「へえ、君も花が好きなんだ」 私の机の上に横たわる一輪のタンポポに気付いたようで、通りがかりに幸村くんが声を掛けてきた。幸村くんが花を好きなことは私もよく知っている。学校の花壇に水やりをしていたり、自主的に教室に花を飾ったりしてくれているからだ。 「うん。登校中に茎が折れちゃってるの見つけたから、押し花にしようと思って」 「いいね」 なんとなく近付きがたい気がして、同じクラスながらあんまり話したことはなかったけれど、こうして喋れたことはなんだか嬉しくて。嬉しい、というか。 「幸せ、だね」 ぽつりと、幸村くんが呟いた。その言葉に、確かに私は今幸せなのかもしれない、と思った。しかしそれを幸村くんも思ってくれているだなんてそんなまさか――と頭をフル回転させていると。 「タンポポの花言葉」 そうニコリと笑って、幸村くんは自分の席に戻っていった。 なんだ、花言葉か……――無駄にドキドキさせられてしまったな、と思いながらタンポポをノートの間に挟んで体重を掛ける。 (それよりも有名な花言葉が、あるでしょう) 幸村くんの横顔を一瞥しつつその言葉を頭に浮かべた。「思わせぶり、だね」と。 |