* 今夜はNOの日 *












我が家にYES/NO枕が導入されることはありえない。
気分で行為に勤しむものではない。
予定された行為に気分を合わせて行くのである。

当日の予定、翌日の予定、私の生理周期…
完璧に把握された上で組まれたスケジュールの下に
食事内容までコントロールされている。
アロマディフューザーにはそれに合わせた香りが焚かれて
照明の明るさも調節されて
雰囲気づくりのBGMが流されて
時には専用の寝具まで持ち出される。

はじめと一緒に暮らすようになって驚いたのは、
初夜の後に
「次はいつに致しますか」
と聞かれたこと。
そんな事前に決めるもの?
周りに聞いてみたら、毎週何曜日とか
なんとなく決めている人はいたけど
この日この日とピンポイントで決めてる例はあまりに聞かない。

しかしこのルーチン、いざ始まってみたら意外と悪くない。
コンディション合わせやすいし気分も自然と高まるし。
なんだかんだ毎回満足のいく行為に及んでいると思う。

イレギュラーはない。
はじめに言わせれば「シナリオ通り」というやつなのだろう。

次は明日だったなとカレンダーを確認しながら
普段通りの一日を過ごして就寝する私。
隣のベッドではじめも静かに床についた

しかし。

「(今日…なんか、したい、な)」

体の奥底から湧いてくる衝動に体を捩る。
ダメだと思うと疼きが増してくる気さえする。
もしYES/NO枕があったら私は張り切ってYESにしたことだろう。
でも、今日はその日じゃない。

「(明日まで我慢…)」

あと一晩すれば、触れ合える。
しかしその一晩のなんと長いことか。
いけないと思う気持ちがなおさらそうさせるのか、
普段なかなかないくらいに衝動が溢れて止まらない。

私ははじめみたいな完璧人間じゃない。
己を律するための理性が足りていないみたいだ。

「(ごめん、なさい)」

手をこっそり、下着の中に差し入れる。
敏感な部分に指を触れさせると甘く痺れた。
またたく間に濡れていくのが自分でもわかって、
その蜜壺の中へと指先を差し入れると簡単に奥へと飲み込んだ。

ここまでしてしまって、治まるはずがない。
かといって最後までしようと思えばさすがに不自然な動きや声が出てしまう。
背中のすぐ後ろで横になっている人物に気付かれるであろう。
そうでなくとも些細な変化にすぐに気付く人なのに。

貴方はいつも計画的で完璧で。
それと比べて私のなんと軽率で間抜けなことか。
後戻りできないところまで追い詰められてしまってようやく観念して行動に起こす。

ごろりと寝返りを打つと、姿勢良く仰向けで目を瞑っているはじめ。
まだ布団に入って数分、さすがにまだ寝てないと思うけど。

「はじめー…」
「なんですか」
「そっち行ってもいい?」
「…いいですけど」

ひとまず拒否はされなかった。
私は自分の布団を抜け出して、隣り合ったベッドに体を滑らせて潜り込む。
何かがいつもと違うというところまでは察せられているであろう。
こういう事態だとまでは予測できていないとは思うけれど。

「どうかしまし…」

最後まで言わせず、返事の代わりにキス。
唇に唇を押し当てて、舌を突き出してぺろりと舐めた。

そこではじめは私の肩を掴んできて、顔が引き剥がされた。
ああ、やめなさいって突き返されちゃうかな、って身構えたんだけど。

「イケナイ子ですね」

そう言ってニヤリと口の端が持ち上がるのが見えた。
なのに目元は冷たくって、私の顔は熱くなってしまう。

そうです私はイケナイ子なんです。
言いつけが守れなくてあとたった一日が待てなくてごめんなさい。

急に恥ずかしくなって身動き取れなくなる私。
そんな私の腰に手が回されたかと思うと
ぐっと引き寄せられて、何かに当たった。

「これが欲しいんですか」

ぐりっと押し付けられたものは硬くなり始めていた。
はじめも反応しちゃったんだ、と思ったら私の中のタガが外れた。
パジャマさっさと脱いで脱がせて下着ズラして跨った。

ゴムを被せながら「ごめんね、イケナイ子で」って上から見下ろすはじめ、
今まで見てきた中で一番困惑してたかも。

止められる暇も与えず腰を沈めると
待ちかねていた体は快感に震えた。

「つ………ァン!」
「今日は、どうしたんですか、本当に…」
「ごめ、んな、さい」

謝りながらも腰が止まらない。
どうしたんですかなんて、私が知りたい。
本当は今日はその日じゃなくて、
明日に向けて準備をしているべきだった。
今夜はこんなはずじゃなかった。

でも私は自分の体も気持ちもコントロールできてない。
今夜だって我慢しなきゃって思ったのに。
全然計画通りじゃない、って、はじめにも呆れられちゃう。

ごめんごめんごめん。
でも気持ちいし止まらない。
こんなじゃダメってわかってるのに。

さん、なんなんですか」
「あっ、ごめ…なさ…ッ」
「怒っているんじゃなくて聞いているだけですよ」

はじめは上半身を起こすと髪を撫でてくれた。優しい。
私も一旦体の動きを止めて話をする。

「今日ね……」
「うん」
「なんか、ウズウズしちゃって……」
「……我慢ができなかったんですか」

これは、呆れられている…。
でも今更どんな言い訳並べても取り繕えないし。
観念するまでの間は長かったけど、私はコクンと首を頷かせた。

ふぅ、とあからさまにため息をつかれて肩がビクリと震えた。
幻滅されたかもしれない…と思ったから。
だけどはじめのその後の態度は、私の想像とは違うもので。

「好きなだけ動きなさい。見ていてあげますよ」

そう言って、したり顔。

「(女王様……)」

また仰向けになるはじめと、上で動く私。
見下ろしてるはずなのになんだか見下ろされてる気持ちになるのは何故だろう。

息がどんどん荒くなるのは、激しく動いているせいか、快感ゆえか。
だんだん目を開けているのですらしんどくなってきて瞼を下ろす。
想像の中で、はじめは余裕な表情で私を見下している。
苦しい、気持ちいい、キモチイ……。
「あっ、あっ」と自然に漏れ出てくる声を抑えられなくなってきた。
膝がガクガクとして崩れ落ちそう。

