* 明日の夜まで待てない! *












電車で2時間くらいの距離で暮らしている私と秀ちゃん。
とはいっても間を取ればお互い1時間程度会えるわけだから
遠距離恋愛というほどの距離ではないと思う。
だけどなかなか会う時間が取れなくって、明日は2ヶ月ぶりのデート!
付き合い始めて数年経つけど、これほど会えなかったのは今までで一番長いかも。

「じゃあ、明日はいつもの場所に9時半な」
「うん。すっごく楽しみー!」

集合時間はちょっと朝早いけど、たまにしか会えないからこれでいいの。
こういうとき、二人とも早起きが得意で良かったなーと思う。

明日やることは電話で大体決まった。
まずは映画見て、そしたらランチして、話題の猫カフェに行って、
おやつにクレープ食べたい、でもパフェになるかもしれない、
丁度良い季節だから公園でお散歩もしたいねって話したけど
なんだかんだウィンドウショッピングしちゃいそうな気もする。
時間はいくらあっても足りないくらいだ。

そしてそして、ディナーのあとは……キャッ!

「一日楽しもうね」
「そうだな」

そろそろ電話は切る流れ、だけど。

……アレ、言っちゃおうかな。
うずうず。

「秀ちゃん、私ね……」
「……うん?」
「えっと、その……」
「どうしたんだ、急に口ごもって」

言おうか迷った…けど。
言えっちゃえ!

「ちょっとエッチな下着買っちゃった。明日着ていくね」

2ヶ月も会えなかったのが寂しすぎて、
会えたときに盛り上がれるように…って、こっそり準備してたのだ。
こっそりって言いつつ、今バラしちゃったけど。

「え………え?」

受話器の向こうで、秀ちゃんが動揺している声が聞こえる。
そして、呆れたような長いため息。

「どうしてそれを今言ったんだ…」
「あ、やっぱ言わない方が良かったかな?
 でもさ、だってさ、明日の昼間、私はヘーゼンと過ごしてるけど実は服の下は
 エッチな下着着けてて、それを知ってるのは秀ちゃんだけって構図、エロくない?」

捲し立てるような私の力説。
その後は長い間があって。

「……エロイな」
「でしょ」

納得してもらえた。笑。
だけど、続きがあった。

「でもだからこそ、今聞きたくなかったな」
「あ、サプライズの方が良かった?」
「いや、そうじゃなくて……」

そうじゃなくて……。
…………なるほど。

返事が来ないことで察した。
秀ちゃんは、煩悩を沈めたいとき、黙る。

「想像しちゃった?」
、悪いけど少し黙って…」
「最低限の部分しか隠れてなくてその部分もレースで
 繋ぎの部分は細い紐で出来てる黒の下着とか想像しちゃった?」
っ!!」

