* 降り注ぐ桜の中で掴まえたかった *












友人いわく、私は未だに元カレのことが好きな痛い子のようです。

でもそうじゃない。

私たちは別れていない。
だから彼は私の元カレではない。

(今日も返事なし、か)

私のモーニングルーティーン。
起きて、メッセージアプリを開いて、最後に大きなため息をつく。

(未読メッセージ、49件)

深く息を吸い込んで立ち上がる。
返事がなかろうと、私の一日は始まる。

学校に着いて、親友の後ろ姿を見つけて声を掛ける。

「おはよ〜!」
「おはよ!なんか調子良さげ?」
「別にいつも通りだよー。いつも通り、今日も返事なかったし」

私の言葉に、親友はこれでもかというほど大きなため息をつく。
そして眉尻を落として肩をすくめた。

「まだメッセージ送ってるの?」
「うん。毎日ね」
「返事ないのに?」
「別にいいでしょ、彼氏なんだから」

私を睨みつけてきた目線が、地面に落とされる。

「…彼氏だった、でしょ」
「ううん、今も彼氏、だよ」

出た出た。
何回も言ってるのに、私たちは別れてなんかいないって。

「認めたくないのはわかるよ。でも…」
「認めるって何?何が言いたいの?」

また大きなため息をつかれた。

何。
何なの。
私たち二人の間のこと何もしらないくせに。

私たちはいい関係にあった。
将来のことだって話した。
傍から見てどう見えてたかはしらないけど、
私が彼に捨てられるようなこと、あるわけがない。


今日もいつも通りの一日を過ごして、
「帰り気を付けてね」と別れ際に言われて
「そっちもね」と軽く返して岐路に着く。



通学路を一人歩いていると、はるか遠くに桜の木が見えた。
風が吹くと花びらは一斉に舞い散った。
そこだけ桜のシャワーが降り注いでいるみたいだ。

歩き続けて、そのシャワーの中に辿り着いた。
上向きに手を広げて、ゆっくりと中を通過していく。


以前、二人で桜の散り際にデートしたことを思い出した。
一生懸命花びらを追いかける私を見て、
彼は笑って
「こういうのは案外追いかけない方がいいんだ」
と言った。

斜め上を見上げながら手を広げる。
スイッ と手に吸い込まれるように
花びらがその手のひらに着地した。

「ほらな」

そう言って彼は、秀一郎は笑った。
その姿が、光に溶けて消えていきそうになる。


(―――あれ?)

はっと意識を取り戻した私は
いつの間にか桜のシャワーを通過していて、
手のひらには何も乗っていない。

なんだか急に、もしかして、
秀一郎って本当に私の彼氏なんかじゃないのかも、
という気がして足を止めた。

(秀一郎?)

振り返ると、風が一つ強く吹いて、
収まりかけていたシャワーが再び勢いを取り戻す。
引き寄せられるようにその中に戻る。

降り注ぐ滴たちの中心に着いたとき、ポケットの中で何かが震えた。

(新着メッセージ!)

心臓がドキリと鳴る。
震える手でそれを急いで開く。


『日頃より秀一郎にご厚意にして頂いていた皆様、ありがとうございました。
 先ほど、滞りなく四十九日の儀を終了致しました。
 以前告知させて頂きました通り、
 本日を以てこのアカウントは閉じさせて頂きます。
 何かございましたらこちらへご連絡ください。
 03−XXXX−XXXX』

『たくさんのメッセージをありがとう、きっと秀一郎も喜んでいます』

『ごめんなさいね、ちゃん』


ぽた、ぽたりと、
花びらではない滴が画面に降り注ぐ。

「う…うぁ、あぁぁ〜……」

絞りだしたような声が漏れて、
足から力が抜けるがままにしゃがみ込んだ。

認めたくなかった。
もう秀一郎に会えないだなんて。
秀一郎が“元”カレになってしまっただなんて。

四十九日間よりはるかに短い桜の季節。
秀一郎は今年の桜を見ることができないまま
今日、全てが舞い散りそうな勢いで桜が落ちてゆく。


もう送れないメッセージ。
二度と受け取れないその返事。
思い出せなくなりそうな彼の笑顔。

この雨が止むまでここに居続けたいと願う私の体には何枚もの桜の花びらが張り付いていた。
























久しぶりに暗い話書いた。
痛い子だと思いきや、ただのしっかり傷ついてる子でしたっていう話。

大石生きてくれ。

会社で閃いてしまって、周りに見られずにメモりたくて
途中までは英語で書いてました笑
ちょっとでも楽できないかとそれを翻訳掛けたけど
まったく使い物にならなくて結局全部日本で書き直したよ笑


2022/04/10-20