* 音 *
他には誰も居ない音楽室。
二人きり。
空いた窓を吹き抜けていく風がカーテンを揺らす。
電気の点いていない部屋では、哀愁さえ漂う。
『ジャジャーン……』
「へー…ホント上手だね」
「そうかな」
拍手しながら喋り私に、
貴方は照れた笑いをしながら振り返ってきた。
「うん!今度是非バイオリンも聴いてみたいなぁ。優雅で良いよね〜」
「本当はピアノの方が得意なんだけどな」
ピアノの蓋を閉じながら言う。
椅子もきちんと戻してるし。
こういうところが…なんか好き。
「私も実は昔ピアノ習ってたんだけど」
「へぇ、初耳」
「でも手先は不器用だし音感パーだし」
鳳君はくすくすと笑いながらも、
後には「今度聞かせてよ」などと言ってきた。
滅相も無い!と否定的な言葉を入れても、
どうせなら今弾いて欲しいな、などとぬかしよる。
「…ほんと下手だよ?」
「いいから」
言われて、私は少々戸惑いながらもピアノを開けた。
椅子の位置を調節して、鍵盤に手を乗せて。
久しぶりに触れたその感触に懐かしささえ覚えて。
息を軽く吸うと、曲を演奏し始めた。
貴方がピアノを弾く姿が好き。
バイオリンを弾く姿を見たい。
貴方の元から生まれた音が
私の中へ入ってくるのが嬉しいから。
だから、もっと聴いて居たいと思うんだ。
私が弾くピアノ曲。
数年前に発表会に弾いた曲しか覚えていないけれど。
それでも、音の一つ一つが
貴方に届くことを願っています。
黒と白の上を走る指は
多少は戸惑いつつも滑らかに動いた。
無数の音から連なる曲を奏でながら。
目覚めよ我が音感。
2003/06/20