秀ちゃんが珍しいほどに声を張り上げた。
私はバレないように声を出さずに大爆笑する。

「……電話切っていいかな」
「えーそうなっちゃうー?」
「悪い、ちょっと、頭を冷やさせてくれ」
「そっかぁ…」

もうちょっと話したかったのになー。
まあいいか、明日直接会えるわけだし。
ちょっと煽りすぎたな、反省…。

しかし、待ってても秀ちゃんは電話を切らなくて。

「…やっぱり、もう少し話そうか」
「あ、ホントに。やったぁ!」

そう言って再び雑談に戻る。
明日のおやつ、クレープ食べたいけどパフェもいいね、
でもパンケーキも捨てがたいなぁ、って。
そしたら秀ちゃんが「そういえば」と。

「最近ワクドナルドが、新作のパイを出しただろ」
「出してたね、なんちゃらクリームパイってやつ」
「それがさ、英語だと……」

そこまで言って、秀ちゃんは黙った。
なんだろ。秀ちゃんは中学の頃から英語が得意だって言ってたけど。

「……やっぱりなんでもない」
「えーなんでー!」
「忘れてくれ」
「気になるじゃん。いいよ、勝手に調べるもんね」
「あ、こら

秀ちゃんの静止を振り切って、検索けんさくーぅ!
………。
なるほど。

「超下ネタだった」
「……ごめん」
「いや、いいけど」

別にそんな必死に隠さなくていいのに、秀ちゃんは真面目だな。
私は笑い飛ばして、再び雑談に戻る。
今度は晩ご飯に予約している料亭の話題。

「でね、原料にすごくこだわってるらしくてさ、特に生醤油が」
「えっ!?」
「え?」
、急に何を言い出すんだ!」
「何って、原料にこだわってて特に生醤油が……」

ん、生醤油?
きじょうゆ。
きじょー…。
……なるほどそういうこと?

これはさすがの私もわかった。

「悪い、聞き間違い…」
「どうしたの、秀ちゃんらしくない」
「……本当にごめん」

ハァ、って浅い吐息。
ただのため息かなとも思ったけど。
さっきから秀ちゃんの声、ほんのわずかに上擦ってる。
この声の感じは、秀ちゃんがエッチのときに出しがちな…。

「……。ごめん、無理だ」

無理?

「電話切ったら、そういうことしか考えられなさそうだと思ったんだけど
 電話切らなくても同じだった」

まさか電話切らなかったのってそんな理由だったなんて。

「そういうことって?」
「わかってるだろ」

まあ、想像はつく。
エッチな妄想で頭がいっぱいってことだ。でしょ?

「さっき言ってた下着をが身につけてる姿と、
 それを脱がす瞬間のことしか考えられない」

え。
想像は当たってたけど、まさかの私!?


「…何?」
「このまま、の声聞きながら、シてもいいかな」

シても、って。
何をするの?
ナニをするの?

「明日は明日で、ちゃんとするから」

ちゃんとする、とは。

「お願いだ…このままだと俺、明日、夜まで我慢できないよ」

吐息混じりの声。
そんな様子の秀ちゃんのことを考えたら、私もおかしくなってきた。
そんな言葉だけで、お腹の下のほうがキュウゥ〜…となるくらい。

「いいよな?」
「……いい、よ」

ごそごそ、と体勢を変える音がして、
ハァ、とさっきみたいな浅い吐息。

ドキドキして。
私もこっそり、自分の手を、下着の中に…。

「(わわわっ)」

既に自分の出した液でびっしょりになっていた。
秀ちゃんが、私のエッチな姿な想像でエッチな気持ちになっているって想像しただけで…。

も、自分のこと触って」
「う、うん」

本当はもう触っていたことを悟られないように、
今になってわざとごそごそと音を立てる。

「今、どこ触ってる?」
「下……」
「へぇ。どうなってる?」
「んー…ちょっと濡れてきた」
「そうなんだ」

本当はちょっとどころじゃないけど、そこは伏せる。

「俺はもう、バキバキだよ」

バキバキ、なんだ。
そうなんだ。
そんなこと聞いたら、入れたくなっちゃうじゃん…。

「……秀ちゃん」
「ん?」
「…早く会いたい」
「はは……俺もだよ」

秀ちゃんの柔らかな笑みが脳裏に浮かぶ。

いつの間にか、私は自然と目を閉じていた。
感覚を研ぎ澄ますため。
手に。耳に。

「明日本物に会えるのに、何してるんだろうな俺たち」
「秀ちゃんのエッチ…」
「それはこっちの台詞だ。俺は溜めとこうと思ってたんだけどな、のせいだぞ」
「だってぇ…」
「いいよ」

