* IDA *












「えっ、これ地域限定の歯磨き粉じゃん!」

私の目の前で目をキラキラに輝かせているのは、
人懐っこいことで有名な菊ちゃんこと菊丸英二くん。
他クラスだけどうちの教室に頻繁に遊びにくる菊ちゃん。
私の好きな人。

「うん。旅行先で偶然見つけたから、あげる」
「本当に〜!?ありがとーちゃん、大好きっ!」
「はいはい」

首の周りにしがみつくようにした腕を外す。
菊ちゃんは「ホントサンキュー!」と手を振って教室を去っていった。

笑顔で手を振り返して見送って、私は机に突っ伏した。

「はぁぁぁぁ〜……」

弾んで落ち着かない胸を宥めるべく大きく深呼吸。
だけど一向に収まる気配はない。

だって。


『大好きっ!』


彼は気付いていない。
彼がいつも軽率に発しているその言葉に
受け取り手である私がどれだけ心を震わせているかを。

親友のにだって言われた。
「もしかして菊丸ってのこと好きなんじゃない?」って。
そんなの私が聞きたいよ。
だけど「まさかー本気じゃないから言えるんだよ」って返すしかない。
本当は、誰よりも私が祈っているのに。
菊ちゃん、私のこと本当に好きだったりしない?って。


「随分大きなため息だな。どうしたんだ」


聞こえた声に顔を上げる。
そこにはクラスメイトの大石くんが居た。

大石くん……。
君の親友がいつも軽率に「好き」とか言ってくるのだけれど
本気なのか冗談なのか確認してくれないかい。
とは、言えない。

言わなかったけど、大石くんは周囲を見渡してから
少し顔を寄せると小声で「英二のことか?」と聞いてきた。

言い当てられて硬直してしまった私は
声を発せずに口をパクパクとさせてしまった。
見事に見透かしてきた大石くんは「その顔は図星だな」と困り顔になった。

「本気で迷惑しているんだったら、やめるように伝えるけど」
「ま、待って!」

思わず声を張り上げてしまった。

「ちが、くて。別に迷惑してないし…やめてほしいとかじゃなくて…」

寧ろ、やめてほしくはないというか……。

その言葉は随分と小声になってしまって、
休み時間の教室の喧噪に紛れてきっと大石くんの耳には届かなかった。
だけど雰囲気で察したのか、大石くんは「もしかして」と言葉を続けた。

さんって、英二のこと…」
「わー!」

かき消すように声を張り上げた。
ボリュームが上がったり下がったり、今日の私は忙しい。

「それ以上は言わないで…」

顔が真っ赤なのが自分でわかった。
これではさすがに大石くんもわかってしまったと思う。
そういうことか、と大石くんが小さく呟くのが聞こえたので確信を得た。

さんさえ良ければ、協力してあげることもできるけど」
「本当に!?」

大石くんからのまさかの提案に、
私は食いつくように声を上げてしまった。
押され気味に「ああ」と返事をしてくる大石くん。

「ありがとう、大石くん!」

本当にありがたくって、満面の笑みが生まれた。
大石くんからは柔らかい微笑みが返ってきた。



  **



授業を終えて休み時間になって、
私は大石くんの机に近付いた。

「ねぇ大石くん、早速だけどさ、大石くんに色々聞いていいかなぁ?」

トントンと教科書を揃えた大石くんは、
それを机にしまうと「もちろん」と笑顔で応えてくれた。

「何でも聞いてくれ」
「あ、えーっと…」

きょろり、と周囲の様子を確認する。
大石くんの後ろの席に寝てる(ように見える)男子1名、
斜め前の席には女子グループ…。

あ、と声を上げると大石くんは立ち上がった。

「場所変えようか」
「あっ、ごめんね!」
「大丈夫だよ。俺こそごめん、気づかなくて」

必要以上に語らずとも察してくれる大石くん。
さすがの気配りだなぁ…。

まさか教室の真ん中で好きな人に関するあれこれを聞くわけにはいかない。
私たちは屋上に移動した。

昼休みだったりならもっと人がいるんだろうけど、
授業の合間の10分休みには誰もいなかった。

「ここなら大丈夫そうだな」
「ありがとねーわざわざ」
「お安い御用だよ」

完全に私の都合で、大石くんにとってはなんのメリットもないのに
協力してくれる大石くんは本当に優しい。
もし私にも大石くんに協力できることがあったら快く引き受けよう…。