「ほら、動きが遅くなってきてますよ」
「ヒァア!」

急に下から突かれて背中に電気が走った。
軽くイキかけて、はじめの体にくったりと寄りかかってしまう。
「もう動けないんですか」って、やっぱり呆れた声。

ごめんなさい、情けなくて。
また動き始める前に、ゼーハーと荒れる息を一旦整えよう、
と思っていたのに。

「(えっ)」

ぐるんと私は仰向けにさせられて、
そのままはじめが上になってて、
抜けかけた結合部をぐっと押し付けられて。

「お手伝いして差し上げましょうか?」

ニヤリと、勝ち誇った笑み。

私の手首は顔の右と左でそれぞれ押さえ付けられていて、さながら降参のポーズ。
観念致しました私の負けですと、首を縦に頷かせた。
途端、激しく腰を打ち付けられて堪らず裏返ったような声が出た。

今夜はダマスクローズの香りがしていない。
晩ご飯苦しくなるまで食べちゃったし
布団に入った時間はいつも通りで
明日は朝が早くて出ずっぱり。
コンディションなんて何一つ整ってない。
けど、ただ、どうしても欲しくなっちゃった。

こんなの全くはじめの計画通りじゃないんだろうなって思いながらも
昂ぶる気持ちも体も治まらなくて、
もう少しで果てる……というところまで来て、
はじめの動きが止まった。
私は薄っすらと目を開ける。

はじめは苦しそうに息を荒くして眉を潜めていた。
今日はイレギュラーだったし、コンディション悪い…?
大丈夫かなと、思ったら。

「早くイキなさい…!」

そう言って腰がゆっくり動いては止まる。
片眉だけがピクピクと引き攣っている。
これは、はじめがイキそうなときのサイン。

「(もしかして…はじめも余裕ない?)」

そう気付いてしまったら、胸がキュンっとなった。
連動するように下腹部もキュンっと締まった。

あ……ダメだ、イク。

繋がっている部分から全身に快感が押し寄せてくる。
喉を思い切りのけぞらせて、私の体は跳ねた。
止めていた息を一気に吐き出すみたいに荒い呼吸が聞こえてきて、
はじめも私の中で果てるのが感じられた。


暫く部屋には私たちの呼吸だけが響いていた。
それが落ち着いてくる頃、満足しきってうっかり寝落ちしそうな私に
「満足できましたか」と声が掛かった。

「できた。ありがと…」
「どういたしまして」
「はじめー……ごめんね急に」
「全くです。明日の朝眠くて不機嫌になるアナタの
 相手をさせられるボクの身にもなってください」

ごもっともである…。
私は明日普段より30分早起きで、
元々それより更に早く起きているはじめに起こしてくれと頼んでいるわけだけど、
これは絶対寝起き最悪だよな、と握力の下がった手をグーパーしてみる。

「ごめんね」
「以後気をつけてくださいよ」 
「はい……」

しょんとしょげる私の横で、
「でも」とはじめが言ったので首をそちらに向ける。

「たまになら、こういうのも悪くないですね」

そしてはじめは笑った。
もしかして、意外と、まんざらでもなかったりして?

「次ははじめから迫ってくれてもいいんだよ」
「ありえませんね。ボクは自分の体調はもちろん外部環境の変化とそれに対する
 自身のリアクションまで全て網羅的に把握していますから」
「言ったね?」

いつかその気にして焦らしに焦らしてやる…と
私が内なる闘志を燃やし始めたことははじめにはナイショ。

「でも、あくまでたまにですよ。暫くは認めませんよ。
 イレギュラーというのは通常通りが当たり前にあって初めて成り立つんですから」
「はーい」

返事をしながらごろりと寝返って自分のベッドに戻る。
そろそろ寝ないと本当に明日に響く…。

ふわぁと大きくあくびをして、眠りに就く前にと一つ質問をする。

「明日はどうする?」
「イレギュラーは暫くなしと言ったでしょう」
「それは明日もするってこと?」
「何か不満でも?」
「いやいや!」

今日のは前借りじゃなくて、あくまでイレギュラーなんだな。
はじめらしいなってこっそり心の中で笑った。

明日はきっと、
腹八分目の食事とそれに合わせた一杯だけのワイン、
風呂上がりのボディケアは欠かさずに、
間接照明に薄ぼんやりと照らされながら、
静かな環境音楽が流れて、
いつものダマスクローズの香りに包まれる。

それが私たちのいつも通り。
だって、まぎれもない明日の夜はYESの日だから。
























女王様的な感じで優位に立つ観月。良い。

迷ったけど主人公のこと名前にさん付けにしてみた。
初めてじゃないか!?過去にあったかなぁ…。
ああ、大石の一回り下シリーズがあったかw

萌え台詞大量に差し込んだが一番お気に入りは「うん」w
主人公の甘えたちゃんな話し方に呼応する観月かわいすぎんかw

本編に関係ないけどこの二人は結婚するまで挿入してないと思う。
この二人はってか観月そういうとこあるよね。興奮するわー(笑)
一応『Let you look after me』の続編という設定なんだけど
あれはまだ婚約段階だったからそこから暫く経ったお話。


2021/07/12-16