* 美術芸術 *
「あれ、ボタン足りなくない?」
「あ、ほんとだ」
黒い学生服に、均等に並ぶ金のボタン。
その中の大きな空間に気付く。
数えてみると、やはり一つ少ない。
「記念にボタンをあげるにしては時期がずれてるぞぅ…」
「誰にもあげてないよ。どこかに引っ掛けたかな」
抜け落ちて隙間が出来ている部分をシュウは手で撫でていた。
私の頭の中の思考が一本に繋がる。
「よし!私が縫ってあげるよ」
「えっ?」
「うわ、なんか恋人っぽー!ボタンのほつれを直すってやつ!」
「ちょ、ちょっと待て…」
「良いから、脱いだ脱いだ!」
戸惑うシュウを急かして、無理矢理学ランを脱がせた。
黒くて、大きくて、重い。
少し温かみの残るそれを広げて手を這わす。
「こういうのは大抵替えのボタンが付いてるんだよね…」
すると、予想通り品質表示のタグの部分にボタン発見。
鞄の中からソーイングセットを取り出す。
さり気なく女の子らしさをアピール。
「絶対休み時間中に終わらすから!」
「はいはい」
くすりとシュウは笑った。
それを横目で確認すると、私は作業に取り掛かった。
さあ、まず針に糸を通すことから始めようぜ!
それに5分は費やすとしても、15分ぐらいあれば終わるわね!
そして、約20分の格闘の後…。
「……あ、あれぇ…?」
そこにあるのは、絡まった糸の塊。
ボタンは…一本ギリギリで繋がっている。
ぶらぶらと揺れて、なんとも不安定。
「こんなに時間掛かったのに…」
「どれどれ?………」
プルプルと震える私。
肩越しに覗き込んできたシュウも思わず無言。
「あ…あのね、シュウ!これは芸術なの!解る?」
「は、はぁ」
「超今風なの!ナウいの!モダンアートなの!ご理解!?」
「わ、分かったよ。ありがとう」
シュウは少し困ったような表情をしながらも、
最終的には笑顔になって受け取ってくれた。
ぶらぶらと揺れるボタンを軽く指で弾くと、
シュウは含み笑いで言ってきた。
「これが芸術ねぇ…」
「なっ!私は美術は5だよ!芸術的観点も丸付いてるんだよ!?」
「家庭科は?」
「……アヒル」
芸術作品は、私達の笑い声の中に消えた。
美的センス皆無な我。
(大稲でゴーでした)
2003/06/12