* 二人の間は3センチメンタル *












「なぁ海堂」
「?」

部活が終了して、水飲み場に居た海堂。
日課となっている自主トレを始めようとすると、
珍しくも桃城が話し掛けてきた。
海堂は、眉間に皺を寄せつつ振り向いた。

桃城が海堂に話し掛けることは少ない。
そうだとしても…必ず後に待っているのはケンカである。

「…なんだ」
「ちょっとそこに立っとけ!」
「……は?」

予想外の展開に海堂はただただ戸惑うだけである。

「動くなよ。あ、背筋は伸ばしとけ」
「……?」

言うと、桃城は海堂を直立させ、
自分はそこに背中を合わせるのだった。

「!?」
「どうっスか、エージ先輩!」
「今見てるよん。あ、海堂動くにゃっ!」
「あ、スンマセン……?」

突然の事態に頭に?マークを大量に浮かべる海堂。
やってきた菊丸は二人の頭に手を乗せたりしている。
「桃の髪型反則〜」という言葉で、
身長を測っているのか、と漸く理解した。

「う〜ん…大体3cmぐらいかにゃ?」
「そうか、3cmか」
「……」

自分はもう用は無いだろう、
と海堂はその場を後にしようとした。
すると、桃城に突然後ろ指差されて言われるのだった。

「オイ、マムシっ」
「っんだよ!」

マムシと呼ばれ少々怒り気味で振り返ると、
桃城は人差し指をずいと目の前に出してきた。
一瞬焦点が合わず戸惑っていると、桃城は言ってきた。

「ちょっとオレよりでかいからって調子乗んなよ!」
「…別に乗ってねぇよ」

海堂は呆れ気味に返事をした。
くだらねぇ、こんな無駄話に時間を費やすなら
自主トレでもしたい、と思っていたら。


「コンチクショー!!」


有り難いことに、向こうの方から撤退していった。
凄い勢いで部室に飛び込むと激しい音を立てて扉を閉めた。
その後は、辺りは静かになった。

…くだらねぇ。

海堂はそう思って素振りを始めた。




  ***




「あーくっそぅ!」
「なに桃、そんなに悔しかったの?」

部室に入ってくるなりどかっとベンチに座り込む桃城。
その荒れた態度に、先ほどまで一緒に居た菊丸は
すぐに状況を察した。

「だって、エージ先輩!」
「はぇ?」
「…エージ先輩は、オレより大きいっスよね」
「ん〜、一応ね。ほとんど変わんないけど」
「ですよね」

眉間に皺を寄せつつ、桃城は額に指を当てた。
暫く悩んだ末、もう一つの質問に出る。

「じゃあ、海堂と比べてはどうっスか?」
「え?えっとね…多分、抜かれちゃったかなー…」

かぁー!と、桃城は両手を後ろに払うようにした。
ほぼお手上げ状態である。

「そう考えると、随分距離感じるっつぅか…」
「でもチラッと見たくらいじゃ分かんないよ、最近。
 入ってきた頃は海堂のほうが全然大きかったのに」
「それ…慰めのようで慰めになってないっス」
「あらん」

完全にブルー入ってる桃城を見、
菊丸は苦笑しながら横に座った。

「…そんなに、気になるんだ」
「そりゃそうっスよ!だって、ほら…ライバルだし」
「はいはい、ライバルね」
「…なんスか、その喋り方」
「にゃんでもにゃいよぉ〜ん」

ひらひらと手を振ると、
菊丸はひょいと立ち上がった。

「でもさ、桃はすぐに大きくなると思うよ」
「そう信じたいっスけどねぇ…」
「オレは寧ろ海堂に同情したいな」
「え、何でっスか?」

鞄を背負いながら、菊丸は言った。

「追いかけてるうちはいいけど、追われる側ってプレッシャーだよ」
「……」
「現にオレも海堂に抜かれちったしさ。結構ショックだぜ?」

めそめそ、と菊丸は嘘泣きをしてみせると
また無邪気な笑顔に戻って言った。

「大丈夫!成長期が遅いか早いかの問題でしょ!」
「…それもそうっスよね」
「それに…ほら!今突然桃が乾ぐらいになってたらキモイし!」
「何だって?」
「わぁっ!」

爆笑していると突然背後から現れた乾に菊丸は驚きの声を上げ、
別に乾が気持ち悪いなんて言ってないからね、とフォローを入れていた。

再び桃城の方に向き直ると、菊丸は言った。

「焦ることなんてないんじゃん?」
「それも…そうっスよね!」

桃城は笑顔になると立ち上がった。

「エージ先輩、サンキューっス。今度なんか奢ります」
「購買のヤキソバパンで承った」
「了解っス!」

警察のやるような敬礼のポーズを掲げて見せると、
桃城は元気に部室から飛び出していった。




  ***




「海堂!」
「ん?」

ランニングで丁度部室の前を通り過ぎようとしたとき現れた桃城。
海堂はまた面倒なことになりそうだ…と眉を顰めた。

まあ、予感は的中と言えずど遠からず。

「いいか、大体お前の方がオレより2ヶ月以上年上なんだよ!」
「だからなんだ」
「だからお前の方が大きくて当たり前だ!決定!!」

簡単且つ完結に台詞を述べると、
桃城は断言・言い切りの言葉を置いた。

強引なヤツだ。いや、それ以上に阿呆だ。
そう思うと呆れ笑いを越して同情したくなってきた海堂だった。

「いいかー。見てろよ。これからだからな!!」
「…うるせぇ」
「ヘン、そんな口叩けるのも今のうちだ!」

といいつつ、身長がどうであろうと二人の関係は
さほど変わりそうにないことを、桃城は理解していたが。


「待ってろよコンチクショー!」


再び叫ぶと、桃城は部室に飛び込んだ。
凄い勢いで部室に飛び込んだと思ったら、
ドアを閉め忘れているような桃城に、海堂はこっそり笑った。
閉めに戻ってきて一瞬顔を出した桃城が「笑うんじゃねぇ!」と言ったときには、
いつものように不機嫌そうな顔で「別に笑ってねぇ」と言い返したが。




「待ってろよ…か。フン」

そういう訳にはいかねぇんだよ、
と心の中で呟くと海堂は再び走り始めた。

止まっていたら、すぐに抜かれてしまいそうな気がしたから。







「すぐ追い付いて追い越してやるからな〜…」


対して桃城は、体の奥から湧いてくる自身と決意を
両手の拳に込めていた。

まだ見上げる必要があるうちは、アイツの横には並ばねぇ。そう誓って。






















桃海真ん中BD記念です。
ほとんど関係ないですが。笑。
一応二人の間を取っているというか…わかんね。

桃ちゃんが海堂のこと気にかけてるのは、
別にライバルとしてだけじゃないってオチです。
菊は悟ってるくさいですがね。
海堂は相手の気持ち分かることを恐れてるし
自分の気持ちも知ろうとしてない感じです。
もう、素直じゃないんだからv(止まれ)

それでは。
駄作ですみませんが桃海誕生祭様に捧げます。御中。


2003/06/16