* Present from You *












4月30日は私の彼氏の誕生日、だった。
だけど当日彼に会うことは叶わなかった。

彼は忙しい人だ。
だから当日会えないのは残念ではあるけれど仕方がないとも理解していた。
そう理解はしていたけど、やはりとても残念であるのもまた真実だった。

せめて日付が変わった瞬間ににメールだけでも送ろう、
と思ったのに凝った文面にしたいと試行錯誤していたら
ようやく送信ボタンを押せたときはとっくに0時は回ってた。
規則正しい彼のこと、どちらにせよメールを見るのは
翌朝になってからだっただろうと思いながらも
0:28という履歴の残った送信メールは私の納得いくものではなかった。

当日中に会えるのだったら些細な問題だったように思う。
直接会うことはできないから、せめてものメール、
のはずだったのにその渾身の一撃を逃してしまった気持ちだ。
なんだかなぁ…。

こんなに残念に思っているのは私だけなんだろうな、とも思う。
彼にとっては、誕生日当日も365日のうちに1日に過ぎなくて、
その日一緒に祝えないことにこれほど私が残念がってるとは想像していないだろう。

何より、彼自身が私と一緒に過ごしたいとは特に思っていなさそうだった。
「4月30日か。放課後に部活あるから、会うのは難しそうだな」
という言葉に続いてあっさりと翌日を代替案として出されたことがそれを証明している。

彼は、これから約24時間、どのように過ごすのだろう。

「(……寝よ)」

結論の出ないことをうだうだ考えているうちに
メールを送ってからもかなりの時間が経ってしまった。
私だって明日は学校がある。
どうせこれ以上待っても返事は来ないだろうし。
ケータイを閉じて部屋の電気を消して布団に潜った。





目が覚めるとメールに返事は来ていた。
それは6時台に送信されていて、
やっぱり私が0時ジャストに送ったところで彼はもう寝ていたのだろうなと。
でも0時から0時28分までのその間に他のメールが来ていたかも、
と考えたらやっぱりちょっと悔しくなった。

この返信は朝練前に電車に乗っているときだろうと予想する。
本文中のお誕生日おめでとうとは別に
縦読みで仕込んだ“ハッピーバースデー”に気付いてくれて
「考えるの大変だっただろう?」と労いの言葉を添えてくれていた。

「良い一日になりますように」と返事をして、私も一日が始まった。

ニュースキャスターが告げる今日の日付も、
街中で見かける数字も、
ノートを取るときも。
ありとあらゆるタイミングで大好きなアナタの誕生日だと思い起こされて嬉しくなる。
その直後に、まあ会えないんだけどね、と思い起こして淋しくなる。

今頃どうしてるだろう。
学校のみんなに祝ってもらってるのかな。
私立に通ってる人ってみんなお金持ちそう。
高額なプレゼントもらってたりするのかな。
友達同士でそこまではさすがにないか…。

しがない市立である不動峰中に通う私には想像のつかない世界だ。
まあ、私立といっても氷帝みたいなボンボン学校ではないから
そこまで高額ってことはないかもだけど…。

どんなお祝いのされ方してるのかな。
意外とドライで祝われてなかったりとかする?

わからない。
何もわからない。
今日一日どんな風に過ごしているのか。
こんなことがあったよってメールで教えてくれたりしないかな。
出掛ける直前に送ったメールは、帰宅する頃には返事がきているだろうか。
(いいよねケータイ持ち込みOKとか。自由な校風の青学らしい)

おはよー、なんか元気なくない?」

ふぅとため息をついたところで丁度登校してきたに声を掛けられた。

「おはよ。……今日さ、彼氏の誕生日なんだけど」
「えっおめでとう!例の青学高等部の?」
「そう」
「えーおめでたいじゃん。なんで元気ないの」
「誕生日当日だけど会えないから」
「…なるほど」
「……」

