* Shall we... PROM? *












 もうすぐグラジュエーションセレモニーが始まる。ようやくこの生活ともおさらばだ。
 セレモニーが始まるまでと時間を潰すべく訪れたカフェテリアは同じ装いをした同級生で溢れている。端のテーブルの更に端の椅子に腰掛けた。
 溜め息を吐いて足を組めばガウンの裾から膝が覗いた。一番大きなサイズを選んだにも関わらずこの有様だ。セレモニーも、ハイスクールライフも、さっさと終わってしまえと言葉には出さずに願った。
「アナベルはピートと行くんでしょ?いいな〜ボーイフレンドがいる人は!」
「結局ルイザは誰と行くんだっけ?」
「ニックだよ〜。全然タイプじゃないけどとりあえずパーティーにさえ行ければいっかなって」
 近くから聞こえるクラスメイトたちの関心は、セレモニーを通り越して夜に行われるプロムパーティーに向かっている。もっとも、それは今日に始まったことではなく数カ月前からクラスメイトたちは浮足立っていた。誰を誘うだの誰に誘われたいだのの話で休み時間はもちきりだった。ファイナルエクザムの勉強はそっちのけと言わんばかりで今日を迎えるまでにやたらとカップルが増えたのが傍から見ていても明らかだった。
 まあ、自分には関係のないことだ。
 結局誰にも誘われなかったし、誘われると期待してもいなかった。誘われても断っただろう。誘われるようなことがあれば、それは冷やかしに過ぎないとわかっているからだ。自分はクラスメイトに興味を持たれていない…いや、はっきりいって嫌われている。立場上、直接悪口を言われたり危害を加えられるようなことはなかったが、陰で色々と言われていたことは知っている。そんな生活も、もう終わる。
 そろそろセレモニー会場であるホールに移動するか、と腰を持ち上げたところで「エメラルドさん」と声が掛かった。
 同級生で好き好んで自分に声を掛けてくるような奴には、一人しか心当たりがない。案の定そこにいたのは自分よりも顔1つ分小さな身長をした男であった。
「なんだウルフ」
「いやー、その…ついに卒業だなって……へへ」
 いつ見ても垂れたその目で見慣れたにやけ笑いをしてくる。周囲から煙たがられている自分に度々話しかけてくるから根性のある奴かと思っていたが、関わるほどに腰抜けだということがわかってしまった。自分に関わってくるのは命知らずというかバカというか。まあ、とんだ変わり者だ。
「俺に何の様だ。言いたいことがあるならはっきり言え」
「えっ、あっ、えーと……だから、その……」
 人差し指同士を擦り合わせて、目も合わないし、歯切れも悪い。溜め息が出た。余計な時間も労力も食いたくない。
 もうホールに向かおう、と横を通り過ぎてやろうとした、瞬間。
「エメラルドさん!」
 聞いたことがないほど大きな声で呼び止められて、つい足を止めた。クラスメイトたちはいつの間にかほとんどがもうホールに向かってこのカフェテリアに人は疎ら。
 俺たちも早く行かないとさすがにセレモニーに遅刻はカッコが付かない、のに。
「今夜…俺とプロムに行ってくれ!!」
 ま、せん……か……と声量はどんどんすぼんでいった。やっぱり歯切れが悪い。
 いつになく力を込めた視線をぶつけてくるから、何を言うのかと思ったら……なんだって?プロム?
「俺とお前が一緒に、プロムへ?」
「ひっ!すみません!あくまでもし良かったらなんですがっ!」
 どうやら聞き間違いではない。
 自分には無関係だと思ったし、誘われても断るとさえ考えていた。だけど、万が一があり得るとしたら、コイツかもしれないと思っていたのも事実で。
 はぁーーー……と、深く長い溜め息が出た。
「ウルフ」
「ヘ、ヘイ!」
 声を掛けただけなのに背筋をピンと伸ばしていて、本当にチキン野郎だな…とも思うけど。
 ま、多少はその根性認めてやるよ。
「せいぜい底の厚い靴でも用意しておくんだな」
 そう言う自分もドレスは何色のを持っていたかとドロワーの中に頭を巡らせる。まだグラジュエーションは済んでいないのに関心が夜のパーティーに向かってる。これじゃあクラスメイトもバカに出来ないな。
「え、エメラルドさん!?それって…!」
「ほら、セレモニー遅刻するぞ」
「ヘイッ!」
 先に歩き始めた自分に、ちょこちょことした小走りでウルフが追いついてくる。そんな関係が終わってしまうと考えたら、ほんの少しだけ、寂しくなってしまった……たったそれだけの気まぐれ。
 自分がプロムに向かったらクラスメイトはざわつくだろう。嫌がる奴だっているかもしれない。長年感じ続けてきたその空気。こんな生活からやっとおさらばできる、と思ったけど。
(一晩くらいは延長してやってもいいか)
 さっき呼び止めてきたウルフの顔があまりに必死だったことを思い出したら思わず吹き出しそうになった。それはあまりに自分らしくないと思って、後ろのその人物に追いつかれる前にとなんとか噛み殺した。

























ウルエメのつもりで書いたけど読み終わったらエメウルかこれ?(はて)
まあどっちでもいいか(適当)

ティーチインでめちゃくちゃ萌えたエピソードをSSにしてみました。
ウルエメが好きだ。ていうかエメ←ウルが好きだ。笑
エメラルドさんお誕生日おめでとう!


2021/12/02