、中学3年生。

勉強は得意だし部活は楽しい。
でも授業より休み時間が好きだし、行事が大好き。
総合して学校生活はとても楽しく過ごしてる。

あとは恋ができたら最高だなーとは思ってるけど、今のとこその相手はいない。

好きな人はいないけど、逆に「コイツはない」と思ってる人はいる。
そして、その人は私のことを嫌っている。

それだけはわかってる。











  * 思春期だからの反抗期? *












「それな〜〜〜!?」

今日も朝から笑いが止まらない。
今は国語の教師の頭のてっぺんが1年のときより
確実に薄くなってきている件について盛り上がっていた。

ヤバイ。面白すぎる。

これが朝の定番。
友達とくだらないことで盛り上がる。
学校はお勉強するだけの場所じゃない!
私は友達と過ごす時間が大好きだ。

さん、足は机から下ろした方が…」
「うっせーな大石、髪型おかしいんだよ」

机の上に座ってあぐらを?いている私に対して、
クソ真面目代表の学級委員、大石秀一郎が注意してきた。
ヤバ(笑)」なんて言われながらゲラゲラ大爆笑。

「アタシの机だしよくね?」
「そうは言うけど、お行儀悪いだろ。それに…」
「それに?」

大石は顔を背けた。
その顔が赤い。

「スカートの中、見えそうだから…」

は。
ちょっ。

「ちょっとどこ見てんだよ大石!」
「そうだよに謝れよ!」
「っち、注意はしたからな!」

罵倒を浴びせられながらそう言って大石は去っていった。
本当はショーパン穿いてるし別にいいんだけど…。

大石は本当はめちゃくちゃ良いやつだ。
それは知ってる。
だけどあまりに優等生で気に食わない。
ついこんな態度を取ってしまう。

大石が良いやつなのは知ってる。
でも、というか、だから、私は大石のことが苦手だ。
そして、大石は私を確実に嫌っている。
それは確信を持って言える。

私らみたいな問題児が多い3年2組が、
学級崩壊と呼ばれるレベルにはならずに保たれてるのは
大石がうまくクラスを回してるからだ、と思う。
感謝はしてる…けど。

「(ウマは合わないな、うん)」

はっきり言って私は“イイコちゃん”が気に食わない。
先生の言う通り、周りに迷惑掛けないように、生きていれば失敗はしないってか?
君自身の意思はそこにあるのか?と。

欧米文化に揉まれて育ったせいか、
どうにも私は周りのみんなより"我(が)”が強い。
アメリカンすぎるかなー…。
とはいえ三つ子の魂百まで、
幼少期に形成された性分は変えられそうにない。

私と大石は、これからも"犬猿の仲”みたいな関係を続けていくのだろう。




さて授業。
教科書を5分読めばわかることを先生が語るのを聞く50分間だ。
嫌味?でも現実問題そうなのだ。

わからない人にはわからない。それは想像できる。
でもそれを足並み揃えて待ってる意味がわからない。
アメリカの小学校では平気でレベル別だったからなー…。
みんな一緒が大好きの日本とは考え方が根本的に違い過ぎる。
個人が尊重されすぎる文化に染まって生きてきてしまったのだ私は。

でも郷に入っては郷に従えだ、
ここでは日本人らしくみんなと一緒の授業を受けるべき。
だったらその50分、少しでも楽しい方が良くない?
先生が板書をし始めた瞬間に私は声を張り上げる。

「ねーー今朝話してたんだけどさ、池ぽん前より頭頂部薄くなってない?」
「ぶっwww」
ヤバwwww」
「先生のことを池ぽんなどと呼ぶな!敬語を使え!
 頭頂部は確かに薄くなっている!!」

またゲラゲラと笑いに包まれる我がクラス。
治安は悪い。私も原因を担ってる。それは知ってる。
でもそれくらいのお楽しみがないと、やっていられない。
何より私は、"イイコちゃん”になりたくない。

