* ねんどみたい。 *
「あ、悪ぃ、高かった」
「大丈夫!オーライ」
それは、アキラと打ち合いをやっていたときのことです。
といっても、実力の違いは歴然なので、
私が手解きをしてもらっているような状況なんだけど。
高く上がったロブ。
大きな弧を描く。
その場で手を伸ばしても届きそうにない。
上を見上げながら、私は数歩下がった。
そして――…。
「…あでっ!」
「お前、何やってんだ!?」
ボールは、見事に私の顔にクリーンヒットした。
アキラが慌ててネット越しから駆け寄ってくる。
少し痛む鼻を押さえて私は笑った。
鼻血は出てません。セーフです。
「どうしてラケット振らなかったんだよ」
「いや、なんかアレが目に入っちゃって」
「アレ?」
私が指差した先をアキラも見上げる。
そこに見えるのは、飛行機雲。
他に雲一つない青い空の中、一本の白い筋。
「なんか見事だなぁと思って」
「お前な…」
「そうしたら今度は後ろのポプラ並木とかも見えてきちゃって」
「…らしいといえばらしいけどな」
アキラはそういって苦笑した。
私は満面の笑みを返した。
アキラはくるりと踵を返すと、
「続きやろうぜ」と言った。
その言葉に反応して、私はラケットを構える。
アキラがサーブのトスをするまでのちょっとの間。
私はチラリと上を見た。
真っ直ぐだった飛行機雲は、今はぶれて太くなってる。
形の変わった雲を見て、心にもなく呟いた。
「…ねんどみたい」
そんなことを呟いている間にも、アキラはサーブを打ってきていて。
バウンドしたボールは真っ直線に
雲に気を取られていた私の顔に向かってきていて。
そんなことを繰り返していたなんてのは、秘密です。
繰り返し遊べるねんど大好き。
2003/05/29