* いいよね今日くらいは *












あの子の周りは人が絶えない。
そして今日は、いつもに増して。

「「、お誕生日おめでとー!!」」

楽しそうに盛り上がる女子グループ。

俺は少し離れた位置から、
大して興味がなさそうにちらりと横目で伺う。
だけど本当は、誰よりも気にしているほどだ。

「みんなありがとう。うれしー!」

そう言って笑う彼女の笑顔は今日も輝いていて意図せず視線を奪われた。
盗み見がうっかり凝視に移り変わっていたことにハッとして、視線を前に戻した。




  **




「「、お誕生日おめでとー!!」」
「みんなありがとう。うれしー!」

今日は私の誕生日。
祝ってくれるみんな、大好き。
でもそれだけじゃない。

「(協力、感謝…!)」

プレゼントをくれる子たちもいて、私たちの輪は更に音量を上げていく。

そうこうしていると他のクラスメイトから
って今日誕生日なん?ハピバ〜」
ちゃんお誕生日なんだね。おめでとー!」
なんて声を掛けられたりして。

今のところ、作戦は順調に進んでいるといえる。
さあ、今日が終わるまでに目標は無事に達成なるか…!




  **




彼女の誕生日を知ったのは先週、俺の誕生日のことだ。

「大石、今日誕生日なんだって?おめでとう!」

そう言ってとびっきりの笑顔を向けてくれたあとに

「じゃあゴールデンウィーク前最後が大石の誕生日で、
 ゴールデンウィーク明け初日が私の誕生日ってことだ」

と何気なくこぼしていた。
ゴールデンウィーク明けということは…6日?

聞き返そうと口を開けた瞬間、
さすが人気者らしい彼女は「なあ」と声を掛けられて、
「それじゃあね大石」と俺の目の前から去ってしまった。

確認はできなかったけれど、さんの誕生日は6日でまず間違いないだろう。
まさか自分の誕生日がきっかけで彼女の誕生日を知ることができるなんて、幸運だ。
誕生日プレゼントかもな、なんて。

そしていよいよゴールデンウィークが開けて、6日を迎えたというわけだ。
今日はなんとか、二人で話す時間を取りたい…!




 **





大石の誕生日のとき、私はお祝いの声を掛けた。
そしてさり気なく自分の誕生日もアピールしてみた。
だけど話を広げる間もなくクラスメイトに二人での会話を遮られてしまった。(クソー!)
あれじゃあきっと憶えてないよね…。

「(でもさすがにこれだけ騒げばわかったよね、今日が私の誕生日だって)」

話しかけてきてくれないかなー。
自分から話しかけてもいいんだけどさ。
いつもそうだから、たまには向こうから声を掛けてほしいな、って。
誕生日だし、それくらい願ってもバチは当たらないよね…?

「(大丈夫、作戦はばっちりだ)」

登校してから朝の会が始まるまでの時間、
私は友達と目一杯大騒ぎした。
大きな声でお祝いされて、プレゼントも渡された。
大石が一瞬こっちに注目したのも視界の端で確認できた。

ここからは、友人らには距離を置いてもらう。
今日の私はなるべく単独行動!

何故って、大石は女子グループが盛り上がっているところに
割って入って声を掛けてくるようなタイプではない。
“隙”を作ることが大事なのだ。

誕生日を好きな人から祝ってほしいな、と話したら
みんながこの作戦を提案してくれて、いざ実行に移っているというわけ。
友情に感謝だ…。

わざとゆっくりと大石の机の横を通過してみたり、
日直でもないのに一人黒板を消してみたり、
話しかけやすい隙を作ってみる。

だけど……。

「(話しかけてこない、か)」

大丈夫、今日はまだまだ続く…。




  **




さあ、昼休みだ。
いつも通り学食に向かおうとすると、
さんが教室の机に座ったままなのが目に入った。

いつも仲良く過ごしてる子たちは
先に教室を出て行ったのが見えたが。
誕生日とあったら、みんなに囲まれて祝われたりしないのだろうか。
そうでなくても彼女の周りはいつも人で一杯なのが通例なのに。
今日に限って、何故だろう。

声を掛けてみようか、と斜め後ろから歩み寄って、
残り1mという位置でとある考えが頭を過って足がこわばった。

もしかして、誰かと待ち合わせをしているんじゃないのか…?

