「ジロちゃん、帰りの会終わったよ!」 肩を揺さぶるけれど、隣の席のその人は気持ち良さそうに眠っているばかりで全く目覚める気配がない。 まったく。 ふうと一つ溜め息を吐いて、もう一度だけ肩を揺すって見て、やっぱり起きなくて、そろりと周囲に目配せして、誰もこちらを見ていないことを確認して、頭を、ぽんぽん、と軽く叩く。やっぱり起きない。くせっ毛の髪がそっと指に絡んでくるくらいで。 はやく起きなよー、なんて呟くくせに、心ではそんなこと願ってなくて。 ずっと、このまま――。 「跡部の声だ!!」 「わっ」 ガバッと勢いよく体を起こすのに驚いて手を引っ込める。今の、気付かれてないよね。 「今日は跡部と試合してもらう約束なんだC〜!」 そう言って机の中身を無造作に鞄に突っ込み直して「あとべぇ〜!」と廊下に飛び出していくのを見送った。取り残された私は、まだほんのりと手が憶えているその髪の感触を思い返して、ドキドキと鳴っている胸にその手を当てた。 気持ちよく眠っていてもらえてるうちは、まだまだだなぁ。 |