「早速聞きたいんだけど」
「ああ」
「菊ちゃんって誕生日いつなのかな?」

大石くんは驚いたような表情を見せた。
あらかた「そんなこと?」と言ったところだろう。

「別にそれくらい本人にも聞けるだろう?」

案の定の言葉が飛んできた。
そうだけど。そうなんだけど…!
確かに頻繁に話してるしそれは大石くんも認識してるだろうし、
意外だと思う気持ちはわかる、けど。

「なんか、誕生日聞いたら…好きなのバレそうじゃない……?」

無意識に人差し指同士を合わせていた。
自分で驚くほどの乙女動作だった。
大石くんは、ハハッ、と笑った。

「本当に英二のこと好きなんだな」
「う………」
「誕生日、11月28日だよ」
「そうなんだー」

11月28日…11月28日。よし。憶えた。
これから夏を迎えるけど、夏を超えて秋になってその先なんだ。
結構先だな。

「他に聞きたいことは?」
「えー……えっとね」

本当は、これは一番気になっていたこと。
だけどその分勇気がいること。
ちょっと恥ずかしかったけど、聞いた。

「めっちゃ根本的なことなんだけど…
 菊ちゃんの好きな女の子のタイプとか、知ってる?」

大石くんは下がり眉の笑顔で
「そういう話はしたことがないな」と言った。
そっかーだよねー…。

じゃあいいや、って言おうと思ったけど、
大石くんは顎に手を当てて何やら色々考えている。

「これは想像なんだけど…英二はああいう性格だから、
 やっぱり明るくて一緒にいて楽しいような子がタイプだと思うんだ」
「なるほどねー」

実によくありそうなパターン…。
だけど、親友であり観察眼の鋭い大石くんのお墨付きは心強い。
問題は自分がそうなれるかってことだけど、と思っていたら。

さんはぴったりだと思うよ」
「ウソー?」
「嘘じゃないぞ」

そう言うと大石くんは真剣に潜めた眉を、ふっと緩めた。

さんはもちろん明るい子だし…一緒にいてとても楽しいよ」

まさかの言葉が飛んできた。
ここまでまっすぐに褒められるとさすがに照れる。

「え、えー…お世辞がうまいな大石くん」
「本当のことを言っただけだよ」

よくそんなセリフを恥ずかしげもなく言えるな…。
顔が熱くなった気がして手をうちわにしてパタパタと仰いだ。

「そろそろチャイムが鳴るな。戻ろうか」
「うん。ありがとね」

丁度教室に着いたところでチャイムが鳴った。
私たちはそれぞれの席に着席した。




その後も、大石くんは色々な方法で協力してくれた。
この前屋上で話したときみたいに私の質問に答えてくれることもあれば、
私と菊ちゃんが二人で喋れるように協力してくれることもあった。
菊ちゃんはよく大石くんと喋りに3年2組に来るから、
そこに私もうまいこと入り込んで、適当なタイミングで大石くんが抜ける、と。
本当に大石くんには頭が上がらない。


、最近大石と菊丸と3人で喋ってること多いよね」

傍から見ていてもそう見えるみたいで、ある日にそういわれた。

「もしかして三角関係?」
「ちょっとやめてよ」
はどっちが好きなの?少なくとも菊丸はのことが好きそうだけど」
「だから、あれは菊ちゃんが誰にでも人懐っこいだけだから!」

私は、仲の良い友達にすら自分の好きな人を教えていない。
この世で私の好きな人が菊ちゃんだと知っているのは、大石くんだけだ。


いつの間にか大石くんとの親密度が上がっている私がいた。
菊ちゃんとの仲を取り持ってもらうという名目だったけど、
大石くんはとびきり優しいし、一緒にいて居心地が良い。

