* Pretty Guy *












「女の子みたい」。

シンプルに、第一印象はそれだった。


小柄な身長。
甲高い声。
細い手足。
黒目がちな大きな眼。

切りそろえられたおかっぱに刈り上げの髪は
なんだか昭和っぽいだとか思っていたら
「勝郎」という名前で男の子と気付いて驚いた。

そのへんの女子よりよっぽど可愛くない?
とか思っていたら、
両手を胸の前で構えるポーズを取りがちだったり
手首を外向きに曲げがちだったり
「女子だったらぶりっこ認定されるよ?」
と言いたくなるほど、加藤くんは可愛すぎてる男子だった。




  **




「となり、さんか。よろしくね」

一学期初めの席替え、
隣になったのは例の加藤くんだった。

小テストの答え合わせとか、英語の会話練習とか、
何かとお世話になることは多そうだ。
となりが誰々くんだったらいいな〜もしくは誰々くん、
なんて少女漫画な展開を妄想していたけどこれが現実。
まあいっか。加藤くんが悪い子じゃないことは知っている。

よろしく〜と軽く挨拶をしながら、
加藤くんが机に乗せている腕がほんのり赤黒くて
皮がむけていることに気付いた。

「それ日焼け?すごいね」
「僕、テニス部なんだ。だから」

そう言って加藤くんは笑った。
日焼けを嫌がっている様子はなくて、寧ろ得意げに見えた。
でもその直後に
「といってもすぐ皮向けちゃってこれ以上焼けないんだよね」
といって頬をかく姿は、なんだか可愛らしいと思えてしまった。




  **




夏休みが終わった。

一ヶ月半会わないだけで見違えるほど様子が変わった人もチラホラ。
男子で成長期を迎えたやつが3cm近くも伸びたと
会話が遠くから聞こえてきた。
なんだか顔つきも大人っぽく見えたりして。

声変わりしてる人もいたり、
髪型変えてイメチェンしてる子もいたり。

だけど相変わらずなとなりの席のクラスメイト。

「夏休み、どうだった?」

笑顔で聞いてくる加藤。
家族旅行でハワイに行った話をしたら羨ましがられた。
だけど妬んでいる様子はまったくなくて、
むしろ自分はもっと充実していたとでも言いたげに
「僕は部活三昧だったよ。テニス部、全国優勝したんだ!」
と言った。
相変わらずの黒くなりきらない赤くくすんだ肌は
その勲章なのだろう、と私は勝手に思った。

「といっても、僕は応援だけだったけど」。
そう言って照れ笑いする姿は、一学期と変わらない加藤の姿だった。
そう思った直後に、

「来年…再来年は僕もあのコートに立つんだ!」

と言った加藤は、もしかしたら、
見えないところで成長しているのかもしれない。
そんなことを思わされた。




  **




二学期最初の席替えがあって、
席が離れると私は加藤と話す機会も減った。
クラス全員で団結するような行事はあったけど、
一学期までの距離感が不思議なくらいで、
私たちの関係ってそんなものだったんだなあと思う。

相変わらず加藤は部活を頑張っているみたいで
だけど冬を迎えて肌はどんどん白くなって
初めて見かけたときはこんなだったかもしれない、
と入学初日に見かけた美少女のような姿を思い出した。


そうこうしているうちに、もうすぐ一年が終わる。


3月に入った。
1年生で居られるのもあと1ヵ月。
後輩ができるってどんな感じだろうと
まだ見ぬ新入生たちに思いを馳せる。
その人たちは今はまだ小学生だと考えると変な気持ち。
自分も去年はその側だったのだけれど。

桜はまだ咲かないけど梅は今がピークかなあと
教室の窓から校庭の桜を見る。
今は目線くらいの高さだけれど、
来年は上の階から見下ろすことになるのか。

「何見てるの?」

声を掛けてきたのは、加藤だった。
会話をするのは、久しぶりってほどでもないけど、
なんでもない雑談を振られるのはかなり久しぶりに感じた。

「や、桜まだ咲かないかなーって」
「あーどうだろう。去年は入学式のときに咲いてたよね」

ソウダッタッケ。
言われてみたらそうだったかも?と思いながら
「そう言えばそうだったっけ」とあやふやに返事をした。

「今年は早いって天気予報で言ってたから、
 もしかしたら先輩たちの卒業式に間に合うかな」

加藤のその言葉を聞いて
大切な先輩たちに出会えたのだろうということがよくうかがえた。

校庭を見下ろしている横の加藤を、こっそり盗み見る。

声は高いまま。
背は超されてない。
顔も体格もほとんど変わってない。
だけどなぜだろう、一年前よりなんだか大人びて見えるのは。

まだまだ君の成長を近くで見ていたいな。

そんな思いが、ふと胸をよぎった。

「来年のクラス分けどうなるかな」
「どうだろうね。来年の良いクラスになるといいな。
 僕、今年のクラス大好きだったから」

真っ直ぐすぎる言葉に私が恥ずかしくなってしまった。
同級生の男子相手に
そのまま大きくなってほしい、なんて
どうして思えたんだろう。

「…どうかしたの?」
「あ、いやなんでもない!」

熱くなった気がして顔を両手で挟む私を
覗き込むように加藤は上目遣いの目線を送ってきた。

思わず私は飛び退いて、
かすかにテンポを速めた気がする心拍が
まさか君によるものだなんて気付かれないよう

「クラス分け、ドキドキだね」

と歯をむけて笑って見せた。
向こうからはいつもの可愛らしい笑顔が返ってきた。
























カチ夢20年くらい書いてないけど私はカチが好きなので。
誕生日だしなんか書きたいなーと思って書いちゃった!

男子って誕生日でワーワー騒いだりしないので
作中では明かされないけどこれはカチ誕当日という設定。

一生可愛くいてほしさもあるし
これからどうにでも成長できる無限の可能性への希望もある。
そんなカチローが私は好きなんだ。LOVE。


2024/03/02