「乾、チョコレートの賞味期限ってどのくらい?」
隣の席のクラスメイトに聞かれたのは一学期の終業式間近のことだった。俺はデータこそよく取るが雑学王ではないのだけれど。しかし偶然にも知っていたその答えを簡潔に伝える。 「市販のチョコレートの賞味期限は一般的に半年から一年だな。それがどうした?」 「ふーん……じゃあさ、市販じゃなくて」 そこまで言っておきながら、「やっぱり何でもない」と口を噤んだ。こちらに向けていた体も正面に向き直り会話は強制的に終了した。意図はわからなかったがコイツがデータにないような予測不能な行動を取るのは今に始まったことではないと納得することにした。 そこから数週間、夏休みも半分過ぎた頃。部活終わりにその人物は俺の前に現れた。 「ごめん、賞味期限的にはギリいけるかと思ってたけど、これは計算してなかった」 伸ばされた両手に掴まれているのは、夏のこの外気温によって完全に液状にさせられた、お手製のラッピングに包まれた茶色の何か。 恐らく同じクラスになる前、今ほど距離が近しくなかったときに作られたであろうそれに腕を伸ばしながら、 (これも予測不能だったな) と自分のデータ不足を反省した。 |