* 輝く休日になりますように *












今週末は私の誕生日だ。
けど、プレゼントどころか大量の書類を抱えて私は帰宅していた。

仕事…全然終わらない…。
人数に対して処理すべき量が多すぎる…。

このままだと誕生日も仕事三昧かもな、
と来る日曜日に向かってため息。

まあ、いいけどさ。
別に仕事がなかったところで何か予定があるわけでもないし。
何もしない不毛な休日を過ごすよりは良かったかもしれない…?

「(いやそんなことないよ!思考が完全に社畜だった!危ない!)」

自分で自分に突っ込みを入れる。
だけど残念ながらこの週末は平日に終わりきらなかった
仕事と共に帰宅しているのは事実なわけで。

せめて土曜日のうちに終わらせて、日曜日は平和に過ごそう。
そう決心した。

「(とりあえず…今日は寝よう)」

くたくたで家にたどり着いて、
メイク落としてシャワー浴びて歯磨きして…と
なんとか人として最低限の任務をこなして
ベッドにダイブしたところで金曜日の夜が過ぎていった。



  **



そして迎えた土曜日。

「(…やる気出なーい)」

休日は休む日と書いて休日。
そうでなくとも平日は疲れ切ってるのに
少しくらいゆっくりする時間はほしいよ…。

「(まあ…今日休んでも…明日も休みだし…)」

そう思ってスマホを弄りながらごろんと寝返りを打った。

目的があるわけでもなくSNSやネットニュースを眺めて時間が過ぎる。
さすがにお腹も減ったし何か食べるか、と
午後になってからようやく布団から体を起こした。

カーテンを開けると太陽はもう一番高い位置を通り越していた。

明日は誕生日だし、今日が今の年齢で過ごせる最終日だというのに。
私は何をしているんだろう…。



のそのそと階段を降りると、居間には家族が集合していた。
どうやら昼食の時間みたいだ。

「あら起きてきたの、あんたの分ないわよ」
「あー…なんか買ってくるからいい」

どちらにせよ起き抜けでラーメンはちょっと重たいしね。
漂ってくる匂いはとてもおいしそうだけれど、
私はサンドイッチでも食べようかなと財布だけを掴んで家を出た。

起き抜けそのままの悲惨な格好だけど、
まあいいよねコンビニ行くだけだし。
誰にも会わないだろうし。

と、この心の中での言葉がまさかフラグになっていたとは思わず。

「(朝ご飯と…あとで仕事するとき用にこのへんも買っとくかー)」

お菓子の棚から何種類か適当に見繕って籠に入れて、
追加でエナジードリンクでも買おうかと冷蔵庫に移動すると。

……ん?

冷蔵庫の前に居た人物には、見覚えがあって。

「(お、大石…!)」

なんとそこには中学の同級生。
見かけるのは8年ぶりとかだ。
確かに家は近かったけど、こんなときに会ってしまうなんて。

ドすっぴんでスウェットのままここに来てしまった私は
爽やかな水色シャツにベージュのチノパンを穿いた大石から
一歩、また一歩とじりじり遠ざかる。

そーっと…。

「もしかして……?」

……バレた。

人違いですよって白を切るのはさすがに厳しすぎる。
我ながらめっちゃ引きつった笑顔で「ひ、久しぶり」と返事をする。

早く去りたい…!と思っている私にも気付かずに大石は笑顔を輝かせる。

「やっぱり!そうじゃないかと思ったんだよ」
「奇遇だね」

それじゃあ、と会話をぶった切って去ろうと思ったのに
「今もご実家に暮らしているのかい」とか会話を広げてくる。
さすがに質問されているのを無視するわけにはいかずに答える。

「そうだよ」
「そうなのか。もう働いてるのかい?」
「うん。大石も?」
「いや、俺はまだ学生なんだ。医学部の6年だよ」

そうか、医学部…!
そういえばお医者さん目指してるって中学の頃から言ってたっけ。
夢をしっかり追ってるんだ。眩しいなぁ…。

それに比べて私は…。
夢も希望もなくただ毎日与えられる業務を必死にこなすだけで…
それどころかこなしきれずに自分の時間まで奪われて。
はあー……。

思わず遠くを見る目をする私が持つ籠をチラリと覗いた大石は怪訝な顔をする。

「実家暮らしなのに…そんなものを買うのかい」
「あ」

そこにはサンドイッチとサラダとヨーグルト、とプラスでおやつ。
確かに実家でお母さんの手料理出てたら必要ないよね。

「仕事が激務で家族と生活リズムずれちゃってさ」
「そうか…大変だな」

本当はずぼらなだけなんだけど、とは言わずに
大石の労いの言葉をそのまま胸に受け止めてしまう。

更にここにドーピング用のエナジードリンクを追加しようと思ってたとは言えない。
大石の前の冷蔵庫から目を逸らし今度こそ「それじゃー…」と去ろうとすると。

「せっかく会ったんだし、もう少し話していかないかい」

そんなことを言う。
確かに中学の友達と会うのなんて久しぶりだ。
思い出話に花を咲かせたらさぞ楽しかろう。
しかし…。

「(いや、せめて、まともな格好をしてるときにしてほしかった!)」

自分の全身を見回して青ざめる。
これはなんとしても帰るしかない。

「ごめん!私、家に帰って仕事しないといけなくて」
「そうなのか…土曜日なのに大変だな」
「そうなんだよー明日も誕生日なのに仕事になりそう」

そう漏らすと「明日誕生日なのかい」とまた拾われてしまって。
つくづく大石は会話を広げるのがうまい。
だけどこれ以上広げないで…!

「どうせ他にすることもないからいいんだ!じゃあね!」

そう捨て台詞を吐いて去ろうとしたけど「待って!」と呼び止められて。
振り返った大石は真剣な表情をしていた。

「他にすることないんだったら…明日、改めて会えないかい」

大石はそんなことを言う。
え。なんでなんで。

「ごめん急に誘って」と大石は照れ笑いで頬を掻いて、
思いもしないようなことを言う。

は俺の初恋の人だったから、偶然再会できて浮かれちゃってるんだ」

……え?

「誕生日に予定がないってことは、チャンスがあると思っていいのかな」

大石はこちらの様子を伺うような下がり眉の笑顔を見せてきた。

これは……なんとしても今日中に仕事を終わらせるしかないな。
それで明日は、思い切りオシャレをして出掛けよう。

今の私にはとても言えないけど、
明日の私は自信を持って伝えられるといいな。
「実は私も貴方が初恋でした」って。

しょうもない休日になりそうだった誕生日が、急に輝き出したように感じた。
























いつも頑張って社畜ちゃんやってるフォロワさんの誕生日なので。

大石の、いかにも空気読んでそうで全然読めてないとこ好き(←)
はーーー昔同級生で両片想いだった大石とひょんなことで再会したい人生だった…。

リアルに寄せるために「コンビニまで車で行った方がええんか?」
とか考えたけどそれだと大石が地方住み設定になっちゃうので
東京っぽい描写でコンビニは徒歩圏内にしたよw

のえちゃーお誕生日おめでとうー!


2021/05/08-09