* Luxury against Relaxing *












 大石秀一郎、ただいまピンチです……。
 俺は今、どう見ても中学生が友人と訪れていいような風貌をしていない格式高い割烹のカウンター席に通され、目の前で調理が進められているのを無言で眺めている。
 この前初めて二人で食事をしたときは跡部オススメのフランス料理店に連れて行かれたわけだけど、前日の夜になってドレスコードがあるような店だとわかって慌てて準備をした。
 テーブルマナーといえばフォークやナイフは端から取る、食べるときは音を立てない、落としたものを自分で拾わない…といった最低限の知識は持っていたものの、ナプキンの使い方だとか、フォークは刺すべきか掬うべきか…などと細かい点になるとわからないことばかりであった。結局終始跡部の動作を真似て食事をするようなことになり、料理自体は美味しかったはずなのに味に関する記憶が何もない。ただ、跡部の所作はとても美しいなと思ったことは憶えている。
 だから今日は、和食だったらそのようなことはないだろうと思い和食を提案したのだが、跡部はすぐ様どこかに電話を掛けて「これから大切な客人を連れて行くから丁重に持てなせ」といったことを話して、俺はここに連れてこられている…という状況だ。
「ここは俺様も贔屓にしている店でな。お前の口にも合うはずだ」
「あ……ありがとう」
 跡部の一言によって、ようやく調理以外による音が生まれた。声を出しても良かったのか、と思わせるほどの雰囲気に俺はここまでずっと口を噤んでいた。
 先日から俺は跡部と付き合うことになった。そのときも勢いに押し通されるような部分はあった。跡部は俺とは違う世界の人で違う人種のように思えていたからだ。そして今のところ、その感覚は間違っていない。
 今日の昼間だって、「デートではどこに行きてぇ?」と聞かれたから「ゆっくりできる場所が良いな」と答えた結果、超高級リゾートスパ施設に連れて行かれることになった。日本国内とは思えないような景観、手を伸ばすだけで運ばれてくるメニューからドリンクを頼めばソフトドリンクもシャンパングラスに注がれて提供された。バスローブを身に纏った跡部はさすが様になっていたが、自分にはどうにも似合っているとは思えなかった。したり顔でされた「どうだ、最高にくつろげるだろう」という質問には苦笑いを返すしか出来なかった。
 ようやく出てきた一品目、和食なら気負うことはないと思っていたのに箸の持ち上げ方など跡部の真似をしながら食べ始めることになった。その、一口目は…。
「……おいしい」
「だろ?」
 跡部は得意げに笑った。そして、驚くほど柔らかい目で俺のことを見つめてきたのでドキリとした。理由はわからない。だけど、跡部が俺のことを好きだというのはどうやら真実なようだ。
「ところで大石、次のデートはどこに行きてぇ?」
 跡部はそう聞いてきた。そもそも、今のこの状況は俺が想像していた「デート」とは大きく異なる。
「もっと、普通のところに行ってみたいかな」
「普通?」
「そうだな、例えば……公園とか?」
 そう伝えると、跡部は「ハァーッハッハッハ!」と高笑いをした。あまりの生活感の違いに馬鹿にされているのか、と思ったら、跡部は大きく間隔の取られた椅子から少し身を乗り出し、小声で囁いた。
「俺様と二人っきりになりてぇんだったら始めからそう言えばいいだろ」
「えっ!?」
 べつにそういうわけじゃ…!と否定しかけたところで、そういえば、一度も二人になっていないと気付いた。食事中も、今日行ったスパ施設でも、こちらの反応を見てすぐにお伺いを立ててくれるような人たちが常に近くにいた。
 これかもしれない。俺が「デート」だと思いきれていないわけは。元々そういう意図があったわけではないけれど、結果的に次のデートは初めての「二人でのデート」になるのかもしれない。
「庶民のデートも悪くねぇな。じゃあ大石、次のデートはお前がエスコートしろ」
「エスコートって言うほど大それたことじゃないけど…」
 生活レベルの違いは感じるけれど……なんだか少しだけ、次に会う日が楽しみになってきた気がした。心が軽くなると食事は先ほど以上に美味しく感じられ、いつの間にか会話も弾んでいた。俺が少しずつ跡部のことがわかってきたみたいに、次はもっと俺のことを知ってほしい。そんなことを思いながら美しい所作で食事を口に運ぶ跡部の横顔を盗み見た。

























Tricolore!2のエアスケブでリクを頂きました。
跡石で『シチュエーションはデートで、ラブ度はほんのり』です。
志摩未訓さんリクエストありがとうございました!

跡部って大石のこと好きだよな…
関東初戦の「大石を出せ」連発でも思ったし、
新テニでも可愛い構い方するし…。
なんで好きなのかという理由はわからないけど
大石のこと溺愛してる跡部好きだわ(笑)


2021/09/12