* Synchro×Synchro *












それは大石の部屋で度々繰り返されている営み。
家族が誰もいない隙を狙って、二人はその行為に耽る。

荒い息が収まる頃、大石は英二の隣にどさりと倒れ込みむと
普段はバッチリに決められている英二の乱れた前髪を撫でた。

「英二、体大丈夫か?」
「大丈夫だよ、すごいきもちよかった」
「良かった」

英二はとろんとした目で大石を見、
大石は安堵したようにため息を漏らす。

「大石こそ、ちゃんときもちかった?」
「ああ。すごく気持ち良かったよ」

大石はにこりと笑い、
英二も歯を見せて笑い返す。

そして体を寄せ合ってうたた寝をする。
何よりも至福の時間である。

しかし二人は気にしていることがあった。

(英二はああ言っているけれど、本当に無理をしていないのだろうか…)
(いつもオレばっかヨクしてもらってる気がするけど、大石は満足してくれてるのかな)

「キツかったらいつでも言ってくれよ」
「本当に大丈夫だってば〜大石は心配しすぎ!」
「そっち側の立場になったことがないから、
 実際どんな風に感じているかわからないから不安で」

常に相手のことを気遣う大石らしい心配りであった。
それが大石らしいと思いながらも必要以上に
気を遣わせてしまっている現状は申し訳ないと思う英二であった。

もっと相手の気持ちがわかればいいのに。
もっと相手に自分の気持ちが伝わればいいのに。
そう、テニスをしているときみたいに。

「シンクロしてたらお互いがどう感じてるかもわかるのにね〜」

深い意味を持たせずに頭に浮かんだことをつぶやく英二であったが、
とあることが頭を過り、二人は目を見合わせて固まる。

そう、僕たちはゴールデンペア。
シンクロなんてしていなくたって、
お互いの考えていることはだいたいわかる。

((シンクロ状態でしたら一体どうなるんだろう!?))




