* チームメイトとパートナー *












「次は準決勝か」

都大会の帰り道、内村は嬉しそうにそう言った。
だけどどうしても俺は笑うことなんてできなかった。

「俺たち…このままだとダメだと思う」

今日の試合、俺たち不動峰は3戦3勝で準決勝進出を決めた。
D2 石田・桜井。
D1 伊武・神尾。
S3 橘さん。
S2とS1の内村と俺には、順番が回ってこなかった。
でももし、どこかで1敗でもして出番が回ってきたら?
ほぼ確実に敗北してしまっていただろう。

S2やS1の選手と当たったら勝てないのは仕方がないにしても、
きちんとD2に出してもらってそこでなら
勝利を収められるようにならないといけないと思うんだ。

「あんな名ばかりの大将副将なんて恥ずかしくないのか!?」
「しょーがねぇだろ、俺たちが今のメンバーの中で実力が一番劣ってるのは
 …仕方ねぇけど事実なんだから」
「順当にいったらD2だろ、俺たちは。そこに出してもらえなかったんだ」
「俺たちがD2で出て勝てなかったとは限らねぇよ。
 より確実な作戦を考えただけだ。橘さんだって昨日そう言ってただろ」

確かに橘さんは昨日の作戦会議でそう説明してくれた。
明日はこのオーダーで行くと、S3までで蹴りを付けると。

正直に言うと、ショックだった。
だけどこれが一番勝てる可能性が高い…いや、
こうでもしないと氷帝には勝てないということには納得した。
納得できてしまったことが悔しかった。

「だけど…今のままじゃあダメだよ」
「あのなあ森、オレたちは既に精一杯やってるだろ」

サボってるわけじゃねんだから、って内村は言った。
それはそう、なんだけど。

「でも今のままじゃあ、ダメだよ」
「じゃあどうしろってんだ。具体的に言えよ」

理想像を思い浮かべる。

「技術もだし、チームワークも足りてないと思う」
「抽象的じゃねえかよ」
「もう少しお互いの動きを意識するとか」
「やってるよ」
「でも今日の練習だってさ」

ドンッ!

「うっせーな」

イライラとした顔で胸の辺りを突き飛ばされた。

「理想像ばっか語られたってどうしようもねぇよ。
 今のオレたちには現状が精一杯だって認めてその中で何ができるか考えようぜ」
「どうして!内村は悔しくないの」
「悔しいけどできるかできないかは別問題だろ?」
「…意気地なし」
「現実見えてないロマンチストよりはマシだよ」
「なんだと!?」
「そっちが先だろ!?」

お互いの胸倉を掴み合って、危うく取っ組み合いの喧嘩に…というところで
「お前らまだ帰ってなかったのか」
と声が掛けられて二人揃ってそちらを見る。
橘さん…。

まさかの人物の登場にお互いを掴み合っていた手を降ろした。
俺たちが明らかに取っ組み合いになっていたことに気付いているはずなのに
橘さんは気にしていない風に声を掛けてきた。

「今日は出番作ってやれなくて悪かったな。
 次の試合に向けてまたしごいてやるからな。覚悟しておけよ」
「……はい」

それ以上は何も言えなくなってしまった。
結局途中まで3人で帰って、俺たちは別れた。




  **




翌週、普段通り練習に挑んだけれど内村と俺のチームワークは良くなかった。
この前の喧嘩が響いていることはわかっている。
改善したいのに、寧ろ状況が悪化している。
なんとかしたいのに空回りしているようで歯痒かった。

「(このままじゃあダメなんだ…それだけはわかる)」

だけどどうしたらいいのかはわからない。
悩んだ末に、俺は一つ決心をした。

「内村、今日俺用事あるから。先帰ってて」
「……おう」

避けてるわけじゃないんだけど。
そう思われてしまったかもしれないけど、
俺は一人で学校を出た。そして。

俺は青春学園に来た。

「(まだ帰ってないといいな…野球部とサッカー部は今帰るところみたいだけど)」

校門から見える範囲で見渡すけどテニス部はどこで活動しているのかわからない。
広い学校だな…さすが青学。
テニスコートも綺麗なんだろうな。

「(校門ってここだけだよな?裏口とかから帰っちゃったらどうしよう。
 テニスコートが見える場所がないかぐるっと敷地一周してみる?
 でも入れ違いになっちゃったらイヤだな…)」

校門の中を覗いたり外周がどんなものか見ようとしたり
ウロウロとしていると…。

「(あ、菊丸さんだ!)」

校庭の端を横切って、菊丸さんがこっちの方に向かってきた。
どうしよう…声を掛けてみようか。
でも急に迷惑かな…。
わーこっち来る…って俺が校門の前にいるから当たり前なんだけど…!

