* あの頃のボクらには戻れない *












「またあの髪型にしないの?」

“あの髪型”には心当たりがあった。
中学2年生のときに初めてそうして、
中学を卒業するくらいまでその髪型だっただろうか。
何かと心機一転したいときに髪型を変える癖のある俺が
後に恋人となる君と出会った、そのときの髪型を指しているのだろう。

「する予定はないけど」
「えーなんでー」
「あのときはあの髪型が一番気に入ってたんだけど、
 今はそう思っていないから…っていうので説明になってるかな」

至極真っ当な理由を答えてしまった。
いわゆるマジレスというやつだろうか。
は明らかに納得していなさそうに「じゃあいい」と言った。

「これじゃあ不満かな」

自分の頭の指差して問うと、は横で足を止めた。
釣られて俺も足を止めて、何かと思って隣を見ると
背伸びをした小さな体から腕がこちらへ迫ってきた。

「普通にかっこ良くてムカツク!!」

そう言いながら髪をくしゃくしゃかき回された。
おい、これでもちゃんとセットしてるんだぞと
その腕を掴んで制すると、
目線は合わなくて口先は尖っている。

キミの笑顔が一番好きだけど、
これはこれで。

「……ヤキモチか?」
「バカッ!」

そう罵られたけれど、
本気で怒っていないことには気づいていた。
否定されなかったことも。

が心配するようなことは何もないよ」
「そういうんじゃない!」

俺は笑ったけど、は一切笑わなくって。
だから俺も、声のトーンを一つ落とした。


「髪型を戻したところであの頃には戻れないよ」


俺の台詞には「別にそんなつもりじゃ…」と返してきたけど、
その言葉尻はすぼんだまま消えた。
ふぅと、一つため息。

「でもわかるよ。俺もあの頃がひどく懐かしく感じることもあるから」

そう言う俺の目を覗き込んできていたは、
わかりやすく眉間に力を込めて俯いた。
眩しいものでも目にしたみたいに。

もう取り戻せないから眩しく感じるのだろか。

「私、秀一郎がどんな髪型でも好きだから」
「うん、わかってる」
「わかってるって何」
「俺もがどんな髪型でも好きだから」

そう言って微笑みかけると
「そういうとこー!」と言って肩をポカポカと叩かれた。

最愛の恋人を笑顔にするのは難しいものだ、と思ったけれど、
背けた顔の口元がわずかに緩んでいることを確認して
横で揺れる手を取った。
























髪型が変わった途端に大石にすり寄ってくるやつらから大石を守らねばならんのよ我々(大石オタク)は(笑)

10年後x2って言うけど
結局あの頃(と書いて中3と読む)が一番尊いんだから。


2023/04/25