理由に納得したらしいはまともな慰めの言葉を浮かばない様子で固まった。
ポジティブ思考だけど嘘がつけないらしいなと思った。

「で、次はいつ会えるの」
「明日」
「ならいいじゃーん!」

意外とすぐ会えるとわかっては今度は曇りなく笑った。
まあ、そうなんだけど。
私が当日に固執しすぎなのかな。
半年ほど前に付き合えることになってから割とすぐに誕生日を教えてもらって
まだかまだかと待ち望んでいた日付であっただけに
当日会えないと知って酷く落胆してしまった。
4月30日は、いつの間にか私にとってすごく特別な日付になっていたんだ。

「プレゼント何あげるの」
「部屋で使える小型プラネタリウム。彼、星が好きでさ」
「えーすごーい!」
「でもすっごい安いやつだよ」
「値段じゃないでしょ」

は指を組み合わせて「いいなーロマンチック。私も彼氏ほしー!」と叫んだ。
確かに。
考えてみれば、彼は私には勿体ないほどの彼氏で、
付き合えているだけで感謝しなければいけない。
去年、クラスの神尾に誘われてテニス部の大会を見に行って一目惚れして
今日を逃したら一生会えないかもしれない…と思って勢いで連絡先を聞いて
なんやかややりとりが続いて付き合えることになったわけだけど。

そう考えているうちに、
付き合えてはいるけれどまだ私の片想いなんじゃ…という気がしてきた。

彼は優しい人だ。
自分のことよりも、まず相手を優先する人。
人を傷つけないように行動して言葉を選ぶ人。

私のことを好きだから付き合ったというより、
フったらかわいそうみたいな気持ちもあったんじゃないかな…。

はぁ〜〜〜…。
なんで、彼氏の誕生日当日にこんな鬱屈した気持ちになってるんだ、私は。





その後、授業を終えて帰宅してもメールの返事は来ていなかった。
今日も一日忙しく過ごしていたのだろうということが想像できた。
彼の中で私の存在はあまり大きくないのだろうな、
ということもわかってしまった気がした。

結局次に返事が来たのは夜の9時頃で、
内容も明日の待ち合わせ場所と時間の確認だった。

そのメールは『明日も朝が早いから俺は寝るよ。おやすみ。』
と締めくくられていて、当然返事を送ってもその返事はこなかった。

なんだか、なぁ。

起き続けていれば今日はまだまだ延ばせるのにな…。

そんなことを思ってケータイとにらめっこしたけど、
これ以上夜更かしすると明日に響く…と判断して私も寝ることにした。





寝て起きて今日は5月1日。
念願のデートの日。
カレンダーを5月に捲っていると、
誕生日は過ぎてしまったなぁと改めて感じられてしまってちょっと落ち込んだ。

でも、気持ち切り替えよ!
今日は本人に会えるんだから!

青学は土曜日も午前中に授業がある。会えるのは午後だ。

着る服も決まった。
プレゼントのラッピングも済んでる。
準備は万端。
あとは時間を待つのみ。

プレゼント、喜んでくれるかな。
喜んでくれるよね、前に欲しいって言ってたやつを買ったし。

出掛けるまで、あと3時間もある。
暇だなー…。
向こうは2時間目が始まるくらいか。
授業終わったあとは委員会の仕事が少しあるって言ってたな。
本当に忙しい人だよね。
きっと、私と会えなくても淋しいとか思う暇すらないんだろな。
そもそも私と会えないことを淋しいと感じてくれるかわからないけど。

そもそも私と会うっていうことは、
彼にとって喜んでもらえることなのだろうか。
疲れてるだろうしせっかくの休みはゆっくりしたかったりしないかな。
彼は優しいから、誘われたら基本的には断らないというだけで。
誕生日当日だって無理したら会えたかもしれないけど
無理してまでは会いたいと思えない存在なんだろうな、私は。
……。