丸めた教科書で頭を軽く叩かれて体罰だと大騒ぎする私、
これくらいで体罰になるか!お前こそ言葉の暴力を自覚しろ!とたしなめてくる池ぽん、
笑いに包まれる我がクラス。
そして視界の端、こっちを睨みつけて来ている気がする大石秀一郎…。
うちのクラスはいっつもこんな感じ。

「じゃあ最後に理解度確認のためのプリント配るぞー」

よっしゃ、自習だ。
配られた課題をさっさと終わらせる。
紙を配られてから、5分。全部終わった。
授業が終わるまではあと10分。
よっしゃ10分遊べるぞー。

始めの3分で、隣の隣の友達に手紙を書いた。
書いたお手紙をこうやって折って…
よっしゃ、投げるぞ〜!

受け取り手側の子に手で合図して、
投げるために狙いを定めてシミュレーションをしていた…ら。
見回りにやってきた池ぽんにまた教科書で頭を軽く叩かれる。

「こら、真面目にやれ」
「だってもう終わっちゃったんだも〜ん」

先生はぺらっとプリントを持ち上げる。

「どう、完璧っしょ?」と声を掛ける。
池ぽんは、はぁーーー…と長いため息をついた。

「これでお前がもうちょっと出来が悪ければなぁ…」
「ちょっとそれ教師としてしちゃいけない発言じゃん?」
「皮肉に決まってるだろ。出来はそのままで良いから素行を改善しろ」
「どうやって?」
「とにかく、他のやつの邪魔はするな」
「へーい」


素行があまり宜しいとはいえず、
先生に目をつけられがちな問題児。

とはいえ、
無遅刻微欠席。(風邪引いたら休む)
成績オール5。
運動部所属。
習い事はピアノとお習字。
バイリンガルの米国帰国子女。

こんだけふざけた態度でテストは平均90点台、
部活や行事も一生懸命、
交友関係は広い。
でも授業は聞かないし先生にタメ語で喋る。
私が先公だったら頭抱える。わかる。

もしも人生がゲームなら、完全にゲームバランスはミスってる。
(敢えていうなら美少女なら完璧だった。
 実際はまあ、とりあえずブスとは言われない程度)

「(しゃーねぇ、今のうちに数学で今日宿題に出そうなとこ先行してやっとくか)」

そうすれば数学の授業中はお絵描きしたりできるな、うんうん。
今みたいに先生が定期的に見回りに自習の時間は
逆に内職活動には向いてないのを私は知ってる。





さん」

キター。
予想通り過ぎる展開でもはや全く驚きがない。
授業が終わってすぐ、大石が私のところに眉をしかめてやってきたのだ。

「あんまり先生のことを困らせたらダメだろ」
「別に困らせたいわけじゃないし」
「でも自覚はあるだろう?」
「……なーにまたお説教?」

おりゃ、と手首にはめてた髪ゴムを飛ばして大石の胸元に当てる。
床に落ちたそれを拾いながら、横を通り過ぎる。

「言われなくたってわかってるし、言われてもやめる気はないよ」

そう残してそのまま3年2組を歩き去る。
大石は特に呼び止めてきたりはしなかった。
……フン。

「(今日はどこに行こっかな〜)」

どの教室に行っても友達はいる。
今日は気分で11組に遊びに行って1年のときのクラスメイトとその周辺と駄弁った。
乾にデータ取られたから「キモイ」って残して帰ってきた。





チャイムが鳴り始めてから廊下ダッシュを決めて、
ギリギリ鳴り終わる直前に教室に戻ってきた。
まあどうせ先生が教室に入ってくるまではあと数分あるんだけど。

しかし、踏み入れた教室はなんとなく異様な雰囲気。

「(ん?……あ)」

ぐるりと教室を見渡すと、教室の一番後ろの端の席、
もはや空席が当たり前として背景の一部と化していたその席に人の姿があった。

ちゃん久しぶり!」

ちゃんは2年のときにいじめに遭ってたらしくて、今でも不登校気味だ。
いじめ自体はもうなくなったって聞いたけど。
3年になって2ヶ月経って教室で見るのは始業式とその翌日以来、
私もゆうて話すのは2回目な気がする。