そう考えると納得だった。
さん、そういう特別な人がいるのか…。

今日、彼女に声を掛けて話をしたいと。
そう思って今日は意気揚々と登校したのに。

俺は何を舞い上がっていたのだろう。




  **




放課後になってしまった。
大石からは、まだ声を掛けられていない。

、うまくいった?」

朝に話したっきり疎遠になっていた親友が小声で耳打ちしてくる。
だけど私は、首を横に振る。
そっかー…と、私と同じくらい落ち込んでくれる様子が見えた。
そして、くるりと笑顔に切り替わる。

「じゃあ、これからカラオケでも行く?」
「…うん!」

好きな人にお祝いしてもらいたいっていう願いが叶わなかったけど、
大好きな友達に囲まれて、私は幸せだ。




  **




考え事をしているうちに午後の授業は終わっていた。
考え事というのは、もちろんさんのこと…。

昼休みはしばらく教室に留まって様子を伺ったけれど、
結局さんが誰と待ち合わせをしていたかはわからなかった。

誰なのだろう、さんの特別な人は。
学内と考えて間違いないだろう。
同じクラスではなさそうか。
考えてみれば同じ学年とも限らないのか。
一体、誰なのか……考えても答えは出なかった。

「じゃあ、これからカラオケでも行く?」
「うん!」

そんな会話が耳に届いた。
放課後は友達と過ごすみたいだ。
楽しそうに笑う姿が見えた。

さんが楽しそうなら、俺は、それで満足だ。

俺も部活に向かおう。
教室の後ろに向かいテニスバッグを拾い上げた。

お誕生日おめでとう、さん。

心の中で唱えながら教室を出ようとして
ふとしたことに気づいて足を止めた。

「―――」

伝えていない。
お誕生日おめでとう、と。

祝いたい気持ちは、変わっていないんじゃないのか。
たとえ君には、誰か特別な人がいようとも。
君が生まれてきたことは俺にとっても嬉しくて。
君を祝いたいという気持ちは、変わっていなくて――…。

あと一歩で教室から踏み出すその足を、止めた。
教室の内側を、振り返った。
楽しく盛り上がる輪の中の君と、
目が合った。

「っ、さん!」

考えるより先に、大きな声で名前を呼び上げていた。




  **




さん!」

大石が私の名前を呼んだ。
その瞬間、私たちのグループ全員が硬直した。
特に私のフリーズが一番激しかったのを、
横からの肘鉄によって目覚めさせられた。

「え、あ、はい!」
「その、今日誕生日だったよな」
「あ、そ、そうなの!よく知ってたね!」

それは一見、何気ないクラスメイト同士の会話。
他のクラスメイトたちも気に留めない様子で教室から去っていく。
だけど私の心臓は信じられないほどドキドキと鳴っていた。
自分で何言ってるかわからなくなるくらい。

「今朝お祝いしてるのが目に入ったから」
「あ、そうそう!騒がしくてごめんね!」
「いや、そんなことないよ。楽しそうだなって」

話しているうちに、いつの間にか教室には私たちグループと大石だけ、のはずが、
パタパタと背後で音がしたかと思うと、
いつの間にか教室には私たちだけになっていた。

「(ゆ、友情〜!!!)」

空気を読んで去ってくれた友人たちに感謝。だけど、
心臓がバックバクで半端ない。
大石と話すことは今までもいくらでもあったことだけど、
こんな、周りに誰もいない二人っきりって初めてかもしれない!?

「それから、ゴールデンウィーク前にも話をしただろ」

大石はそう言った。
それは大石の誕生日に交わした、あのさらりとした会話のこと?

「憶えててくれたんだ…」
「ゴールデンウィーク明けだって印象に残ってたから」

大石は少し照れた風にそう言った。
この誕生日に生まれたことに感謝だな、と思っていたら。

「そのときから、どうやってお祝いの言葉を伝えようか考えていたんだ」

え……?




  **




「大石、私のことお祝いしようって事前に考えてくれてたの…?」

さんは目を丸々とさせて固まった。

そして、しまった、と思った。
さんには、特別な人がいるというのに…!

「ごめん、忘れてくれ!」
「なんで!」

咄嗟に後ずさりした俺の服の裾を、さんが掴んで。

「…なんで?」

見上げてくる瞳は揺れていて、
不安そうなのに、美しくて。

ああ、これ以上俺の心を揺さぶらないでくれ。

「君には……特別な人がいるだろう」

胸が苦しくなりながら、そう告げた。
認めたくない事実を、さんの口から直接聞くことになってしまう。
でも、事実は事実だ。
覚悟を決めて返事を待っていると。

「私の特別な人は…大石だよ」

え?

「大石に祝ってもらいたいって、今日一日ずっと思ってたんだ」

まさかの答えが。

「ほ、本当かい?」
「こんなことで嘘つかないよ」

これは、もしかしてさんも俺のことを…?

「そういう大石こそ…全然声かけてくれないから…」

そう言って口を尖らせた。
いじらしくて…可愛い、と思った。

さんはいつも人に囲まれてばかりだから、チャンスがなくて」
「えー、今日はわざと一人でふらついてみたりしたんだけど」

あはは、とさんは照れ隠しの表情で笑った。
そんな健気なことをしてくれていたのか…!

