* Good-bye to my white days *












蛍の光が流れて、卒業生たちが退場していく。
私は惜しみない拍手を送りながら、その光景を真顔で見つめている。

もっと泣くかと思ったけどそんなことなかったな、と客観視。
もう涙は出尽くしたということかもしれないと
この一ヵ月間を思い返す。

一ヵ月前の今日は、バレンタインデーだった。
好きな人、大石先輩に、チョコと一緒に想いを伝えた。
返事はホワイトデーまで掛からなかった。
その場で「ありがとう。でも、ごめん」と。

悲しかった。
うまくいくわけがないと予防線は張っていたけれど
いざ現実を目の当たりにしてしまうと苦しくて仕方がなかった。

朝起きたとき、
登校しながら、
授業中、
保健室前の通り掛かり、
シャワーを浴びながら、
寝る前にベッドの中で目を閉じたとき、、、
ふとした瞬間に大石先輩のことを思い出しては
一人で声を上げて泣いたり、こっそりと目元を拭ったりした。

だけどそんな日々も2週間ほど経つと落ち着いてきた。
大石先輩のことを想うと今でも胸はチクリとするけれど、
もう諦めはついて、この恋は終わったのだ、と
紅白幕が張られた体育館を出ていく姿を見送りながら思った。

ご卒業おめでとうございました。



  **



保健委員である私は、全体での体育館の片付けを終えてから
舞台裏に置かれていた救急セットを保健室へと運んだ。

大石先輩と幾度か会話を交わした保健室。
消毒液の独特の香りに、その思い出が蘇る。

初めて近くで見た大石先輩は、
保健委員長という立場で教室の前に立つ姿だった。
すごく立派で、すごく大人に見えて、
それは一学年上の先輩だからかと思ったけれど
同学年でも委員会中にふざけてるような人たちを見て
やっぱり大石先輩は特別なように思えた。

必死に質問内容を見つけては話しかけに行ったり、
必要以上に保健室に長く居座って大石先輩が現れることを祈ったり。
直接言葉を交わしたことは数えられる程度だけれど
その一回一回がどれだけ特別だったことか。

そしてその最後の一回は、一ヵ月前だった。

もう次はない。
だけど、想いを伝えたことはどこか誇らしい。

大石先輩。
素敵な思い出をありがとうございました。
どうか、お元気で。

胸の中で呟いて保健室を後にしようとしたとき、その扉が開いた。

それはこれまでにも何回か、数える程度だけ起きた出来事。
用事があって保健室に来た私は
必要以上に長く居座って、
とある人物が現れやしないかと願った。

今日は望んでなんかいやしなかった、のに。


「(大石先輩…)」


顔を合わせてしまって気まずいと思うと同時に、
その顔が見られたことを嬉しく思ってしまう。
もうこの恋は終わらせたつもりだったのに。

だけど大石先輩はただただ困っているだろう、
そう考えている私に対し
大石先輩はほっと笑顔を崩して思わぬことを言う。

「良かった、会えて」

……え?

これ、と大石先輩は小包を手渡してきた。

「先月のお礼」

そういえば、大石先輩はもらってくれたのだ。
私の本命バレンタインチョコを。
気持ちには応えられないと述べた上で、
「迷惑でなければもらってください」という
私のわがままに応じてくれた。
そんなことすっかり忘れていた。

「これまでありがとうな」

もう私の恋は、一ヵ月前に終わった、はずだったのに。

せっかく諦めがついたのに。
やっと気持ちの整理ができたところだったのに。
どうしてまたこんな想いをしなければいけないんだ。

こんなにも優しくて気配りな貴方だから私は好きになって、
そんな貴方だから私を残酷に傷つける。

恨めど恨めど、目の前にいるのは大好きな人。
それはどうやら事実みたいだ。

今日までに特別な関係を築けなかった私たちは、
もうきっと一生顔を合わせることがないだろう。

ならば、貴方の記憶に残る最後の私の姿は、とびきり素敵なものでありますように。

「大石先輩、卒業おめでとうございます」

目元を拭って笑顔を作って、
鼻声だけれど思いを込めて、
賛辞の言葉を口にした。

これが私の精一杯。


それ以上は声を出せずに、ありがとうございました、を心の中で唱えた。
























私の卒業式ネタ小説、一行目を蛍の光(などの卒業ソング)で入りがち笑

自分はホワイトデーと卒業式が被ったというフォロワさんを見かけて
舞い降りてしまって一日過ぎたけど急遽書いた。

> こんなにも優しくて気配りな貴方だから私は好きになって、
> そんな貴方だから私を残酷に傷つける。
↑この2行が書きたいがために書いたまである。
> 今日までに特別な関係を築けなかった私たちは、
> もうきっと一生顔を合わせることがないだろう。
↑これも刺さる
(といいつつ舞い降りたきっかけは単純に
 フったくせに別れの前にとプレゼント渡してくる大石だけど)


2022/3/15