* 半分こ。 *












本日の家庭科の授業は調理実習。

男子が技術をやっている間、

私たち女子は家庭科室でクッキングです。


今日作ったのは、型抜きクッキー。


お菓子作りなんて普段はしないから、

なんだかちょっとだけドキドキする。

作る工程が楽しいのもそうだけど、

食べてもらえないかな、なんて考えてると。


焼き上がったクッキーは、

綺麗な焦げ目が付いていい匂いだった。





「(……居たーっ)」


居るも何も、その人は同じクラスなのだけれど。

今私の後ろの席に座る人。

「お前が前だと黒板が見やすくていいよ」とか言う人。

(貴方がでかすぎるんです!)


乾貞治。


あの人の瞳には何が映っているのか、

などと追いかけているうちに気付けば夢中。


手の中にあるクッキーを見る。

試食をあまりしないで、取っておいた。

何気なく食べてもらえないかなーなんて考える。


…とてもそんな雰囲気じゃない、か。


そう思って横を素通りして席に着こうとしたとき。


「それは調理実習のクッキーか?」

「え、そうだけど…」


思いがけず掛かった声に心臓がどきりとなる。

すると、丁度いい流れでこんな一言。


「一口分けてくれないか?」

「え、あ、勿論!」

「ふむ。女子の調理レベルのデータの良い参考になりそうだ」


そんな何となく怖いような発言を耳にしつつも、

私はクッキーを差し出した。

直径5cm以上ある比較的大きなクッキー。


「あ、そんなには要らないよ。少し分けてもらえればいいから」


そう言うと、大きい手でクッキーを半分に割って、

それだけを持ってどこかへ消えた。

見た目は…とか、焼け具合が…とかなんとか呟きながら。


手元に残った半分のクッキーを見つめて、

私は暫く固まっていた。



 理由はどうであれ、

 一つの丸いものを

 半分こしたみたいで、

 なんだか嬉しかった。























丸いものを分けるのは幸せを分け合うこととして抽象されています。


2003/06/03