* まるで真夏の太陽 *












「あっちぃなー」
 音量的にはとてもひとり言とは思えないものであったけれど誰に向けているという雰囲気もなく隣の席の主は声を上げた。第二ボタンまで開けたシャツの胸元をパタパタと仰ぎ風を送り込んでいる。
 暑い。その点には同意できる。つい一週間ほど前までは気温が30度を超えることもなかなかなくて毎日が曇りと雨の行ったり来たりだったのが、梅雨前線は活動を弱めて間もなく梅雨明けの模様、と先日天気予報士が告げていた通り気付けば毎日猛暑で熱帯夜。もう少しグラデーション掛かってくれれば体も慣れるし気持ちの準備もできるというのに容赦してくれないこれぞ日本の夏。
「お前暑くねぇの?」
「暑いよ」
「だろ?」
 今度は明確に話し掛けられたので返事をした。私が同意の言葉を述べると桃城は嬉しそうに笑った。何で君が得意げなんだいという疑問は浮かんだけれどあまりに嬉しそうだったから水は差さないことにした。
 桃城が座る窓際の席には太陽光が差し込んでいて、より内側の日陰の席よりも更に気温は高そうだ。物凄く日焼けしそうだなと桃城の腕を一瞥すると綺麗に小麦色に焼けていて、でもこれは授業中ではなくきっと部活中に焼けたものだと想像できた。強豪であるテニス部は全国大会出場が決まっている。桃城は2年ながらにレギュラー入りしていて校内でも少しの有名人だ。これまでも、明日からの夏休みも、毎日練習に余念がないのだろう。
 太陽の下で、全力で走り回って、汗を拭って、豪快に笑う。その姿の想像はあまりに容易だった。夏を体現したような存在だ。
「桃城って夏似合うね」
「マジ?サンキュー!」
 別段褒めたつもりはなかったのだけれど……毎度の如く嬉しそうにしているから、否定することでもないかと思ってそのまま口を噤んだ。貶すつもりか褒めるつもりかどちらだったと聞かれたらまあ褒める寄りだったかもしれないし。なんの疑いもなくサンキューと礼を述べたことから想像するに少なくとも桃城にとっては夏が似合うということは褒め言葉であるようだし。
「オレ夏生まれでよ、誕生日も夏休み中に来るんだ」
「そうなんだ、おめでとう」
 軽い言葉ではあったけれど、一応祝いたいという意思があって私はそう返した。しかし桃城は不満ありげに「あのな」と眉を潜めた。
「お前どんだけオレに興味ないんだ」
「え?」
「そこは『いつなの?』だろ」
「……ああ。いつなの」
 取って付けたようになってしまった疑問を伝えると、お前なー…と情けない表情になった。別に弄りたい意図があったわけではないのだけれど、結果的にそのような形になってしまったのと、あまりにその表情が情けなかったのでプッと引き出してしまった。面白くなさそうにガシガシと頭を掻いてから、
「ま、オレはお前のそういうとこ、好きだぜ」
と言って桃城は歯を見せて笑った。
 別に言葉を真に受けたわけではないけれど。「そういうとこ」と言っただけであって、私自身をと言ってきたわけではないとはわかっているけれど。
 ただ、カンカンに照った太陽を背景に背負ったその姿を見ていたら、今年の夏は例年通り暑そうだと思った。そして暑さを体感する度にこの笑顔を思い出してしまいそうだ、と悔しいながらも認知しつつ下敷きで顔の辺りを仰いだ。

























炎天下チャリ漕いでたらなんとなく浮かんでしまった。
本当に桃ちゃんは夏が似合うね。
お誕生日おめでとー!!


2021/07/22