* あの日世界は虹色になった *
中学に入ったら友達がたくさんできて、
一緒に寄り道しながら帰って、
恋愛もして、
部活で青春して……
そんな日々を思い描いていた。
だけどそんなのはただの理想だって入学して数カ月で気づいた。
休み時間を一緒に過ごす友達はいるけど、
放課後はそれぞれ部活や習い事があって予定は合わないし、
クラスメイトはみんなガキに見えて好きな人もできないし、
部活もなんとなく入ったけどイマイチ煮えきらない。
先生が板書した内容を無心で写経してまた一日が終わった。
そのノートを見返して、溜息と共にそっと閉じた。
「(今日も自主練か…)」
青春できそうなとこ、でもキツすぎないとこ、
という基準で選んだ女子テニス部。
楽しくはあるけど想像していたものとはどこか違う。
今日も一人壁打ちをする。
このままでいいのかなって、わだかまりはあるけれど。
「あっ」
逸れたボールは私の肩を越してトントンと遠ざかるように跳ねていった。
小走りで追いかけると、そこには丁度人が。
「すみませーん!」
ラケットを大きく振って声を掛けると気づいてもらえた。
その人もラケットを持っていたから男子テニス部だとわかった。
足元に転がったボールをタンタンとラケットで弾ませて、
そのままポーンと私の方に打ち返してきた。
「わっ、わっ!」
私もラケットで受けて上手にキャッチしたかったけど、
一発では手で掴めずお手玉状態になってしまった。
青白赤のジャージに身を包んだその少年は、ピシャリと一言。
「まだまだだね」
――その声が耳に届いた瞬間、景色が変わったみたいだった。
世界ってこんなに眩しくて、広くて、胸が高鳴るものだったっけ。
思わず背中を追いかけていた。
「どこ行ってたんだよ越前!」
「トイレ」
「リョーマくん早くしないとレギュラー集合してるよ!」
そんな会話を耳にして、彼がレギュラーだと知った。
そういえば、男子テニス部は選ばれた人しかあのジャージを着られないんだっけ。
小柄だし、きっと一年生だと思うけど。
「(越前リョーマくん、か……)」
そのまま練習をこっそり見守った私は
コート中を縦横無尽に走り回って
先輩たちにも引けを取らず挑んでいく姿に
すっかり魅了されてしまうのだった。
**
「(懐かしいなー…)」
「何ニヤけてんの」
「べっつにー」
まさか20年も昔のことを思いだしてるなんて思わないだろう。
一区切りのこの日。
幸せで、どこか切なくて、感謝で胸が一杯だ。
「今までありがとね」
「…何それ」
「あ、ごめん間違えた」
ねえリョーマ。
あの日からずっとずっと、
君のお陰で世界は虹色なんだよ。
「これからもよろしくね」
時も流れて、変わったことも色々あるけれど、
「意味ワカンナイ」って不満そうにする姿を見て
やっぱり君は君だなって私は笑った。
この時間がいつまでも続きますように。
祝テニプリ20th!
アニプリ20周年おめでとう!
リョーマ夢と見せかけてアニプリ擬人化夢かもしれない笑
2021/10/10