「今年初授業じゃないの、勉強大丈夫なん?」
「…………に……から…」
「え、ごめん聞こえなかった」
「……家に家庭教師来てるから」
「わ、そうなんだ。えっら!マンツーマンで授業ってこと?」
「……ウン」
「ヤバすぎ!1日中!?」
「3時間とか…」
「へーすげぇー」

そんなことしてるんだー…。
もうちょっと学校来られたらいいんだけどなー。
まだしんどい思い残ってるんだろうな。かわいそうだな。
少しずつでも教室に来る頻度上がってくれたらいいなー。
今日はどうして来ようと思ったのかな?
これからは来てくれるのかな?
気になることは色々あるけど…。

「てかアタシのことわかる?アタシ…」
、座れ!」
「あ、ヤッベ」

名乗ろうと思った瞬間に教室に入ってきた教師により名前を呼ばれた。
ヤバイじゃない、と注意されて笑いを浴びながらを着席。

でも今度は数学か。
数学はお絵描きし放題だから好きだ。

マンツーマンで家庭教師かー…。
私もこんな無駄な50分を過ごすよりそういうのの方がいいのかもな。
……絶対イヤだけど。




ちゃん、よかったら一緒にお昼食べる?」

授業が終わってすぐちゃんに声を掛けた。
たぶん気軽に話せる友達そんなにいないだろうし。

ちゃんは驚いた顔をして首を横に振った。
フラれた。笑

「今日はもう帰る…お母さんもお迎えにきてるし」
「あ、そうなんだ。家遠いの?」
「電車で10分くらい…」
「ちっか!うらやましー。うち30分くらい掛かるよ」
「………」
「ほいじゃまたねー」
「…うん」

ぶんぶんと手を振ると、ちゃんはお腹の高さで手を振って教室を去っていった。
午後はまたカテキョってこと?ヤバ。
逆に1時間だけのためによく来たな…。
そう思うと電車で片道10分もまあまあ偉いぞ…。
また軽率なリアクションを取ってしまった…私というやつは…。

、アイツと友達なん?」
「えー友達の定義によるけど、まともにしゃべったのは今日初めてかも」
「マジか。超普通にしゃべるから俺らめっちゃビビってたんだけど」
「ビビる?」
「声掛けるべきかほっとくべきかもわかんねーしとりあえず放置してたけど、
 お前めっちゃ普通だったじゃん」
「あー…久しぶりに見かけたから話してみたいと思って」
「ウケる」

ウケるってなんだよ、と軽くキック。
いってぇ暴力女!と言われてムカついたから今度はもう少し強めにキック。

「超普通にしゃべる」か。
言われてみれば教室に入ったときの異様な空気、
あれはちゃんを見たことによるクラスメイトたちの戸惑いによるものだったんだな。

私は………
……ずっと、その空気を作る側だったからなぁ。

、ご飯食べよー」
「うん!」

滅多に思い返すことのない記憶に思いを馳せかけたけれど
背後から掛けられた声に思考は遮られた。
そのまま午後の授業もいつもどおりにこなした。


ホームルームが終わって友達に話しに行こうと思った瞬間、
担任が「」と呼びとめてきた。何。

「あとで職員室に来てくれるか」
「え、やだって言ったら行かなくていいの」
「…来なさい」
「へーい」

心当たりないな。
この前出した読書感想文また入選した?
いやちょっと早すぎるな。
前回のテストからは日にちが空きすぎてるし。
とはいえ悪事らしい悪事は働いてないし。
いよいよ素行をガチめに注意される?