「んー?」
「あ……」
「あれ〜?君、前に戦ったことなかったっけ?」

首を傾げながら全身をぐるりと見渡して、ポンと菊丸さんは手を打った。

「わかった!不動峰の人じゃない?」
「あ、はい!不動峰の森です」
「どったのこんなところで」

憶えててくれた…ちょっと感激。
もう菊丸さんに相談してみちゃおうか。
でもやっぱり…。

「あの、大石さんってもう帰っちゃいましたか?」

俺の質問に対し、菊丸さんは「いやー」と言いながら校内を振り返った。

「大石はまだいるよーもう少しかかるんじゃないかな」
「そうですか…」
「良かったらオレが伝言しとこうか?」

菊丸さんは自分を指差しながらそう言った。
当然のようにそう名乗り出られるあたり、二人って信頼の塊って感じだよな。
二人は喧嘩することとかあるのかな…。
それに比べて俺たちは……。

菊丸さんに伝言頼むか?
考えてみれば菊丸さんに頼むのでもいいのでは。
なんでだろう、菊丸さんが悪いわけじゃないんだけど、
俺は大石さんに頼みたいな…。

「…いえ、待ちます」
「そっかぁ。りょーかい」
「あの、ここに居れば大丈夫ですか」
「うん、大石いつもこっから帰るよ。あと15分はかかると思うけど」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいっていいってー!」

菊丸さん、良い人だな…。
感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
そのとき頭上で「あれ、オオイシー!」と声が。

顔を上げると菊丸さんは校内に向かって手をぶんぶん振っていた。
心臓がドキンと鳴るのを感じながら、視線の方向を見た。

あ……大石さんだ!

「今日早かったね」
「英二こそまだ学校にいたのか」
「それがさ」

二人の視線が自分に向いた。
あっ。

「突然すみません!あの俺…」
「君は…不動峰中の森くん、だったっけ」
「あっ、はい!」
「えー大石よく憶えてんね」
「以前対戦したことがあっただろ」
「一回だけじゃん」

やんややんやと小競り合いを始める二人。
ごめんな、と大石さんが片手を上げて申し訳なさそうな顔をした。

俺としては寧ろ大石さんが憶えていてくれた方が驚きで…。
率先して謝ってきたのが大石さんってのもなんだか“らしい”というか。
大石さんとのやり取りを終えた菊丸さんが改めて「ごめんごめん」と謝ってきた。

「でもさ、名前は憶えてなかったんだけど君たちと戦って苦戦したのは憶えてるよ。
 なんだっけ、あの帽子の…前衛スナイパーじゃなくて…」
「前衛キラー、ですか」
「そうそう!アイツも元気にしてる?」

屈託のない笑顔で聞かれてしまった。
だけど「元気…ではあります」と返した俺の顔はきっと曇っていたと思う。
その様子で、もしかしたら俺らの問題には勘付かれてしまっただろうか。

「で、森は今日はどうしたんだ」

大石さんはそう聞いてくれた。
すごくドキドキしたけど、せっかくここまで来たんだ。
思い切って、お願いした。

「ダブルスの極意を教えてほしくて!」

二人は驚いた風な顔をして、ぱちぱちと瞬きをした。

「今日の練習は見てたのか?」
「いえ、見てません!え……中って入って良かったんですか」
「本当はあんまよくないんだけどさー、みんなめっちゃ偵察来るよねー」

そう言って二人は声を出して笑った。
笑い事なのかな…?
でもそうか、青学くらいになると他校から偵察に来られたりするんだ…。

「英二の言う通り、俺達は偵察されることは結構あるんだけど
 こんな風に正面切って指導を頼まれたのは初めてだよ」
「あ……そうなんですね。すみません…」
「いや、寧ろ嬉しいという意味だよ。正々堂々としていて良いじゃないか」