うっかりすると大石くんのことを好きになっちゃいそうだ、
って瞬間は実はたまにある。
もちろん私の好きな人は菊ちゃんのままなんだけど!
でも、揺らぎたくなるくらい、大石くんは素敵な人だ。



そうこうしているうちに気候的に過ごしやすい時期は過ぎて、
梅雨の蒸し蒸しした日々を終えたかと思うと
あっという間にうだるような暑い日々がやってきた。

いつの間にか夏。
そして夏休み。


休みは嬉しいけど、みんなに会えないのは少しつまんないな。
友達も、クラスメイトも……大石くんも菊ちゃんも。

大石くんにテニス部の大会の日程を教えてもらって応援に行った。
試合中の二人はキラキラ輝いていた。
菊ちゃんの笑顔を見て、やっぱり好きだなって思った。
教室とは違う様子の大石くんを見て、なんだか嬉しくなった。

二人とは話す暇がなくて、一方的に見つめるだけだったけど。
テニス部、全国進出……すごいなぁ。




夏休みに一日だけ設けられている一斉登校日。
総合学習を終えて半日で終了。

さて帰ろう、と思ったら大石くんの姿が目に入った。
なんだか見慣れないような…。
ああそうか、鞄が違うんだ。

「今日はテニスバッグじゃないんだね」
「ああ、このあと抽選会があって」
「そっかぁ」

教科書やノートが丁度収まる大きさの黒い鞄を
斜め掛けにしている大石くんは、なんだか新鮮に目に映った。

「じゃあ駅まで行く?」
「ああ」
「んじゃ一緒に行こー」
「そうしようか」

すごく自然にその流れになったけど、
冷静になったら一緒に帰るとか初めて?
っていうか大石くんに限らず男子と二人は初めてかも。

思い切ったことをしてしまったかな、と思って横を見たけど
大石くんは普通にしていたので、私も気にしすぎないことにした。

「いよいよ全国大会かぁ」
「ああ」
「緊張してる?」
「少しな。でも、今まで自分たちが練習してきたものを信じて出し切るだけだよ」
「うんうん、絶対勝てるよ!自信持って!」

私の励ましの言葉に、大石くんは「ありがとう」と微笑んだ。
こういうときに素直にお礼が言えるの大石くんらしいよな、
って思いながら私も微笑み返した。

そのとき、「大石とじゃん」と声が聞こえた。
そこにいたのはクラスの男子数名。

「前から思ってたんだけど、お前らって付き合ってんの?」

なんですと?

思いがけない質問に私たちは一瞬硬直。
だけど現に事実ではない。
私は手を振って否定した。

「いや、付き合ってないよ」
「隠すなよ。休み時間もよく二人で抜け出してたじゃん」
「えー普通に喋ってただけだし」

気付いてる人いたんだ。
まあ、割と堂々と一緒に教室から出てったりしてたし。
下心がないからこそ隠してなかったというか。

「正直に言っちゃえよ」
「うっさいなー…」

面倒くさくなって啖呵を切った。


「私は他に好きな人がいるの!!」


ここ最近で一番大きな声を上げた。
目の前の数名は一瞬たじろいで、視線を大石くんに移した。

「だってよ大石、フラれたな」
「え、俺は別に…」

男子どもは笑い声を上げながら先に歩いていった。
もう、なんなんだよー…。

「やー、バカだねアイツら」

アハハと笑って見せた、けど、
大石くんの表情は晴れない。

「どうしたの大石くん。あんなの気にすることないよ」

声を掛けたけど目が合わない。
大石くんは斜め下を見ている。

「忘れかけてたし……ちょっと期待していたかもしれない」

何が?何を?

