* つまんないの *












「はよー森!」
「わっ!」

バシッと背中を叩いて挨拶をしながら歩き去る。
まず「いてて」と聞こえたけども間を空けて「おはよー」が返ってきた。

森は同クラのおとなしめの好青年。
いじるのが面白くってついついいじりがち。
満足して自分の席に着席すると、
隣の滝瀬から「なぁ、お前森のこと好きなの?」の声。

「は?」
「だっていつも叩いたりいじったりしてんじゃん」

……。

『バシッ』
「ってーなゴリラぶっ殺すぞ!」
「ほらそんな反応するヤツは叩きたくもないよ!」

叩かれた部位をこすりながら滝瀬は口を尖らせた。
別にそんな強くぶってないのに!

「本当は森のこと好きなくせに」
「違うよ!誤解された困るから音量下げてくれる!?」

周囲を見渡したらみんな各々の時間を過ごしていて
私たちの会話には着目しちゃいないようだから胸を撫で下ろした。

何、森のこと好きって。
別にそんなんじゃないのに。めんどくさ。




  **




「おはよー」
「おはよちゃん」

今日もまたクラスメイトたちに挨拶しながら自席に向かう。
そこには、読書をしている少年。

……。

「おはよ、森」
「あ、おはよう」

通過して、着席。
…………。
なんか、物足りないな。

胸がぽっかり空いたような気がしている私に
滝瀬がのんきに話し掛けてくる。

「おー、今日は森のこと叩かねーんだ」
「アンタが余計なこと言うからでしょ」
「ふーん、つまんねーの」

つまんねーの、って。
アンタのそのつまんないイジリのせいでこっちはいい迷惑だよ。
でも余計ないじりを受けないのはせいせいしたわ。

でも、やっぱなんか物足りない。
……。
つまんない、な。

一息吐いてロッカーに荷物を置きにいくとそこには森の姿。
だけど。

…こうしてみると、叩くとかイジるとか以外で
私が森に話し掛ける用事ってないもんだな。

今更そんなことに気付きながら無言でロッカーに鞄をしまう。


「え?」

声を掛けられて顔を横に向ける。
心配そうな森の声。そして顔。

「なんか、元気ない?」
「そんなことないけど…なんで?」

聞き返すと、そっか、と言って
森は静かに微笑んだ。

が元気ないと、つまんないから」

つまんない。
………。

「だよねぇ!」
「わっ」
「アハハ、私もそう思う!」

急な大声にビビって声を上げる森の背中をバシバシ叩いた。

そうだよ。
私はこうじゃなきゃつまんない。
こうやって大声張り上げて人のこと叩いてるくらいの方が楽しいじゃん。

でしょ?

やっぱり森は「いてて」って言ったけど、
そのあとには笑顔が見えたから、これでいいんだって思った。
























ミュで森くんフィーバーしちゃったシリーズ。


2021/09/09