よくわかんないけど呼ばれたし行くか…。
イヤな話だったらめんどいな。
私の場合悪いことでも良いことでも
どちらでも職員室に呼ばれる場合がまあまああるから困る。

まあすぐに行かなくてもいいかなと友達と30分くらい駄弁って
みんなが帰るというタイミングで一緒に階段下って職員室に向かった。
部活動をしている教師も多いせいか人は少ない。

「おじゃましまーす」
「失礼しますだろ」
「用事って何ーゴルゴ?」

あだ名で呼ぶと担任はまた怒った。
だってゴルゴに似てるんだもーん。
(ちなみにサーティーンの方じゃなくて、松本の方ね)

しかしゴルゴの表情は穏やかに変わって、
これはどうやら怒られる方向ではなさそう。

そしていざ始まったのは。

「今日、教室に来てただろ」

ちゃんの話だった。

「それが何?」
「それがな、と話せたのが楽しかったって言ってたぞ」
「お、マジ?良かったー。うるさすぎて引かせちゃってないかなと思ったんだけど」

自分の軽率さを軽く反省してたとこだったけど、楽しかったなら良かった。
別にちゃんが悪い子なわけじゃないんだから
みんなも普通に話しかければいいのにな。
その“普通”が難しかったりするのかなー…。

「明日も来るかもしれないって言ってたんだ」
「おお、いいじゃん」
「またよろしくな、

良かった、と思ったけど、
直後の一言にカチンと来た。

「よろしくって何?ちゃんがお世話される存在みたいな言い方ムカツくんだけど。
 アタシ別にちゃんにそんなつもりで話してないからやめてくんない?」

言われなくったって話したと思うけど。
それ言われちゃうと、頼まれてやった人になるじゃん。
大人わかってなさすぎ。
勉強しなさいと言われて勉強する気が増す子どもがどこにいるんだよ。

「…それもそうだな。悪かった」
「わかりゃいいんだよ」
「それから敬語を使え」
「気が向いたらな。んじゃ」

しつれーしゃっしたー、とドアが空いたままの職員室を抜けようとしたら
目の前に大石が突っ立ってた。

「げっ、大石!」
「げってなんだ」

また、先生相手には敬語を使うべきだとか失礼しやしたはないだろとか
なんやかや文句を言われると思ったけど…。

……何も言われなかった。
大石は姿勢よく「失礼します」と言うと職員室に入っていって
スミレちゃんと何やら話し始めた。

非の打ち所のない優等生だよな、本当に。


……いいなぁー。


ハッ。

「(アブネェ!!!今なんか洗脳されかけてた!!!)」

思わず見つめてしまった大石の横顔から目を逸らして職員室前を立ち去った。



教室に戻ると、もう既に誰も居なくて電気も消えていた。
ついさっきまで騒がしかったのが嘘みたいだ。

自分の席に、着席。
ため息。
そのまま机に突っ伏してみた。

静かな教室、嫌いじゃないな。

みんなと居るのは大好きだけど、一人は落ち着く。
…………。


さん?」


掛けられた声に、ガバッと体を起こす。
大石の声だ。

「大丈夫かい」
「あ、うん。別に体調悪いとかそういうんじゃない」

ヤベ、変な誤解与えたかも。
そうでなくても大石はお節介なタイプだ。
余計な心配を掛ける場面じゃないと思ってそのまま勢いよく立ち上がった。

別に教室に残っている理由はない。もう帰ろう。
そう思ってさっさと鞄を掴みにかかろうと思ったところで大石が喋りだした。

「さっき、先生と話してるの聞いちゃって」
「あー、ゴルゴと?」
「ああいう話って、結構終わったあとに色々考えちゃったりしないかい」

大石はゴルゴ呼びをスルーして話を続けた。
色々考えちゃったり…。

「いや?そうでもないな」
「あ…そうかい。ならいいんだけど」

ならいいんだけど、と言いながら大石の顔は明らかに何かを気にしていて。
まーた真面目くんでイイコちゃんな大石のこと、余計な妄想してるんだろな。

「気になることがあるなら聞けば?」
「……えっ」
「ないなら別にいいけど」

こういうとこ、日本人の良いところであり、理解できないところでもある。
気を遣えるというのはすごく特別な能力だと私は思ってる。
少なくとも私にはできない。
私には、思ったことを全部口にすることしか。
そして察しの悪い私は、相手にもはっきり言ってほしいと思ってしまう。

大石は眉を潜めたまま口を開いて…結局つぐんだ。
そして目線を逸らした。
何も言わないんかーい。

「なにー、また『先生に話すときには敬語を使え』とかいう話?」

そうじゃなくて、まで言った大石だったけど、
顎に手を当てると「いや、確かに先生たちへの態度は改めたほうがいいな」と言い直した。
出たよ。
真のイイコちゃんにはわかるわけがないんだ。