「バカなのは俺だな」、と呟いて大石くんは嘲笑を浮かべた。
ちょっと、話が見えない。

「何、大石くん。期待するって…」
「……ごめん、ひとり言」

そう言って笑ったけど、やっぱり晴れない。
どうしたんだろう。


私たちは再び歩き出す。
会話は生まれなかった。
無言のまま駅が近づいてくる。

大石くんの様子は変なままだったけど、切り出した。

「私さ、菊ちゃんに告白しようと思って」

大石くんにそう伝えてから、たっぷり5秒くらいの間があった。
あれ、聞こえてなかったかな…と思って言い直そうかと
大石くんの顔を覗き込んだら大石くんはようやく声を出した。

「あ…そうなのか」
「うん。全国大会応援行くからさ、終わった後に伝えたいなって」

菊ちゃんの誕生日まで3ヵ月以上、
バレンタインは丁度半年前。
区切りの良い記念日なんて待っちゃ居られない。
夏のうちに、この想いを伝えるんだ。

「優勝した状態だったらなんだかうまく行きそうだな、なんちゃって」

お茶らけて見せたら大石くんも釣られて笑ってくれないか、
って思ったけど、なおさら眉をしかめるばかりだった。

…それもそうか。
彼らは真剣に全国優勝を目指して日々努力してるのに。
私のくだらない都合でふざけたこと言って何やってるんだ。

「ごめん冗談!そんなの関係なく、純粋に応援してるから!」
「ああ、ありがとう」

大石くんはお礼の言葉を述べて微笑んだけれど、晴れやかな笑顔ではなくて。
軽率なことを言ってしまったな。反省…。

そうこうしているうちに私たちは駅に着いてしまった。

「じゃあ、次は全国大会の会場でね」
「そうなるのか」
「明日からも練習頑張って!」
「ああ……ありがとう」

それじゃあまたね、と手を振って背を向けて
バス停に大石くんを残して歩き去ろうとすると
さん!」と呼び止められた。

「応援ありがとう。俺も、さんと英二のこと…応援してるから。
 うまくいくといいな!」

そう言ってニコリと微笑んだ。
私も「ありがとう」と返した。
だけどやっぱり、大石くんの笑顔は晴れない。

大石くんの様子は気がかりだったけど、
今度は大石くんが「それじゃあ」と言って背を向けた。


何故だか、妙に気になった。
大石くんの笑顔が晴れない理由。
先ほどの「ひとり言」の意味。

この次の私の行動。
それで私の未来が大きく変わる気がした。


「……っ大石くん!」


私は、呼び止める決断をした。

「どうしたんだい」
「あ、大石くん…時間ない?」
「いや、まだ余裕はあるよ」
「……ちょっと話さない」
「……ああ」

私たちは駅のすぐ裏にある公園に向かった。

花壇にはヒマワリが咲いてる。
うるさいくらい蝉の声が聞こえる。
空が青くて雲が白くて太陽が高い。
夏。

「何か、協力してほしいことでもあるのか?」

大石くんはそう言って笑った。
それはきっと私が菊ちゃんに告白すると言ったことに関してで。

でも違うよ。
私が今気にしてるのは。

「ううん。聞きたいことがあるの」
「なんだい」
「大石くんのこと」

大石くんは驚いた顔をした。
今まで何回も、菊ちゃんのことを質問させてもらったけど、
大石くんに対しての質問をするのは初めてだ。

「お……俺?」
「うん。大石くんさ……さっきのひとり言って、何?」

聞いたら、大石くんは目線を逸らして眉をしかめた。
何故かわからないけど涙が目に溜まった。

「大石くん、さっきから、変だよ」

大石くんからは全然返事が来ない。
まるで不機嫌なように思いきり眉をしかめた表情はあまり見慣れなかった。

「どうしたの…?」と聞くと、
ようやく「さんが」と口を開いた。
私、が、何。

「英二のことを好きって、忘れかけてた」

あ、そうなんだ…。

「自分でも本当にバカだと思うけど、正直少し期待していた」

何を?

さんの好きな人、変わってないかなって」

…え?

どういうこと。
その相手は?

菊ちゃんと大石くん以外に、私が仲良い男子なんて……

…………あ。

「えっ?」

もしかして、もしかしてもしかして。
もしかして大石くん…?

