* 雨の日の楽しい過ごし方 *












雨の日は、少し苦手だ。

まず、朝一から時間を掛けてセットした髪型も雨の日は崩れやすい。湿気は大敵だ。
部活が中止になってしまうこともある。
小雨であれば部活自体はできるけれど
晴れの日のようなパフォーマンスは出しにくい。
いつもよりも片付けに手間がかかるしコートは荒れるし、
願わくばテニスは晴れ空の下でやりたいものだ。

そんな今日は、確実にテニスは出来ないであろう大雨だ。
今日は部活は元々休みの日だけれど、
あったとしてもテニスはできなかっただろうなと考えながら次の授業の準備を進める。

教室はいつもよりも少し賑やかで、
普段は校庭や屋上に行っている生徒たちも皆教室内に留まっているからだなと理解する。
本でも読もうかと通学の途中に読みかけであった文庫本を開いたタイミングで
教室の後方からゲラゲラと大きな笑い声が聞こえてきて思わずそちらに視線を移す。

随分楽しそうだな、と少し離れた自席よりその様子を伺っていると、
気付いた一人が俺の席に迫ってきた。

「大石、ちょっと来いよ」
「なんだ?」
「いいから」

首に腕を回して引っ張られる。
先ほどの下品にも感じられる笑い声を思い出すと嫌な予感がしないでもなかったが、
「雨の日が楽しくなる秘訣を教えてやるよ」と言われたので、
今日のこの気候による鬱屈した気持ちを振り払ってくれるならば、と素直に従った。

しかし輪の中に連れ込まれた俺は、思わぬことを聞かされることになる。

「傘の柄の好みって、下着と一緒らしいぜ。つまり、
 女子がどんな下着着けてるか傘を見ればなんとなく想像ができるんだよ」

見定めるようにぐるりと教室中を見回すその視線の意味を理解して、顔が一気に熱くなった。

「なっ!?」
「大石ってマジで下ネタ耐性ないよな」

ゲラッゲラとまた下品な笑いが辺りに響いた。

誰誰が今朝ビニ傘だったの見た。
もしかしてシースルー!?
なんて大笑いしているのを聞こえないふりをして自席に戻る。

人の下着を勝手に想像するだなんて悪趣味だ。
だけど覗きを働いているわけでもなしに、
人の傘を観察することを咎められる理由はない。

モヤモヤとした気持ちを抱えつつも、そもそもその説の信憑性が気になり、
自分はどうだったかと鑑みる。

差してきた傘は、シンプルな紺の無地。
下着は……なるほど。
とりあえずすぐさまこの説を覆せるものではないようだ。



授業も終わり下校の時間。
窓の外を見るとどしゃぶりで少し憂鬱になったが、
今日は彼女であると一緒に下校する約束をしていたことは
少しだけその沈んだ気持ちを減らしてくれた。

一緒に階段を下るその姿を見ると、
スキップみたいにどこか足取りが軽い。

「なんだか楽しそうだな」
「雨の日が楽しくなる秘訣があってさ」

がそう楽しそうに言うから、
今日の休み時間に聞いた会話を思い出して
「まさか」と思いながらも……いやそんなまさか。
目の前の笑顔は純粋で曇りがない。

「なんなんだ、それは」
「ふふっ、それはお楽しみー」

昇降口に着くと小走りになって、
俺より先に靴を履いて玄関を飛び出していった。

そして傘を広げて振り返ると、満面の笑みが見えた。

「新しく可愛い傘買っちゃったんだー!」

なるほど、傘を新調したから雨だけれど機嫌がいいと。
納得しながらの姿を見つめていると、
その自慢の傘を見せつけるようにくるりと一周回って見せた。
白地を基調ととしてパステルピンクやイエローの花が散りばめられて、
縁取り含めてサーモンピンクの糸で細やかな刺繍が施されている。

もしも今日聞いた話が、本当だとしたら……。

「秀一郎、なんか顔赤いよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫!」

顔を背けて、自分の傘を開いて視界を遮るように掲げた。

「帰るぞ」
「はーい」

ぱしゃぱしゃと水を撥ねさせなら小走りでは俺の横に着く。
ちらりと盗み見ると、傘から顔を半分だけ覗かせて嬉しそうに笑った。

「(これだから、雨の日は、苦手だ)」

ダバダバと大きな音を立てる傘にため息をついて、前だけを見て歩いた。
























傘の柄の好みは〜、の話は学生時代に男友達に聞きました。
そして実際当たってると思う笑
あんまり広めるのも忍びないけどw

青い大石が好きなんだ私は(何度でも書くぞ)


2021/11/09-23