* 二月二十九日 *












「(二月二十九日……)」


見慣れない字面だな、と
黒板の右端に書き記された日付を見上げる。

今年は閏年。
四年に一度、今日の日付が存在する日。

前回は四年前だったということは…と指折り数えた結果
そのときは小学生だったということに気付いて驚いた。


「そう、だから僕、まだ4歳なんだよね」


席に着いたとき、そんな会話が隣の人だかりから聞こえた。
元々モテる人だからあまり気にしなかったけど、
今日の不二の机はいつも以上に人で賑わっているみたいだ。

「おもしろーい!」
「中学の頃はよく英二に弄られたよ、『不二ってまだ3歳だ!』って。
 あ、英二って知ってる?」
「知ってる知ってるー!」
「二人ともテニス部だよね」

きゃいきゃいと甲高い声で盛り上がっている。
どうして女子ってカッコイイ男子の前でだけ声が上がるんだろ。
そんなことを考えながら次の授業の準備をする。

「国語」と表紙に書かれたノートを90度傾けて開く。
まっさらなそのページの右上に 2/29 と
やはり書き慣れないその文字列を記す。
ああ、今日はちょっとだけ特別な日だ、と思った。
だからといって何があるってわけではないけれど。

さっきの会話から想像するに、不二って今日が誕生日なのかな。
そんなことを考えているうちにチャイムが鳴った。
不二の机を囲っていた女子の集団は全員別クラスだったみたいで
小走りで教室から出て行った。

それをつい目で見送ってしまって、
視線を正面に戻そうとする途中で
隣の席の不二の視線に掴まってしまった。

ふい、と目を逸らすと
「ごめんね、うるさかったかな」
と言ってきた。

「別に…」とだけ伝えた。
実際、そこまで迷惑していたわけでもなかったし。
不二は気にせずに机の中から教科書やらを取り出し始めた。

そのまま、流してしまえば良かったのに。
何故だろう。
今日のいう日を、もうちょっとだけ、特別な日にしたかったのかもしれない。

「今日、誕生日なの?」

そう聞いてしまった。
不二は一瞬見開いた目をまたすぐ細めた。

「そうなんだ。閏年にしか当日が来ないんだよね」

そう言って微笑んだ。
4年に1度の年の、366分の1。
小学校以来の、誕生日当日。

素直におめでとうとか言えばいいのに、なんか言えなくて。

「中学校の間、一回も歳取れなかったんだ」

そんなことを言ってしまった。
不二はまた目を見開いて、ぷっと吹き出した。

さんでもそんな冗談言うんだ」
「別に…」

ウケを狙ったつもりはなかったから笑われたのは心外だった。
そして更に意外だったのは、そのあとの不二の対応。

「たくさん成長したつもりなんだけどなあ」

不二は大きく伸びをした。

彼の小学生時代を知っているわけではない。
中学生になってからも、遠くからチラリと見るくらいで
詳しく知っているわけではない。
だから私が何を言っても筋違いなんだろうけど。

「…別に悪い意味で言ったつもりはないから」
「ふふっ、わかってるよ」
「……お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

そう言って不二は目を細めて微笑んでいた。
そうこうしているうちに先生が教室に入ってきた。
さっき書き込んだ「2/29」の下に
改めて「二月二十九日」と書き連ねてみた。

やっぱり今日はちょっとだけ特別な日だな、と思った。
























4年ぶりのフジシュー誕当日に何もしないのは気に食わなかったので
体調不良の中仕上げた結果暗めな主人公になりました笑

本当はもっと力入れて仕上げたかったの悔しいけど
当日に祝えて良かった!不二、お誕生日おめでとう!!!


2024/02/29