ばっと顔を上げると、目が合った。
でも大石くんがすぐに逸らした。

「協力しようと思ったのは、偽善だよ。
 俺はさんの笑顔が見たかっただけなんだ。
 二人で過ごしたかっただけなんだ…たとえそれが、
 他の男についての話をする時間だったとしても」

うそ、でしょ。大石くん。

「始めはそれでも良かった。
 君が他の人を好きである以上、君の幸せを願うことが俺の幸せだと思った。
 自分にそう言い聞かせて、その立ち位置を貫く覚悟をした。
 だけど……一緒に過ごす時間が増えるほど、欲が大きくなった」

そこまで言うと、大石くんは下に向けていた目線を持ち上げた。
まっすぐな視線が突き刺さる。


「もう自分に嘘は吐けない。さん……俺は、君のこと好きだ」


胸が破裂しそう。
泣き出してしまいそう。

なんだろうこの気持ちは。
嬉しいのに、悲しくて、苦しい。

「私……私、は」

菊ちゃんのことが好きな、はずなのに。
改めてそう伝えて、諦めてもらうべきなのに。

だけど今のこの気持ちは。


「好きだ」


気付いたら抱きしめられていた。
大石くんの姿は見えない。
私に見えるのは青い空と白い雲と太陽に向かって黄色く咲くヒマワリ。
その景色は滲んだ。

「ちょっと、考えさせて」

そう伝えると腕から放された。

ごめん、またね。
呟くように伝えて私はその場を走り去った。



元来た道を走る。
さっき、大石くんと歩いた道。
息が続かないけど衝動的に足を動かし続けた。
汗がすごい。暑い。

学校に着いて、切らした息を落ち着かせながらテニスコートに向かった。

「菊ちゃん!」

ぴょんぴょんと跳ねた赤髪が目に入って声を掛けた。
菊ちゃんは振り返って私の存在に気付くと笑った。

ちゃん!どったの?」
「私、菊ちゃんのことが好き!」

伝えると、菊ちゃんは「え、急に何!?」と仰天していた。

「もし、付き合ってほしいって言ったら、どうする?」

まだ息が少し弾んでる。
菊ちゃんの返事はすぐには来なくて、
私の吐息だけがその場にある音になった。

少し考えて私の質問の意図を理解したらしい菊ちゃんは
笑顔を少し崩して眉を潜めた。

「ありがとー。でもオレ、ちゃんとは付き合えないや」
「そ…っか」
「オレ、ちゃんのことめっちゃ好きだし、
 付き合えたら楽しそうだなーって思うけど。
 恋愛とかそういうの、正直よくわかんなくってさ」

フラれちゃった。
けど菊ちゃんはすぐさまフォローを入れてくれた。
そして、予想もしなことを言う。

「あと…オレよりもっともっと君のこと大好きで大切にしてくれそうな人知ってるから」

そう言って申し訳なさそうに笑った。

…そっかぁ。
菊ちゃんも気づいてたんだね。

「ありがとう。それを聞きに来た」
「……へっ!?どゆこと?」
「さっきの告白、本気のやつじゃないから」
「えぇ〜!?」

ペロっと下を出してやった。
目が潤んだのは、瞬きでかき消した。

「でも、大好きなのは本当だから!!」

そう笑顔で伝えた。
菊ちゃんからも「サンキュー、オレも好き!」って笑顔が返ってきた。
ありがとう。
大好き。

「全国大会応援行くね。頑張って!」
「おお、サンキュー!」

そして私たちは手を振って別れた。


もう迷わない。

もう間違えない!