ダメだ。
気持ちがどんどん後ろ向きになっていく。
一日過ぎちゃったとはいえ、今日は誕生日の振り替えデートで、
そもそもデート自体が久しぶりだっていうのに。

ケータイを取り出す。
新着メールは当然だけどない。
……。

ハァ、と大きくため息。
画面を切り替えてダイヤルを回す。
出てくれるかな…。

『もしもしー、どしたの?』

は3コール目で出てくれた。

ー…」
『どうしたの、元気ないけど。もしかしてドタキャンされた!?』
「このままだと私がドタキャンしちゃいそう…」
『は?なになになに!?』

私は洗いざらいに話した。

当日会えなかったことがとても残念だったこと。
向こうがどう過ごしていたかすらわからなくて淋しいこと。
私は無理してまで会いたい存在ではないんだということ。
そもそも私は彼女としてふさわしくないのでは…ということ。

「そう考えてたら、落ち込んじゃって」
『…………』

私の話を聞いては固まった。
慰めの言葉が浮かばないってことかな。
は正直者だから、こういうとき嘘はつけない。

やっぱり、ポジティブ思考の鬼みたいなでも
この状況はプラスに受け止められないってことか…。

そう思ってたら、沈黙を破ったの声はあっけらかんとしていて。

『なんで、相手がのこと好きじゃない前提で話してんの?』

……ん?

「え?」
の話聞いてるとそうとしか聞こえないよ。二人は付き合ってるんだよね?』
「付き合ってる、けど…それはたぶんフったらかわいそうと思われてて…」
『たぶんでしょ!?そう言われたわけじゃないじゃん』

そうだけど…!
反論しようと思ったけど、だんだんわからなくなってきた。
え、私がおかしいの?がじゃなくて?

『自信持って会いにいけばいいし、一生懸命考えて準備したプレゼント渡してあげればいいよ』
「そうだけど…喜んでくれるかな」
『絶対喜んでくれるって』
「なんでそう言い切れるの…私、好かれてる自信ないよ…」

何を言われてもうだうだと後ろ向きな発言をしてしまう私。
真反対すぎると私。
私はどうしてもみたいには考えられない…。

そんな私に嫌気が差したように、は声を張り上げた。

『もう、いいじゃん最悪好かれてなくったって!は好きなんでしょ!?』

はっ、とした。

そんな考え方ある?
彼氏なのに、好かれてなくてもいいって。

「……うん、好き」
『じゃあそれを精一杯伝えなよ』

好きな気持ちを、精一杯伝える…?

『大丈夫だって。そもそも圧倒的片想いから付き合うに漕ぎ着けられたんじゃん』

名前も知らない状態で声を掛けた。
普段は引っ込み思案な私が、駆り立てられるみたいに衝動的に動かされた。
それくらい大きなこの気持ち。

「そ…っか」
『そうだよー』

私、思い上がってた。
付き合ってるんだから好かれているのが当たり前だって。
そうじゃなかったら悲しいって。

いいのか。片想いでも。

「ありがとう、!」
『ぜーんぜん!がんばってね!』
「ありがとう!」

通話を切断。
感謝。

…こうしちゃいられない!

「お母さん、台所貸して!」
「いいけどどうしたの。火は使うの?」
「クッキー作る!ガスは使わない!オーブン!」

冷蔵庫と棚を確認。
卵ある。小麦粉ある。砂糖ある。
不安だったけどバターもある。いける!

「えぇ随分急ね。何かあるの?」
「……ナイショ!」

えぇ教えてよ、と肘で小突いてくるお母さんを無視して生地作り開始。

これは、彼のためじゃない。
これは私のためだ。
君のために一生懸命になっている自分になりたい。

今更何やってるんだろう、って考えて笑っちゃった。
誕生日はもう過ぎたのに。当日は何もしなかったのに。
しかも計画的じゃなくて出掛ける2時間前に閃いて急に。
でも、好きな人のために一生懸命になれる自分が誇らしくもあって。