「お前にはわかんねーよ」

ぼそりと呟くように漏らした私に反して、
大石からは少し張った声での返事が返ってきた。

「突き放さないでくれよ!」

怒った?と思ったけど、その顔に目線を向けると
これでもかというほどの優しい表情で。

「教えてくれよ。何か理由があるんだろ」

下がり眉の下のまっすぐな目線が突き刺してくる。

これだから私は、大石のことが苦手だ。

「…アタシさ」
「うん」
「…めちゃくちゃ頭良いんだよ」
「ん?うん」
「体育だって音楽だって美術だって、得意なものばっかなんだ」
「そうだよなぁ」

納得してくれた。笑
でも実際そうなんだもん。
謙遜する余地もないくらい出来が良すぎる。

「アタシも入学してきたときはイイコちゃんだったんだよ」って自分を指差して笑う。

「1年の最初のテストさ、学年トップの成績だったらしくて。
 それ以降先生たちが急に優しくしてくるのすんげームカついて。
 教師は結局自分に都合の良い生徒を贔屓する」

大石は黙ってた。

「だからアタシは先生に好かれないような生徒になりたい。
 アタシの出来の良さはお前らのためじゃねぇって思う」

私の話を聞いていた大石は、顎に手を当てて考え始めた。

「まあ、先生たちにそういう面がないと言ったら嘘にはなるな」
「嘘になるどころじゃねー!みんなそんなんばっかじゃん!!」
「だけど、それで勉強を放棄するんじゃなくて、
 やることはやって生活態度で反抗を試みるだなんて…
 それがさんらしさなんだよな」
「……何が言いたいんだよ、大石」

プッと、小さく笑った。
その表情は、穏やかで。

「可愛いもんだよ、さんの反抗なんて。先生たちも注意するの楽しんでるだろ」

「俺も楽しんでるよ」だって。
…楽しんでる〜!?!?

「……大石みたいなやつ、一番ムカつく」
「む、ムカつく…!?」

あまり言われ慣れない言葉なのか大石は驚いた表情を見せた。
でも私は大石みたいのがムカついて仕方がないんだ。

「真面目に勉強して、模範通りの生活態度で、その結果成績上がって評価されてんの、
 それが当たり前と思ってほしそうなのがムカつく」

思うがままにぶつけると、参ったな、という表情で眉を潜めて笑って頬を掻いた。
ここで怒るでも反論するでもなく、困ったように笑うのが大石なんだよな。
チクショー…。

さんは、どうなりたいんだ」
「……一旦頭悪くなって、勉強によって成績が上がる体験してみたい」
「……随分贅沢な悩みだな」
「自覚はある」

そう答えると、大石は声を出して笑った。
……なんだよ。
こっちは割と真剣に思ってるんだぞー…?

でも大石が珍しく声を上げてまで笑うもんだから。
いつも私に話しかけてくるときは眉を顰めてばっかなのに、
今日は温かい笑みで、あまりに楽しそうだから。

「は、ハハハ……アハハハハッ」

なんか、私も釣られちゃった。

そうして、しばらく二人で笑ってしまった。
なんでだろ、ちょっと泣きそうになった。


さん」


私より少し先に笑い止んだ大石は私の名前を呼んできて。
そっちを見ると、怖じ気づきたくなるくらいまっすぐにこっちを見てきていて。

「…なに?」
「俺は、さんのことが……好きだよ」
「あ、マジ?さんきゅ」

てっきり嫌われてると思ってたけど、意外とそうではないんだ。
私はというと…やっぱり大石のことは、ちょっと苦手だけど、
嫌なやつじゃないってのは前からわかってる。し、
なんか、一緒に話してたら意外と居心地いいかも?
っていうのがたった今わかったところで。

とかなんとか色々考えてる私の前で
大石は目線を逸らして赤くなった頬を掻いていて。


「あの、そういう意味じゃなくて…。
 君のことを、特別な意味で“好き”って言っているんだけど」


え?