後日。
今日もまた、誰にも邪魔をされない家の中で
二人だけの時間が始まっていた。

唇同士だけを合わせるところから始まり、
少しずつ触れ合う範囲は下へ広がっていく。

衣服は一枚一枚と剥がされ、生まれたままの姿へとなっていく。

「なあ、英二」

ある考えを胸に秘め、大石が口を開いた。
大石からの言葉を待つ英二の瞳も期待に揺れていた。

「シンクロ……してみないか」
「する」

既に気持ちの固まっていた英二は即答した。

「それじゃあ、早速やってみようか」
「うん…でも、どうすればいいんだろう」
「そうだなあ」

背筋を正して座り、二人は一旦作戦会議に入るのだった。

「テニスをしているときの感じを思い出せればいいんじゃないか」
「じゃあ、早速やってみる?」
「ああ」

テニスしているときの気持ち、緊張感、体の感じ…
思い起こしながら再現しようと試みた。が。

「…オレたちいつもどうしてたっけ」
「うーん…集中するのが難しいな」

それもそうだ。
ここは部屋で。
ベッドの上で。
二人は全裸なのである。

しかしなんとか事をなし得たい二人は冷静さを失っていた。

「一旦、テニスやってるときのポーズを取ってみるか」
「ナイスアイディア!」

ベッドから立ち上がり、
オーストラリアンフォーメーションの配置になる。
ラケットを持っている体(てい)で身構える。
部屋で。全裸で。

「……何やってるんだろうな、俺たち」
「……だね」

イメージする景色と現実とのギャップが大きすぎて
失っていた冷静な判断力を取り戻す二人であった。

「難しいものだな」
「だね」

ベッドに戻り腰掛けるなり大石は深いため息を吐いた。
その様子を横から見ていた英二は「でもさ」と体を寄せた。

「オレはいつも通りでもきもちいし全然大丈夫だよん」
「英二…」

二人はしばし見つめ合い、そして引き寄せられるように唇同士を合わせた。

いつも通り。
その言葉の通り、普段と変わらぬ場所、手順で進められる行為であったが
二人にとっては肌を合わせられること自体がこれ以上ない幸福なのであった。



めでたしめでたし。



…と、すんなり諦める二人なはずはなく。

\諦めるな〜諦めなけりゃ〜♪/




「英二、今週の日曜日は部活が休みだろう」
「うん、そだね」

それが何、という表情で返す英二に対して
大石は意味深な笑みを向ける。

「シンクロの練習……しないか」
「する」

例の如く英二は即答した。




どうすれば本格的にシンクロの練習ができるか。
お互いに知恵を出し合い、審議の末の日曜日。

「よし、じゃあ始めるぞ」
「おう!」

二人は青学テニスコートにいた。
ユニフォームに身を包んでラケットを持ち、
ネットもボールもしっかり準備して
普段の練習さながらの状態でコートに入った。

「オーストラリアンフォーメーションのサーブを打ったあとの動きを練習しよう。
 俺がサーブに入るから、英二は前衛で。タイミングが大事だぞ」
「わかった」

そして各々配置に着く。
元来の目的(…)を忘れそうなほどに二人は集中していた。

大石はタンタンとリズム良くボールを地面に突く。
そして高く宙に投げ上げ、サーブを打ち放った。
それと同時に英二はサイドにステップする。

「どうかな?」
「タイミングは良かったと思うよ。不意を突くという意味では
 フェイントなんかを入れてみてもいいのかな」
「それいいね!今日はそれいっぱい練習しよ。大石も釣られるなよ」
「こりゃ大変」

そうして練習を継続すること30分ほど。
3つも準備していたボールかごが程なく空になろうという頃、
二人の集中は極限にまで達してきていた。

「そろそろ仕上げだな。
 ゲームカウント3−5とか、追い込まれている状況をイメージしてやってみよう」
「おっけ!」

ゲームカウント3−5。
このゲームを落とせば負け。
このゲームを制して勢い付けば一気に逆転のチャンス。
どうせなら40−30くらいを想定しようか。

大石はサーブを放つ。
英二はフェイントを入れながらステップを踏む。
大石はその反対方向斜めにダッシュ。
今こそリターンは返ってこないが、二人は返球を更に打ち返して
ポイントを決めるところまで共通のイメージができていた。

集中が極限に高まったときのこの感じ。
そう。
二人はいつの間にかシンクロ状態に入っていたのだ。


わかる。

お互いの感じているものが。

お互いが何を考えているか。


((ヤろう!!!))


同調している二人に言葉など必要はなかった。
どちらともなくテニスコートを去り、
部室に入り、
ラケットを置き、
英二はベンチに仰向けになり、
大石はその上に覆い被さる形になった。

衣服を脱ぎ、脱がせ、
あれよと乱れた姿になる。
準備を進めるその動きに無駄はなかった。

位置を確認し、
部位同士を宛がわせ。

いざ!
……というとき。

「あ、アレ…?」
「俺たち、いつの間にこんなことに…」

なんだかふわふわした世界にいて、
二人で一緒にテニスをしていて楽しかったような。

その点に関して二人は共通の感想を抱いていたが、
現状としては目的を果たすことなくシンクロ状態は解けてしまっているのだった。

「失敗かぁ」
「やっぱり、テニスをしている間でないと集中を持続させるのは難しそうだな」

そう、シンクロはダブルスの奇跡。
世界トップレベルのプロ選手でも一部の者しか達することのできない極限状態。
このような邪な目的に用いようとすること自体が間違っていたのかもしれない…。

「でもさ」
「ん?」

眉をしかめる大石に対し、英二はにこりっと微笑んで手を伸ばした。
そして首の周りに腕を回して、ぎゅっと引きつける。

「部室でこんなことするの初めてだし、ちょっとドキドキするね」
「……!」

結局いつもより盛り上がった。  \アッーーー!/



  **



行為のあと、帰りの身支度をしながら
「ごめんな、思ったとおりにいかなくて」
と申し訳なさそうな表情を見せる大石に対し
「大石が謝ることじゃないじゃん」
と英二は笑って返した。

「それにさ、オレ、今のままでも充分すぎるくらい幸せだよ」
「…俺もだよ、英二」

その思いは共通であった。


部室を出る間際、
至近距離で目が合って、
キスをして、
同時に笑う。

“シンクロ状態”でなくたって、
そこはシンクロしている二人なのだった。



そう、僕たちはゴールデンペア。
シンクロなんてしていなくたって、
お互いの考えていることはだいたいわかる。
今、とても幸せだということも。


目の前に愛する者がいて、
それを全身で感じられる喜び。

同じものを同時に感じることができなくったって、
お互いの気持ちは想像できる。
言葉で伝えることができる。
感情をわかちあうことはできる。

そのことに気付き、絆がより深まったことを感じる二人であった。




――全国大会以降、自分たちの意思で自由自在に
 シンクロできるようになってからの出来事は、また別のお話……
























黄金記念日近いし大菊でアホエロラブコメ書きたいなー
ということでついったにいくつかあらすじ載せてアンケ実施して
1位を頂いたのがこちらの案でした。ありがとうございました!

2019/01/16に原案だけ閃いてついったに投下して
誰か書いてくれ〜っていってたけど
まあ勿論自分で書くことになるといういつものアレですよw


2021/05/15-22