超特急だけど、愛情はたっぷり込めて。
できたてほかほかの温かいままのクッキーを
無造作に袋に突っ込んで出掛ける準備をした。



  **



「秀ちゃん!」

待ち合わせ場所にその姿を見つけて声を掛けて駆け寄る。
秀ちゃんは私に気付くとにこりと笑って歩み寄ってきた。

「いつも言うけど、走らなくていいのに」
「ううん、早く会いたかったから。
 …昨日だったけど、お誕生日おめでとうございました」
「ありがとう」

秀ちゃんはにこりと笑った。
大好きな笑顔。
胸がきゅんとなった。

ああ、私、本当に秀ちゃんのことが好きだな。
だけど秀ちゃんはそこまで私のことは好きでないかもと考えると胸が苦しくなる。

今日のデートだって私が誘ったからで。
私が誘わなかったら当日はおろか翌日のこのデートも成立しなかっただろう。
私が一生誘わなかったら、私たちって会うことあるのかな。
………。

「行こっか」
「ああ」

思考が暗くなりすぎる前にそう切り出した。
助けて、また自信が揺らぎそう…。
一人のときは、片想いでもいい、って思えたけど、
本人を目の前にしたらやっぱりそう思うのは難しい。
一緒にいたいし、一緒にいたいと思ってほしい。
大好きだから。
ねえ、秀ちゃんにとって私はどれくらい特別な存在だと思ってもらえているの。

二人で肩を並べて歩き始めると、
秀ちゃんは「昨日な」と話し始めた。

「青学のみんなが誕生日会を開いてくれたんだ。
 みんなと一緒に過ごせるとほっとするし、温かい気持ちになったよ」

そして柔らかく微笑んだ。
いつもだったら、いいな、と思ったであろうその笑顔。
だけど今日の私はつい口を尖らせてしまう。

「良かったね、楽しそうで」

言い終わってから、しまった、と思った。
別に向こうだって私との約束を破ったとかそんなんじゃなくて、
忙しいから会えないというのは前々からわかっていた。
なんて嫌な子なんだ、私。

幻滅しただろうか、と恐る恐る横の顔を盗み見ると、
「ああ、楽しかったよ。なんと部活が終わった途端にな」
と詳細を説明し始めるところで。

思わず負の感情をぶつけてしまったことに気付かれていなくて胸を撫で下ろした。
それと同時に、嫌味が通じなくて肩透かしを食ったような。

私の知らない世界の話を楽しそうに語る秀ちゃん。
なんだか遠い人に思えてしまった。

でも、考えてみればそれはそうで、
本当はとんでもなく遠い人だったはずなのだ。

それに、私の嫌味が利かないというのは
まさか私が嫌味を言うと思っていないのか、
普段自分が嫌味を言うような人間ではないから
人から向けられている悪意にも気付きにくいというのか。
…敵わないなー。

これだから私は秀ちゃんのことがずっと好きで、
だからきっと秀ちゃんはずっと遠い存在のままなんだろうな。

昨日の出来事をあらかた話してくれたタイミングで
秀ちゃんの目線は私の手元に寄った。

「今日荷物多いな。持とうか?」
「えっ、あー……」

肩から掛けたポシェットの他に手に下げられた紙袋を見て秀ちゃんはそう提案してくれた。
気配りすぎて逆に空気が読めないというか…こういうところも秀ちゃんらしい。

まあいっか、予定より早いけど渡しちゃおう。

「これ実は、プレゼント用意してたんだ。…今渡していい?」
「あっ、そうだったのか!ありがとう、嬉しいよ」

そう言って驚いた素振りのあとに笑顔を向けてくれた。
ハイ、と中振りの紙袋を差し出す。
秀ちゃんはそれを丁寧に両手で受け取って
「見ていいかな」という前置きをして私が頷くのを確認してから
室内用プラネタリウムが入ったその箱を取り出した。