帰って急いで大石くんにメールをした。
「後で時間があったらもう一回話したい」って。

大石くんから返事があったのは夕方で、
私たちは夜に会うことになった。
大石くんは私の家の最寄り駅まで来てくれた。

「ごめんね、うちの近くまで来てもらっちゃって」
「こっちこそ、女の子を夜に呼び出したりしてごめん」
「いや、呼び出したのは私だし」
「そ、そうか」
「……」

少し歩こうか、と大石くんが提案してくれて、
私はコクンと頷いた。


どこかに向かいたいわけでもなく、
歩くことが目的である私たちの足はゆっくりと進んだ。

私から喋った方がいいよね、って思って、
早速本題だけど「今日、菊ちゃんに好きだって伝えたんだ」って言った。

「えっ、今日?」
「うん。そんで、フラれてきた」
「……え」
「うん」

あっけらかんと伝える私に、大石くんは茫然としていた。

私は伝えることにした。
自分の気持ちと素直に向き合って感じた思いを。

「私ね、菊ちゃんに好きって言ってもらえたのが嬉しかった。
 私も好きだって思ってた」
「……うん」
「だけど、思い返してみたら、直接的な言葉がなかっただけで、
 大石くんにもたくさん好きの気持ちをもらってることに気付いたんだ。
 そう思ったら、胸の中が少しずつあったかくなってきて」

そこまで喋って、大石くんの顔を見た。
大石くん、ちょっと泣きそうになってた。


「私も大石くんのことが、好き!」


伝えた。
これが私の答えだ。

「ほ……本当かい」
「本当だよ」

答えるや否や、体がぎゅっと抱き締められた。
あったかい。
あったかすぎて熱いくらいだ。

体を離して目が合うと、
「夢みたいだよ…」と大石くんが言うので
「現実だよ」と返した。

「とりあえず…時間も遅くなっちゃったし今日は帰ろうか。送るよ」
「あ、ありがと」

そう言うと大石くんは「ん」と手を差し出してきた。
そっと、その手を取った。
やっぱり、あったかすぎて、ちょっと熱かった。

歩き始めてから、雑談程度に私は投げかける。

「大石くん、質問していい」
「なんだ」
「大石くんの誕生日っていつ?」

私の質問の意図に気付いたのか、
大石くんはハハッと楽しそうに笑った。

「4月30日だよ」
「あー過ぎちゃってるのか。じゃあ、好きな女の子のタイプは?」
「……メガネが似合う子とかかな」
「何それ全然私じゃないじゃん」
「あくまで理想の話だよ」
「変なの」

楽しい。嬉しい。
まだ家に着きたくなくて、なんとなく歩幅が狭くなる私。
大石くんも自然と私に合わせてくれた。

それでも、間もなく到着だ。
最後にこれだけは聞いておかないと。

「大石くん、菊ちゃんに私のこと好きって話した?」
「いや、話してないよ」
「菊ちゃん気づいてたよ」
「えっ!?本当かい」

ホントホント、と伝えると大石くんは赤くなった気がした。
薄暗くて、はっきりとはわからなかったけれど。

……もしかして菊ちゃん、
大石くんの想いに気づいてたから身を引いたとかじゃないよね?
まさかね。
私は菊ちゃんが言ったとおりの言葉を信じよう。

ふと、空を見上げた。

「見て、大石くん。星が綺麗だよ」
「本当だな」

見事な星空が広がっていた。
まだまだ、この星の下を歩いていたいな。
君の隣を。
手を繋いだままで。
……なんてね。
そうもいかないけど。

「大石くん、次左」

そう伝えたけど、大石くんは直進しようとする。
曲がろうとした私と体の向きが逸れて、
腕が伸ばされるように引っ張られるようになった。

「大石くん?」

左って言ったの聞こえなかったかな、
と思って足を止めて声を掛けてみると。

「少しだけ遠回りしちゃ、ダメかな」
「……いいよ」

同じ気持ちだったのが嬉しくって頷いた。
方向転換して、大石くんのすぐ横に並んだ。
笑顔を向けられたから、私も笑顔を返した。

パチパチと弾けるみたいな胸の奥の感触に、
暑い夏はまだまだ続くなって思った。
























サマバレCDを聞きながら狂った頭で書いた。

6/26に黄金で出るよってわかったとき書いた作とは
また違う感じの三角関係になったね!
実物聴いたら歌割りとか声色とかでイメージが変わったので。

大石のいくよ大好きがないのは嘆きだけど!
大石のいくよ大好きは安くないんだろ!!わかったよ!!!
という気持ちで書いたw
(別に英二のいくよ大好きは安いと言いたいわけじゃないけどww)

ハッピーサマーバレンタイン!!


2021/08/14