* アイスの季節 *
「あ〜つ〜いっ!!」
全ては、私の嘆きから始まった。
「暑い暑い暑いっ!」
「そんなに叫ぶと余計暑くなるぞ?」
「う〜〜…寒いっ!寒い寒い!!」
「…虚しくないか?」
「正直虚しい」
確かに、いくら叫んでも何も変わらない。
それどころか余計暑くなってきた気さえする…。
「大体…扇風機の一つもないわけ?この部屋は」
「最近急に暑くなっただろ?まだ出してないんだよ」
「う〜…溶けてしまうわっ!」
四肢を投げ出してだらーんとなる。
このまま…融解して流れていっちゃうんじゃないですか、私。
「…ちょっと、待ってて」
「ほい?」
言い残すと、秀一郎は部屋から消えた。
…なんなんだ、一体!
「ほったらかしにしてぇ…」
呟きながら、パタパタと服を扇いで風を送った。
手の甲で額の汗を拭う。
本当に暑いな、今日は。
「ただいま」
「あ、どこ行ってたの?」
秀一郎の左手を見てみると…ビニール袋。
この近くのコンビニの物のようだ。
「…買ってきた」
「わ、ありがとーv」
中から出てきたのは、アイスバー。
思いがけず出てきたそれに、感嘆の声を上げる。
「いっただっきまーす」
「どーぞ」
二人で肩を並べて食べる。
暑さを忘れられる、ちょっとした瞬間…
と思ったら。
「秀一郎…」
「ん?」
「寄らないでよ!」
何しろ、秀一郎は私の体にピッタリと寄り添っていたのだから。
「折角涼しくなったと思ったのに!」
「その言い方はないだろ」
「だって…」
もう一度口を開きかけたけど、またすぐそれを閉じた。
斜め上にある秀一郎の笑顔と、目を合わせてしまったから。
顔を元の位置に戻すと、アイスをもう一齧りした。
これからどうやら、あつくなりそうです。
暑い日はアイスが一番。
2003/06/01