「これ欲しかったやつだよ!」
「うん。前に言ってたから」
「憶えててくれたのか…本当にありがとう」

笑顔がキラキラと輝く。
良かった、喜んでくれて。
嬉しそうに箱をひっくり返す様子を見て胸を撫で下ろした。

「家に帰ったら早速使ってみるよ」
「うん。今度感想聞かせてね」

そして……再び歩き始めてしまった。

どうしよう…。
まあいいか、あとで渡せば。
最悪渡せなくても……。


そのあとは一緒に水族館に行って、
水族館に併設されたカフェでおやつを食べて、
お土産屋さん巡りをして。

楽しければ楽しいほど不安になる。
この気持ちは私だけなんじゃないかって。
もし私が「別れよう」って言ったとしたら
すんなりと「そうしよう」って返事が来るんじゃないかって。

そんなのイヤだから、ぎゅっと手を握った。
秀ちゃんはにこりと笑って、手に力を込め返してくれた。

優しい優しい秀ちゃん。
絶対に離したくない……。





「ありがとう。お陰ですごくいい一日が過ごせたよ」

夕日が街並みに沈んでいきそうな駅前、
秀ちゃんはそう笑顔でそう言った。
改札を通ったらそれぞれ向かうホームは別。今日のデートはおしまいだ。

ねぇ秀ちゃん。
もし私が、「別れよう」って言ったら、どうなる?

今日一日一緒に過ごしてわかった。
絶対に「そうしよう」なんて返事は来ない。
だけど「イヤだ」とも言わない気がするんだ。
きっと「どうして」って引き留めてくれるんだろうね。
君は優しいから……。

「……秀ちゃん」
「ん?どうしたんだ急に」

私は秀ちゃんの体に身を寄せて背中に腕を回した。
私の背中にも遠慮がちに力が加わった。

「別れよう」なんて絶対言わないよ。
たとえ君のためを思ったらそうするべきだとしても。
ごめんねワガママで。
だけどどんなに見苦しくっても君を好きな気持ちにだけは嘘をつきたくないの。

「あの…さ」
「……うん」

私がもったいぶった話し方をしたら
秀ちゃんも同じだけ身構えたような返事をしてきた。

体を離して、ずっと手に下がっていたもう一つの小さな紙袋を差し出した。

「……え?」
「あげる」
「プレゼント、もう一つくれるってことかい」
「うん」
「ありがとう、嬉しいよ!」

誕生日がすっかり過ぎてから渡すことを決めたプレゼント。
ただ生地を焼いただけの簡素なクッキー。
完成が出掛ける直前すぎてまともにできなかったラッピング。
だけどね、好きな気持ちだけはたくさんたくさん込めたんだ。

「わっ、すごいな…。もしかしてこれ、全部手作りか?
 …俺のために?」
「他にいないでしょ」
「こりゃ大変。嬉しすぎてどうにかなりそうだよ」
「大げさだよ」

秀ちゃんは感極まったように瞳をうるうるとさせている。
思った以上に喜んでもらえたみたいだ。
準備して良かった、かな。
嬉しいというより安心している私がいた。

「ありがとうな。大事にする」

秀ちゃんはまっすぐ私の目を見てそう言ってくれた。
でも、大事にする、って。
勿体なくて食べられないとかそういう話?

ちゃんと食べてよ、と突っ込みを入れようと思った直後、
全身ぎゅっと力が加わっていた。

「え……え?」
…いつもありがとうな」
「ど、どうしたの突然」

秀ちゃんは私のことを力一杯抱き締めてくれていた。
急なことに驚きすぎてパニック状態。

「俺、もっとのことを大事にしたいと思って」

え、え?
秀ちゃんは、ちゃんと私のこと
充分すぎるほど大事にしてくれてると思ってたけど…。

とは通っている学校も違うし、なかなか会う時間は取れないし。
 そのうち俺は見捨てられてしまうんじゃないかっていつも思ってて…。
 今引き留められたのもそれを言われそうで怖かったんだ」

……そうなの?
秀ちゃんそんなこと考えてたの?

