* 会いたいときに会いたい存在 *












『今からいつもの場所で会える?』


それだけの簡素なメッセージを送る。
『大丈夫だよ』とこれまたシンプルな返事が来るまでにそう時間はかからなかった。

メッセージのやり取りから約10分後、私は近所の公園に来た。
やり取りの相手…幼馴染である秀は、呼び出した私よりも先にそこで待っていた。

「ちょっと久しぶりだな。元気にしてたか」
「うん。そっちは?」
「俺も元気だよ。で、今日はどうしたんだ?」

秀は、柔らかく笑って聞いてくる。
私が秀を呼び出すタイミングって言ったら、仕事の愚痴とか、人間関係の相談事とか、そういうとき。

私にとって、自分から連絡して呼び出せる人間ってそう多くない。
秀はそんな貴重な存在のうちの一人だ。
それもこんな都合の良い呼び出し方をできるような人は、秀しかいない。

秀はそんな私をわかってくれる。

「べつに…大した用事じゃない」
「そうか」

私たちの足は自然とベンチに向かっていて、二人で腰掛けた。

秀は聞いてこない。
私が秀を呼び出すときなんて、何か話をしたいときだって経験的にわかってるはずなのに。
わかっているからこそ、私が話しやすいような空気感を作るだけで、無理に聞き出そうとはしない。
だから秀と一緒に居るのは心地好いんだと思う。

一緒に居るだけで落ち着けて、あったかい。
こんな存在、秀だけだ。

小さい頃から一緒で物心が知れていて、何を言っても嫌われないのがわかる。
だから逆に、それ以上の一歩もなかなか踏み出せない。

だから私たちはこれからもこういう距離感なんだろうな、と思う。

それでいい。
これからもこうして隣にいることができるなら。
都合が良いときに呼び出しても許される存在でいられるなら……。

が喋らないなら、俺から」

言葉に反応して顔を向けると、秀はこちらに腕を伸ばしてきていて。
その手には、紙袋が。

「……何これ」
「プレゼントだよ」

え?


「お誕生日おめでとう」


………え。

「私の誕生日、知ってたの」
「知ってるに決まってるじゃないか。何年一緒にいると思ってるんだ」
「でも、教えたことあったっけ…」

パニック状態の頭をフル回転させる。

秀は私の要望にはなんでも応えてくれる。
だけど秀から私に何かを働きかけてくることは少ない。
今まで秀から祝ってくれたことってなかった。
私から誕生日を教えたことないし、
祝ってくれって求めたこともなかったから、
そういうものなんだと思ってた、のに。

「忘れるわけないだろ」

秀は、ふっと柔らかく笑う。

「俺たちが初めて会ったのは、の誕生日だっただろ。忘れたのか?」

それは、18年も前。
まだ子どもだった私たちが出会った日。

「…忘れてた」
「おいおい」

そんなこと忘れるくらい、ずっと一緒に居たんだ。
プッって、声出して笑っちゃった。

「でもなんで突然?今まで祝ってくれることってなかったのに…」
「ああ…」

問うと、秀は少し顔を背けた。
その横顔は、ほのかに赤く染まっていて。

だけど立ち上がって、私の正面に周り込んできて。


に呼び出されたときにしか会えないっていうの、変えたいっていうのを伝えようと思って」


……は?

「本当は、今日も俺から連絡したかったのに。先越されちゃったな」

柔らかく笑う秀の前で、私は面食らった表情しかできなくて。
面食らったまま立ち上がって、「ヨロシクオネガイシマス」って言った。


そうか、これからは用事がなくても呼び出して良いんだ。

結局今日の用事、「自分の誕生日に好きな人に会いたかっただけ」は、伝えることのないまま終わりそうだ。
























実はかなり前から両想いだったんだけど大石がヘタレなので
お互い遠慮しあった結果付き合うまでにかなり時間がかかったという設定。

真央さんお誕生日おめでとう祝いで書かせて頂いた!
毎度のごとく大石夢を贈るしか能がない私であったw
てわけで、珍しく名前変換も自分ではなく人の名前で書いた作品。

書きながら振り返ったら私と真央さん出会ってから18年経ってて笑ったw


2021/02/12