* ビルの間を *
休日。
買い物帰りのことでした。
呼ばれた声に振り返ると、
貴方が居た。
「偶然やな。買い物か?」
「うん、そっちは?」
「こっちは…ちょっとな」
「?」
休日に偶然の遭遇。
まさか会えるとは思えなくて、ちょっと嬉しかった。
でも、言葉を濁したのが気になった。
疑問を持ちながら背中の後ろを見ると…。
「誰?」
「ああ、クラスメイトや」
数メートル後ろから、女の子が歩み寄ってきた。
しかも、可愛い。
「ほなな」
固まっている私に軽く手を振ると、
忍足は歩いていってしまった。
「…そういう展開?」
なんかオチが見えて泣けてきた。
ああ、これが失恋ってやつですか?
妹だとかそういう期待はしません。
どう見ても同い年だったし。
幼馴染ってのもな。
忍足の実家は関西だし。
「…やられた」
泣くのを通り越して虚しくなった。
叫びたい気持ちを抑えて、私は歩き出した。
なんだか、足取りがよぼけていたけど。
次の日。
学校に来たのは、いつも通りの忍足。
昨日は偶然だったな、とかの話から始まって。
いつの間にか会話していた。
どうしても気になって、訊いてみた。
「昨日の、誰?」
「――」
固まる忍足。
ああ、そうですか。
なんかやっぱり、言わなくていいかも…。
「幼馴染や」
「嘘。関西から、わざわざ?」
「開校記念日で3連休やってん」
……あ、そうですか。
心配して損したかも。
「実は初恋の君とか?はは」
「実はな」
―――…。
今、なんて言いました…?
「なんですと…?」
「好きやったんやけど、引っ越しと同時に忘れることにした」
「…未練は?」
「んなこと聞くなや」
でも、表情から察するに…
満更でもないってところですか。
「でも今は、アイツよりも…」
「ん?」
「いや、なんでもない。忘れとき」
言うと、忍足は立ち上がってどこかへ歩いていった。
意味深な言葉だけを残しおって…。
「(どういう意味なんだろ…)」
言葉の意味を考えると同時に、
ビルの間で見たあの子を思い出して、
軽く溜め息を吐いた。
現実予想はこんな感じで。
2003/05/31