* 素朴な疑問 *












それは、偶然にも好きな人と日直になって

放課後教室に二人きりで残っていたときのことです。


「まだ書き終わらないの?」

「五月蝿ぇ見てるだけのくせに」

「何よ今日の時間割も分かんなかったくせに」

「口しか動かないお前よりマシだ」


口喧嘩にも飽きて、足をぶらぶらと揺らす。

チラリと桜井の横顔を見てみる。

…カッコいい、と思う。


テニス部で言えば細眉で全体に整った顔をしてる伊武君も人気だけど、

私的にはこれぐらい凛々しい方がベター。

背が高い石田君もカッコいいと思うけど、

標準の並かそれ以下しかない私には釣り合わないと思う。


このちょっと雑に見える強い右上がりの字もスキ。

文字を間違えちゃって一回ぐしゃぐしゃって消したのに、

結局消しゴムで丁寧に消してる辺りとか最高。


すみません、先生。

不謹慎にも、遅刻の罰日直を楽しんでます。

だって、折角二人っきりですよ?

まず二人同じ日に遅刻ってのも運命感じるし。

…これは行動に出るしかないでしょう。


「ねぇ、桜井」

「ん?」

「桜井って告白されたこと有る?」


訊いた瞬間、パキっと芯が折れて飛んでいく音がした。

そのリアクション、良いねぇ。気に入ったよ。


「その反応はなんだ?当たりかね?」

「違ぇ!そんなもんねぇよ。お前が…突然変なこと訊くから」

「なんだ」


ふーん。そうなんだ。

巷では桜井人気が激しいのにね。

カッコいいカッコいい、って。

告白の一回もされたことがないのか。

それとも…その人気って私周辺だけ?

私が一人騒いでてみんなが合わせてくれてるだけ?

……大いに有り得る。


「じゃあさ、質問替えね」

「あんまり変なこと訊くなよ」

「告白したいと思う人は居る?」


瞬間、シャー芯を折る間も無く、

フリーズしたかと思ったらそのまま固まっていた。


「…あの、桜井クン?」

「お前…ヘンなこと訊くなって言っただろ!?」

「別に変じゃないと思ったケド…」


でもこの反応は…誰かに脈ありってところですね。

やっぱり、居るんだね…好きな人。


書き終えたらしく、シャーペンを筆箱に仕舞うと

日誌を閉じて桜井は訊いてきた。


「そういうお前はどうなんだよ」

「え、何が?」

「お前がオレに訊いてきたことだよ」


私が桜井に訊いたこと。

・・・・・・。

告白したい人が居るかって話か!?


「そんなの教えたくも無いよ!」

「だったらオレにも訊くなよ」

「…じゃあこうしよう。桜井が教えたら私も教える」

「なんだよそれ!お前が先だろ」


そうして、いがみ合うこと約一分。


続かなくなる言葉。

微かに色を変えた頬。

合わせているのも戸惑われる視線。



 素朴な疑問の結果は、それ以上訊くまでもなく

 お互いの中で静かに解決したと思う。























桜井君の立場って巷ではどうなのかと思いまして。


2003/06/18