「……は!?」
「なんだ『は!?』って…これでも、告白しているんだぞ」
「………はああああ!?」

いやいやいや。
いやいやいやいやいやいや!!!!!

「いやだって大石はさ、メガネが似合うような優等生タイプとかさ、
 肌の露出は控えるタートルネック女子みたいな清楚タイプが好きそうじゃん!?」
「それは思い込みだよ。俺は、さんみたいなタイプこそ、
 自分にないものをたくさん持っていて尊敬するし…
 その、女の子としても好きだ…と思うんだ」
「ウソだろ…」

大石の周りには素行の良い、よほど大石に似合いそうな女子がいくらだっている。
対して、私は今まで大石には注意されたことしかない。
私に話しかけてくるときの大石はいつも眉をしかめてた。

逆にいうと。
私からは大石と関わろうとしてないのにいつも大石から近づいてきていた、ってこと?
……マジ?

「いや、絶対信じない。要素がない…てか嫌われる要素ばっか浮かぶ…」

そんなことないよ、と大石は笑った。

「校則違反は一つもしていないし、部活や行事には一生懸命だし。
 俺は言うほど君を問題児だと思っていないよ」
「え、ええー…」

急に褒め倒されて、私まで顔が熱くなってきた。

「先生たちへの反抗的な態度も、今日理由がわかって良かったよ。
 さんは意味もなく反抗をするとは思っていなかったんだ」
「ちょっ、待ってなんか、大石の中の私の評価が高すぎて引いてる!」

手のひらを前に出してストップサインを示した。
だけど大石は止まらない。

さんは知らないだろうけど、今日の数学の前の休み時間…
 正直、教室の雰囲気が、ちょっと異様な感じになってしまったんだ」
「……ちゃんが来たときか」

大石はコクンと頷いた。
眉を潜めて暗い表情に変えて、話を続ける。
そこからの話は大石自身の自戒の念も含まれているように聞こえた。

「話しかけていいのか、どう話しかけていいのか…
 結局周囲がざわついてしまうばかりで」

なんとなくその様子は想像できた。
私が11組で遊んでる間に2組はそんなことに…。

「それで、俺も声を掛けてみたんだけど」
「なんて」
「『今日は良い天気だなぁ!』って…」
「………微妙すぎ」
「だよなぁ…」

大石がちゃんに話しかける様子を想像してみた。
カチコチになって気を遣ってるのが伝わりまくりなのが想像できた。
…確かに言われた側は逆に気疲れしそう。

結局会話は続かなかったんだ、って大石は苦笑いした。

「だから、さんが教室に入ってきたあとは、
 クラスみんな救われた気持ちだったと思うよ」
「あーあれね、声デカすぎて申し訳なかったなって後から思ったんだけど
 さっきゴルゴが、楽しかったんだって教えてくれて、良かった〜って」
「立派だと思ったよ」

あまりにまっすぐそう言われて、ちょっとたじろぐ。

「どういう風に話しかけようとか…ためらわないのかい」
「えー、でもクラスメイトじゃん。そこにいたから話しかけただけだよ」

まあ、普通はそうならないのも、理解できる。
私は普通じゃない…というか、私の普通が違うとこにあるだけ。

私がそうなのは、たぶん、
自分がずっとそういう扱い受けてきたからだ。

米国育ち、現地校通い。
アジア人ってだけでクラスの中の異端児だった。
危害を加えられるようないじめられ方はしなかったけど、
存在しているだけでなんとなく周りは少し遠くて、
目立つことをするとざわついた。

でも鈍感な性格のせいで、別に嫌な気持ちにならなかった。
だから、浮いてる人を見かけてすぐに話しかけるのは、
かわいそうと思ってるとかじゃない。

私にとってはその空気が普通だった。
ただそれだけ。

「(それでも話しかけてくれた子はいて、それがアタシの初恋相手だった)」

淋しかった自覚すらなかった私の心に、ぽっと光を灯してくれた子。

「(ちゃんも、ああいう温かい気持ちになってくれてたのかな…)」

そんな日々を終えて日本に帰国したらしたで、
周りと自分の考え方はあまりに違いすぎた。
自分の考えより周りの考えを尊重するのが普通。
みんなと一緒が良いことで、
みんなと違うは変なこと。
ちょっとずつその考え方を理解できるようにはなったけど、
私はみんなと同じ考えになることはついにできなかった。