言われてみたら、今日は一人でいる姿を結構見かけたような。
しかし休み時間はなんだかんだ周囲に人がいる。
昼休みに関しては、俺はあらぬ誤解までしてしまった。
だけどあれは俺のためにわざと一人でいてくれたってことなのか…?

「…俺も、二人になれるタイミングを伺っていたんだ」
「え?」

さんが不思議そうにまばたきを繰り返す。

そう、俺は二人きりになりたかった。
まさに、今みたいに。

今が、チャンスだ。




  **




「二人になれるタイミングを伺っていた」…?

さっきから話を聞いていると、
まるで、まるで……大石が私のことを好きみたいだ。
本当に?
そして私も、もう、「大石のことが好きだ」と伝えているようなものだ。

胸が、ドキドキ。

「どうして、タイミングを…?」

もう、わかっちゃってる気もするけど。
もしも「大石のことが好きだ」って伝えたら
嬉しいお返事がもらえそうな気もするけど。

だけど確信を得たくて、敢えてこちらから質問。


「俺……」


いいよね、だって。


さんのことが前から好きで……伝えるならこの日かな、って」


今日は一年に一度の私の誕生日なんだもん。


「…本当、に?」
「こんなことで嘘はつかないよ」

まさか、大石から誕生日を祝ってもらえるに留まらず、
こんな最高のプレゼントがもらえるだなんて。

ありがとう。嬉しい。私も好きだよ。

って、伝えようと思ったら。

「「おめでとー!!」」
「え、ええっ!?」

まさかの、廊下で待機していたらしい友人たちが。
さっきまでの静かな教室はどこへやら、
一気に祝福の声で一杯になった。

それは今朝、朝の会が始まる前みたいな。

「今日はカラオケキャンセルね」
「ごめんねぇ〜ちゃんっ」
「え、え、えええっ!?」
「その代わり、今日は二人でどっか行っておいで」

そう言って、背中をドンと押された。
よろけた私は大石の胸にぶつかりそうになって、
大石は私を支えてくれて。
見上げたら、赤い顔と赤い顔で目が合って。

こんな幸せな誕生日ある?

「それじゃあごゆっくり〜」
「良い誕生日を〜」

そう残して去っていく友人たち。
教室に、今度こそ完全に二人きりで残された大石と私。

これって…私たちって、両想い、ってこと?
付き合う、ことになるの?どうなるの!?

「えっと……それじゃあ、どっか、行く?」

ドキドキしながら声を掛ける。
初デートの予感に胸を高鳴らす私をよそに大石は眉を潜めていて。

「できればそうしたいけど……俺、部活に行かないと」

心底申し訳なさそうにそう言った。
そうだ、大石は部活あるよね。

良かった。
ここで部活をサボるような人だったら私は好きになってない。

「そっかぁ。じゃあ仕方ないね」
「ごめんな…」
「謝らなくていいよ!私、部活頑張ってる大石のこと応援してるから」

これは本心。
部活頑張ってほしい。
でも、せっかくの誕生日なのに残念な気持ちがないわけではなくて。
………。

「いっこだけワガママ言っていい?」
「ああ、なんでも言ってくれ」

めちゃくちゃ真剣な顔して覗き込んでくる大石。

ああ。
私の好きな人は最高だ。

「部活終わるの、待っててもいいかな?」

そう聞いたら、大石は笑顔で「もちろん!」と言って、大きく頷いた。

「それじゃあ…またあとで」
「うん。頑張って」

大石は、忙しなく早足で教室を出ていった。
その背中が階段に消えていくのを見守って、一旦着席。

本当に…本当に?
私たち両想いなわけ!?
付き合うってことなっちゃうわけ!?

「(キャー!!!)」

足をじたばたさせて一人大騒ぎ。
こんな素敵な誕生日があるだろうか。

「(そういえば)」

まだ、明確に言葉で「お誕生日おめでとう」って言われてないな…。
予期せぬプレゼントですっかり忘れてしまってたけど。

あとで、お願いしてみよう。
「おめでとう」って言ってほしいって。
いいよね、だって。
今日は一年に一度の私の誕生日なんだもん。
それに私たち両想いってわかっちゃったんだもん。

言ってもらえたら、私も伝えないと。
さっき言えなかった、「ありがとう」と「嬉しい」と「私も好きだよ」を。
























私の誕生日?
じゃあ大石夢を書くしかないだろう!(迫真)

敢えて部活に向かわせるあたりが私の大石への愛だと思ってくれ。
青春ラブこそが至高だし友人たちも気のいい子たちで最高だ。
大石を呼び捨てして大石にさん付けされてるあたりも私の好み(笑)

めっちゃ無意識に恋風構文使ってしまったw
もう体に染みついてるんよw


2021/05/06