* 早咲きの桜が始まりはじめた春を運ぶ *












「あっ大石、見て見て!」

私が指差した先は、淡紅色の花。

「本当だ。ソメイヨシノみたいだけど、この木は早咲きなんだな」
「ね。日当たりが良いのかなー」

周りに立ち並ぶ木々は蕾を膨らますばかりで
開花までにはもう数日かかりそう。
その木の、一つの枝の先が可愛らしい花を咲かせていた。

「まだ寒いと思ってたけど、もう春だね!」

振り返りながら大石を見上げると、
大石はまた桜を見上げていて。

ぽつりと、漏らすように。


「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のぞけからまし…」


……え?

「なに?和歌?」
「あ、ごめん!つい」

つい、でそんな歌が出てくるなんてさすがだなぁと思っていたら
大石はその歌の意味を説明してくれた。

「この世に桜がなければ、咲く喜びも散る悲しみも感じずにのどかに生きられるのにね、って歌だよ」

ふーん?

「ちょっと切ない感じの歌だね」
「ごめん、なんか。これから咲いていくのに」
「ううん。素敵な歌だと思う」

それは確かに本心だった。
それに、そんな歌を知ってるのはすごいなって思った。けど。

「(ぱっと浮かんだってことは、大石は、その歌に同意してるってことなのかな)」

桜って可愛いし華やかだけれど、
それだけじゃなくてどこか切ないのは私もわかる。

風は間もなく春を連れてくる。
世界が春に溢れる頃には、
桜は風に吹かれて散るのだろう。

「行こうか」
「うん」

見上げればそこには、これから咲き始める花たち。
























近所で桜の開花が始まったので。

この歌はサークルの同期が教えてくれて、へーと思ったので。
ちはやふる〜で有名な在原業平が詠んだ歌です。

どういうシチュかは決めてないけど付き合ってない設定。
付き合ってなくて大石と二人で歩けてる時点で勝ちなんよ(←これ)

タイトルめっちゃ頭韻になったね!
始まりはじめるといういかにも正しくなさそうな日本語w


2021/03/18-19