「そんなわけないじゃん!その言葉そっくり秀ちゃんに返したいよ」
「え、俺に?」
「そう!」

まさか秀ちゃんもそんな風に思ってくれてただなんて…。
私、すごく思われてるじゃん。そうだったんだ。

そこでやっと気付けた。
秀ちゃんのことを信じられていなかったのは私の方だった、って。

嬉しい。胸が一杯だ。

「私、忙しい秀ちゃんの負担になってるんじゃないかってずっと不安で…」
「負担なんてことはないよ!
 自分の彼女のことを負担になんて思うわけがないだろう」
「……そうなんだー」

知らなかった。
全然わかんなかったよ秀ちゃんがそんな風に思ってくれてたなんて。

伝えないと、伝わらないものなんだな。
………。

「秀ちゃん、私ね」
「うん」
「本当は当日にお祝いしたかった」
「祝ってくれたじゃないか」
「そうじゃなくて…こうやって直接会ってお祝いしたかった」
「でも当日は会えたとしても30分くらいしか…
 それだけのためにに時間作ってもらうのも…」
「自分の彼氏のことを負担になんて思わないよ!」

秀ちゃんは目からうろこが落ちたような顔をしていた。
私もさっきそうだったのかな。

「……そうなの、か」
「そうだよー」

ぽか、と胸を軽く小突いた。
お互い様なのかな、私たち。

のことは誰よりも大切に思ってるから」
「秀ちゃん…」
の誕生日は絶対に予定が空けられるように努力するな」

秀ちゃんはそう言って微笑んだ。

バカ。
バカバカ。

「わかってないなー…」
「え、どうしたんだ!?」
「その日に私が他の予定入れちゃったらどうするの」
「ええっ、それは困るよ!」
「だーかーら!それが昨日の秀ちゃんなの!」

泣きそうになったのをごまかすように秀ちゃんの胸を更に叩いた。
いてて、と言いながら情けない表情で笑う秀ちゃんは愛おしすぎて。

「秀ちゃん。大丈夫だよ私、もし当日に会えなくっても」
「え、でも…」
「もう大丈夫」

自信と安心。
さっきまでの私になかったもの、全部秀ちゃんが与えてくれた。

「誰よりも大切に思ってるって言ってくれたの嬉しいけど、そうじゃなくていいよ」
「えっ…」
「だから、自分のことを一番大切にして」

これは嫌味でも強がりでもなくて本心。

「私は二番でいいや」

私にしては強気な発言だと思った。
本当は二番でも何番でも大切にしてもらえるなら充分なのに。

でも秀ちゃんは
「わかった。自分を大切にするよ。のことも」
と言ってまた私を抱き締めてくれて。

「おめでとう」をたくさんあげたかったのに
「ありがとう」がどんどん増えていく。
これじゃあ私がもらってる気持ちだよ。

向こうからの「ありがとう」を聞きたくなって、
もう一度「お誕生日おめでとう、秀ちゃん」と伝えた。
「ありがとう。大好きだよ、」と返ってきて
決して秀ちゃんはずっと遠い存在のままではないけれど、
やっぱりずっと敵わない相手なのかもしれない、なんて思った。
























モノローグで彼から君に変わるのが好きすぎ(恋風構文)

主人公を不動峰中にしたかったんだけど
そうするとどう頑張っても大石は高校生にならざるを得なくてワロタ(笑うな)
ちなみにこれが私の精一杯のネガティブ主人公ですが出来てますか…(中身がド陽キャ)

青学って土曜日に学校あったっけ?
確かあるんだったような?「私立だなぁ」って思った覚えが。
でもソース見つけられんかった…。
そして学校の有無は知らんけど部活は確実にあるような…。
細かいことは気にすんな!中学と高校で同じと限らんし!!
夢小説だし!!!(←これ)

テニラビの大石BDストーリーがとても素敵だったのだけど
当日忙しすぎて書けなかったので敢えて後日のこんな作品にしてみたよ。
大石お誕生日おめでとうございました!!
元カノシリーズ前編が悲恋エンドだからハピエン書けて良かった!(笑)


2021/05/01-03