?

織姫と彦星が巡り合うことが出来る、

365日のうちたった1日しかないチャンスなんだよ?


それなのに、毎年空は雲に覆い尽くされてる。


「こんなのってないよー」

「何かお願いでもしてたのか?」


横で傘を開きながら大石が訊いてくる。

オレは小声で言った。



「家の短冊に掛けといたんだ。大石とずっと一緒に居られますようにって」



大石は一瞬驚いた風な顔をしたけど、すぐにそれは崩されて。

優しく笑いながらゆっくりと歩き出した。


「そんな願い事なら、星に祈るまでもないのに」

「でもでもっ」

「大丈夫。英二の願い、俺には届いたから」


なっ、と大石は振り返りながら言ってきた。

そう言われると、そうかもって気がしてくる。

大石に言われると、何でも本当に見たいに聞こえちゃうんだ。


オレは小走りになって大石の傘に入った。

持ってないから入れてちょーって言いながら。


「じゃ、オレ来年のお願い事決めた。織姫と彦星が無事会えますようにって」

「はは、それはいいかもしれないな」


大石は笑った。

傘の上で雨が跳ねる音がする。

ちょっと五月蝿いけど、オレ達を一つの世界に遮断してくれてるようで、

何となく嬉しい気持ちもしなくない。


「あ、でもそのお願いをするにはまず晴れなきゃいけないじゃんっ!」


傘から顔を出して空を見上げた。

黒くて厚い雲から降ってくる大きな雨粒。

これはどうしようもないにゃ。

濡れたところがちょっと冷たかったから、また傘の中に戻った。

うへー、びしょびしょ、と呟くと、大石は言ってきた。


「大丈夫だよ。織姫と彦星は雲の上では巡り合えてるから」

「―――」

「俺達には見えていないだけで、きっと幸せだよ」


なんでだろう。

大石に言われると、どんなことだって本当に思えちゃう。



黒い傘の内。

降り注ぐ雨の中。

厚い雲の下。

広がる満天の星空を遠く彼方に。


遮断された世界の中、

合わさる唇は優しかった。



 来年こそは晴れてくれますように。

 見えない星に向かってそう願った。





















星に願いを。一年に一度の巡り合い。


2003/07/07