* 馬鹿野郎。 *












「桃城君、保護者会参加のプリント提出してくれた?」

「おー、わりわりっ!今出すよ」


学級委員である親友と、桃城の会話。

少女漫画にでも出てきそうなオーラが飛び交っています。

花とか飛んでそうです。優雅です。


「ほらよ」

「ありがと」


笑顔を交わすと、二人は離れていく。

なんかピンク色が見えます。淡ひ紅色。

これは、いつの時代の少女漫画ですか!?


「…好きなの?」

「おわっ!何だお前突然!?」


桃城の背中に声を掛けた。

図星なのかなんなのか、うろたえております。


「好きって…何がだよ」

「あの子」


名前すら出さずに、私は敢えて指で差して示した。

少し控えめなところはあるけど、結構しっかりとしてて美人。

そんなところが男子に人気らしい、我が友人。


「そんなわきゃねぇだろ!」

「だって、なんかいっつも話すとき優しげだし」

「馬鹿野郎。オレはいつだって優しいぜ」

「じゃあ私には何なのよ!?」


激しい勢いで問い詰める。

桃城ってば口を開くたびに私に掛けてくる言葉は

バカ、アホ、ガサツ女…そればっか。

これは明らかに贔屓でしょう!?


「あーそれはだなぁ。やっぱり可愛い子には優しくしないとな、男として」

「いかにも私が可愛くないって言い草ね…」

「別にそんなこと言ってないだろ」

「いんや、言ってる」


態度を見てると思う。

だってあの子を見てる桃城の目は優しいもの。

私に向けてくる目とは違う。


「ほーぅ。好きなんだね。言っちゃおっかな」

「だから違うって!」

「じゃあなんで態度が違うの」

「そんなことねぇって!寧ろみんなと扱いが違うのはお前の方…あ」

「…?」


なんと言いました?今。

扱いが違うのは、私?


ちょっと待てよ。

そうだよ。確かに桃城は誰にでも良く喋る。

でもこんなに馬鹿野郎だのなんだの暴言飛ばすのは私だけだ。


「つまり…向こうが好きなんじゃなくて私が嫌いってことかね?」

「だから違ぇって!お前意外としつけーな、しつけーよ」

「悪かったわね」


ぷいと頬を逸らした。

そりゃあ、素直になれない私が悪いんだけどさ。


だけど、好きな人の前でそれらしい態度なんてそれやしない。

だからといって、嫌いになって欲しくない。

そんな矛盾した感情。

そうだ…私は馬鹿野郎だ。


「…泣いてる?」

「んなわけないでしょ!」

「はは、そんな勢いの方がらしいぜ」

「……」


振り上げた拳は、力を抜くととパタリと下に落ちた。


「女の子らしくないってのは、分かってるけどね…」

「馬鹿野郎」

「―――」


言われたいつもと変わらぬ言葉。

今日は怒るでもなく、切ない気持ちになったのは何故だろう。


桃城は頭を掻くと、少し照れたような様子で言った。


「え?あ…なんつぅの?その…」

「?」


らしくなく口篭っている。

心成しか頬も赤いし…。

これはどういうことですか?


「いいか。オレはな、好きなやつの前ほど素直になれない大馬鹿野郎なんだよ!」

「―――」


叫び散らすと、そのまま教室から消えた。

その瞬間チャイムがなって赤い顔で帰ってきたけど。

自分の席に着いた私は、

その赤い頬をした人から目を離せなかった。


一瞬合った目はすぐに逸らされたけど。

私の頬も赤かったのかな?と少し疑問に思った。


自然に浮かんだ、笑顔。



  私達、馬鹿野郎だね。























素直になれないお年頃なんです。


2003/06/21