どこにいっても私は一生異端児だってわかってしまった。
それをイヤだと感じる性格に育たなかったことには感謝。

どこにいっても私は私。
君は君。

「アタシだったら普通に話しかけてもらった方が嬉しいしさ」
「うん。頭ではそう思うんだけどでもそれが自然にできるのがすごいよ」
「…どーも」

そう言って私を褒めてくれる大石も、変わったやつだなと思った。
悪い意味でなくな。
そんなことを考えながら大石の顔を見ていると。

「そんなこともあって、やっぱりさんのこと、いいな…って再び確信して」

あ。

その一言で思い出した
そういえば。

「あとは……さっき伝えた通りなんだけど」

大石はこちらの表情を伺うようにそう言ってきた。
遠回しに「返事がまだだぞ」と。

そうだよ。
アタシ、大石に告白されてるんだった!!

マジでマジなん?
…………ヤバすぎ。

「…アタシはさ」
「ああ」
「逆に、大石みたいなタイプとか、アリエネーって思ってたし、今も思ってるんだけど」
「…そうか」

でも、今、少しドキドキしてる、
……って伝えるのはさすがに悔しいから。

「思ってたよりいいやつかも、とは思ってる」

今の私に言えるのはここまでだ。
ちら、と大石の顔を見ると楽しそうに笑ってた。

イイコちゃん。
クソ真面目代表。
強気で押せば押し通せるやつだと思ってた、のに。
今、確実に私が押されてる。

「どうしたら男として意識してもらえるかな?」
「シラネーよアタシに聞くなよ…」

大石は一歩近づいてきて、
気味が悪いから半歩下がった。
もう一歩、もう一歩、
最終的に私の背中は窓についた。
大石の腕は私の顔の横。

「これでどうだい?」
「お前……見かけに寄らないな」

思いがけない行動にぱちぱちと瞬きを繰り返してしまう。
大石がこんな思い切ったことをするだなんて。
そう思っていると、「さんこそ」と大石は笑う。

「顔赤いぞ。見かけに寄らずシャイなんだな」
「!!!」

大石の顔が、眼前30cm。
したり顔で見下ろしてくる。
耐えきれなくてドンと突き飛ばした。

なんだコイツ…!

「とりあえず、次のテストは私が学年トップだから!憶えてろよ!」
「楽しみにしておくよ」

そう伝えながら教室を走り去る。
振り返ると、大石は教室の中からこっちを見て、笑った。
……ゼッテー潰す!!!

「(なんで、そんな余裕あるんだよ…!)」

治まる気配のない胸を押さえながら階段を1段飛ばしで駆け下りる。
すれ違う教師に「こら走るなー」と言われたから「へーい」と返して
手すりを滑り降りていって1階に着陸した。

何アイツ。
意味ワカンネー…。


好きな人はいないけど、逆に「コイツはない」と思ってる人はいる。
そして、その人は私のことを嫌っている。

と思っていたけど。

その人は私のことを好きだというし。
私もコイツはないと思っていたのに…。

「マジでムカつく、大石」

零すように吐き捨てて、靴を踵で潰したまま校舎をダッシュで駆け出した。
























「大石が三次元にいたら確実に嫌われてた」が口癖な私なのですが
それでもなんとかうまく行く方法はないかと考えた結果こうなったw

さすがに若干は盛ってるとはいえ中学校時代の私は
おおまかこの主人公みたいな感じだったので…(青ざめ)
クラスの真面目男子が私の素行を正してくるのに対して
「うるせー学級委員!いい子ぶってんじゃねぇ!!」て
吐き捨ててたのマジで反省する。。(←)
色んな経験をして今はだいぶ丸くなりましたwホントホントww


2020/04/26-2021/05/12