大石さんはそう言ってくれた。
すごく優しくて、頼りになる。
こんな人と一緒にダブルスが組めたらやりやすいだろうな。

「そうしたら一緒に軽く打とうか、と言いたいところだけど」

菊丸さんと肩を並べて大石さんはこっちを見て、
俺の周囲を軽く見渡した。

「今日は一人なのかい」

あっ……。

言われてみれば、それもそうか。
ダブルスの相談事なのに。
いやでも、まずは一人で様子を伺って、
大丈夫だったら今度は二人で来ようって思ってて…。

そういえば俺、青学に来ることを内村に打ち明けずに来てるんだよな。

「その、まずは許可をもらえるかなって…。
 まさかそんなすぐに教えてもらえるとは考えてなくて…」
「…………」
「今度は二人で来ます!」
「それがいいな」

大石さんはにこりと笑った。
菊丸さんも横で同じく笑った。

「ダブルスは、一人じゃできないからな」

そう言って笑顔を向けてくる二人は、“ゴールデンペア”で。

二人は全然性格も違う、まるでちぐはぐ。
なのにどうして一緒にいることがこんなにしっくりしているのだろう。

違うから。
だからこそ苦手を補って、特技を活かせる。
それがダブルスペア。

俺は全体を見渡すのが得意。
内村は相手の弱点を狙うのが得意。

やっとわかった。
どうして菊丸さんじゃなくて大石さんに聞きたいと思ったのか。

そして、俺達に足りていないのは何なのかも。
悔しいけれど。


大石さんと菊丸さんの予定を確認してもらって、
打ち合いをしてもらえる日程が決まった。

それまでに、内村と仲直りしないと。
………。

「帰る前に一つだけ聞いていいですか」
「ああ」
「お二人のような息がピッタリのペアでも、
 意見が食い違って仲違いするようなことってあるんですか」

二人は目を見合わせて、
目線を反らせて、
苦笑い。

「しょっちゅうだよ。つい先日も喧嘩して数日口利かなかったし」
「ええっ」
「だってあれは大石がさー!」
「こら、もう納得して折り合いつけただろ」

そのまま喧嘩が始まってしまいそうな雰囲気だったけど、
大石さんにむくれた表情を見せていた菊丸さんは
「でも」
と言うと歯をむき出しにした笑顔に切り替えてこちらを見てきた。

「仲直りしたあとって、めちゃくちゃコンビネーションうまくいくんだよね」

……これだ。
俺たちに足りていなかったのは。

躓いてしまったように感じていたけれど、
今回のことは、きっとこれから一歩大きく踏み出す準備。

無意識にぎゅっと手に力が籠もった。

「わかりました。ありがとうございます」

頭下げて、上げる。


「次回、きっと良い練習ができる気がします」

そう伝えると、

「それは楽しみだ」

と言って大石さんはにっこり微笑んだ。


明日、内村に言ってやろう。
「お前はもっと自分勝手に動いてもいいよ」って。
この前と話が違ぇじゃねえかってまた怒られるかもしれないけど、
ゴールデンペアと練習取り付けたって言ったら、さすがに許してくれそうだ。

びっくりする内村の顔を想像して、一人で笑ってしまった。
























峰ミュのお披露目見に行ったら不動峰熱が上がり、
森たちゅのりくんを愛でたいがために書いた。
迷った末に一人称「俺」にしたよ…くっ…負けた気分(何に)

荒カチ小説書いたときも思ったんだけど
他のペア視点の、驚異になるほどつよつよな黄金ペア最高なんだなww
待ってこれはメインは大菊じゃなくて大森ですし内森です。

練習のとき4人でシャッフルした試合見たいな〜!
と思ってここ(あとがき)にとうとうと妄想を投下したのだけれど
あまりにボリュームもりもりになったので結局別の作品にするというw
お陰で前後編に中編が増えてしまったwてへww


2021/05/30-07/03