* 海色に瞳が揺れる *












―――5年越しの約束を果たしに。





「平古場!」



遠くに見えた存在に歩み寄る。


そういえばこんな顔をしていただろうか。



「おー大石!髪型が全然違うからわからんかったばーよ」


「髪型が違うのはお互い様だろ。それは暗く染めているのか?」


「あー、中学ンときは脱色してただけやっし」


「そうだったのか!?」


「今は敢えて黒いのも流行ってるからなー」




今日の沖縄は快晴。


来訪者を歓迎するように。



「迎えありがとうな」


「わんは今日やーの専属ドライバーだからな」


「助かるよ」



空港を抜け、車はハイウェイに乗る。


窓を開けると心地好い風が頬を撫でる。


東京の空気はもっと寒かったはず。



「大石、腹はすいてるさー?」


「ああ、少し」


「ならでーじ良いとこ連れてくさぁ。観光客は誰も来ーんしが、
 わんが知ってる中で一番うまいとこやっし」


「嬉しいな」




  * * *




「これが沖縄そばか。おいしそうだな…いただきます」


「これ使うばぁ?」


「なんだそれは」


「コーレーグースー」


「………」


「でーじうまいからたくさん掛けたほうがいいぜー」


「そうか……」





「……ぐふっ!」


「ははっ!」


「結局なんなんだこれは…」


「島とうがらしを泡盛につけた調味料やっし」


「……納得したよ」




  * * *




「そしたら、美ら海水族館向かうさー?」



提案の先は旅の目的地。



「ああ」



春風に髪が揺れる。


自然と笑みが零れる。



「今回はそれを楽しみに来たからな」






  * * *




―――美ら海水族館。



中は一面の水槽。


本土では見られない魚たち。



「…見事だな」


「だろ?」



自然と笑顔が弾む。


あの魚も。


この魚も。


瞳を奪っていく。




「ここを抜けたら、メインの巨大水槽さぁ」





―――青。





「…………」


「どうした、あまりの凄さに言葉もないさー?」


「いや、その……その通りだよ」


「ハハ。せっかくカメラ持ってきるやしが、撮らないんど?」


「あ、すまない!あまりに綺麗だから、つい見とれちゃって…」


「別にいいけどよー」


「なんていうか…美ら海っていう言葉がピッタリだな。本当に美しいよ。
 ここにいる魚たちは…なんというか、みんな幸せそうだ」




水槽を見上げる、横の人物を見る。



―――瞳は青緑色に揺れている。




「でーじ大きいなー…」


「ん、この水槽がか?」


「水槽もだけどよ…やっぱり、ジンベエザメはいいなー」


「そうだな」




「……そろそろ行こうか」


「だーなー」





  * * *





「ありがとう。この旅の一番の目的が達成できて大満足だよ」


「中学ン頃から言ってたもんな」


「そうなんだよ。それ、よく憶えてたな」


「約束もしたからよ」


「その約束自体、連絡したときに憶えていたことに驚いたよ」


「あー…電話もらったときは、大石って誰だったかなぁとは思ったけどよ」


「ハハハ」





  * * *





『いつか、沖縄の美ら海水族館に行ってみたいんだ』


『おー。うちなー来ることあったら案内してやるやしが』


『本当か?』


『やーが女の子と二人で来てるとかだったら別だけどよ』


『はは…それはどうだろうな』


『いつでも来いよ。待ってるからよ』





  * * *





「海、行くばぁ?」



「そうだな、まだ帰るにも時間も早いし」


「わんだけが知ってるいい場所があるんやさ。連れてってやるよ」


「ありがとう」



傾き始めた西日が黄色く世界を染めていく。


窓を開けた車に吹き込む風が心地好い。



「着いたぜ」


「……海だ」


「それは、海やしが」


「いやぁ、久しぶりに来たよ」


「わったーは毎日見慣れてるけどなー」



テトラポッドが並ぶ浜辺に腰掛ける。


波の音は落ち着く。


夕日が水平線に触れかけている。



「こんなところで生まれ育ったのか…人生観が変わりそうだな。
 なんというか、君みたいに自由な人になるのがわかるよ」


「やーは昔から真面目すぎさぁ」


「はは…性分なんだよ」



「今回もよー、明日帰るんやさ?」


「ああ。午前中に国際通りあたりを観光して、午後の便で帰るよ」


「せっかくうちなーまで来たんやし、もっとゆっくりしてけばいいのによー」


「本当はそうしたかったけど」




「また、必ず来るから」




金色に照らされた横顔と目が合った。



「そんときは彼女の一人二人連れてこいよ」


「はは…少なくとも二人ってことはないな」





夕日が水平線に落ち始めた。


沈みきるときがこの会話が終わるときだとわかった。




「なあ、平古場」


「ん?」


「髪の色、今の方が似合うと思うよ」


「…そうだばぁ?」


「ああ」





「平古場、瞳は深い黒だよな。それに合ってる」


「……おー」




―――目線が合った先、その瞳は今、薄茶色。




「綺麗な目だな。今も、夕日の光が見事に反射しているよ」




「……そんな口説き文句みたいなもん、やーに言われたところでなぁ」


「あっ、こら失礼だぞ」




冗談を言い合っているうちに、太陽は海の彼方へ消えた。


青みがかった橙色だけを空に残して。




「そろそろ行くばぁ」


「ああ、そうしよう」



立ち上がる。


海と空に別れを告げる。


次ここに来るのは、いつのことになるか。





「ありがとうな。あんな社交辞令みたいな約束を守ってくれて」





目の前の人物は、少し寂しそうに見えた。


気のせいかもしれないとも思った。




「それは…こっちのセリフやし」


「え?」


「……やーが連絡してこなかったらわんは忘れてたからよ」


「そうだったな」




空の橙は消えて、真上には星空が見え始めている。



今、自分の瞳は何色に見えているのだろうと思った。
























捏造wwww
初めて書いた平古場(てか比嘉)作品が凛大になるとは思ってなかったww
一応凛のお誕生日おめでとう記念作だよ!

凛の行きたいデートスポットが「水族館(ジンベエザメを見たい)」だと知り
水族館好きの男を最推しに持つ人間としてじっとしてられなかった。
髪型とか進路とか、あくまで一つの可能性ってことでお願いします…。

セリフメインで進むお話にしてみた。
美しい風景は想像で補完してください(←字書き最大の怠惰)
そして口調がわからなくて苦戦した…
おかしいかもだけどこれが私の限界です許して…
執筆時間の半分以上が口調調べてる時間な気がする(笑)

わすかながらの描写部分は、どうとも取れるように書いたつもりだけど
一応メインとしては凛目線@標準語に照準を合わせた。
水槽の青も夕日の橙も、大石の緑色の瞳に映ると色が変わって見えるけど
凛の瞳にはそのままの色で反射しているのです(※色は全部アニメ準拠)


2021/03/03