言い訳をしようとする私を宥めて、
秀ちゃんは息を多く含んだ声で喋る。

「二日連続でのことを抱けるなんて、夢みたいだ」

耳元で囁かれてるみたいな錯覚。
背筋がゾクゾクした。

指でこする速度を少し上げる。
足がピクンと痙攣する。
内腿に無意識に力が加わってきた。

「(秀ちゃんの声聞いてるだけで…気持ちいい…)」
、気持ちよくなってきた?」
「うん…」
「そっか」

返事をする声がちょっと甘ったるいなって自分でも思った。
ほんの少し、電話越しなら聞こえないかなっていう程度で、息も荒い。

「なあ、ちょっと俺の指示に従ってくれないか」

ちょっと真面目な声色だったから、なんだろう?と思ったら。

「下から一旦手を離して、服の中に手を入れて胸を触って」

指示って、そういう。

まさか過ぎたけど、ドキドキしてきた。
私は素直に言う通りにした。

「ゆっくり揉みほぐして」
「うん」
「俺の手だと思って」

私もそう思いたかったけど、そんなわけない。
秀ちゃんの手はもっと大きいし、もっとあったかい。
いつも私のこと、壊れ物を扱うように優しく触れて、
胸は優しく優しく揉んで、丁寧にほぐしていく……。
と思ったら、急に先端を摘んだりして、

「ッ!」
「ん、気持ちいい?」
「気持ち、イイ…!」

息を詰まらせるような声を、秀ちゃんは聞き逃さなかった。
私の体はもう、この行為をすっかり受け入れていた。

これは秀ちゃんの手なんかじゃない。
頭ではわかってるのに。
私の手、が、秀ちゃんの意思で動いているみたいだ。
私の体は秀ちゃんの意思を持った手に弄ばれているみたいだ。
胸に触っているだけで、息が、こんなに荒い。

秀ちゃんは、いつもすごく丁寧に胸を愛撫する。
そろそろ下にも触ってほしいなって思うのに、
じっくりと乳房を揉みしだいて、
これでもかっていうくらい乳首を擦ってつねって弾いて舐めて…。
もう我慢できないよってなるくらい、
時にはこっちからお願いするまで、ずっと胸を触り続ける。

今、体が、その感じだ。
脚に力を入れたり緩めたりを無意識に繰り返してることに気付いた。

「そろそろ下も触りたい?」
「さわり、たい」
「じゃあ、下腹部を撫でて。くすぐるみたいに、そっとだぞ」
「う、ん…」

下着の内側に手を入れて、下腹部を撫でて、くすぐる。
たったそれだけのことなのに、性感が高まってくる感じがした。
刺激が皮膚を突き抜けて奥の方まで達しているみたいに。

「次は、内腿の辺りを撫でて」

言われたとおりに、手の位置を変える。
なかなか琴線に触れる部分に刺激を与えさせてくれない。
指示では「撫でて」と言われているのに
もどかしくって自分の腿を揉むようにした。

「両側、ゆっくりな」
「(う〜〜〜…)」
「どう、。気持ちいい?」
「気持ちいい、っていうより……もどかしいよぉ」
「そうか」

その「そうか」の声が、楽しそうなのが悔しい。
全然イジワルそうじゃないっていうのが、最高にイジワル。

「それじゃあ、の一番大事な場所…下着の上から確認してみて」
「うん」
「どう?」
「ぐしょぐしょ」

事実、そこは溢れるくらいびしょ濡れになっていた。
染みは下着だけで収まらなくて、スウェットまで湿っていた。
下着越しに敏感な突起に触れるだけで背中が仰け反るくらいの快感がよぎった。

「ね、秀ちゃん、もう直接触れていい?早く挿れたいの…!」
、それはズルイぞ」
「……え?」

余計なこと言ってこれ以上焦らさないでよ、と思ったけど。

は、俺にどうやって触ってくれてるんだ?」

……さすがにこれは、文句は言えない。
私ばっかり気持ちよくさせてもらって。
私も秀ちゃんを気持ちよくさせてあげないと。

指先で下着越しに刺激は与えつつ思いつくがままに喋ると
驚くほどに言葉がスラスラと出てきた。

「全身、色んなところに触ってね」
「うん」
「胸とか、お腹とか、背中とか、指を伝わせる」
「……うん」
「そしたら、おちんちんにね、舌の先っちょで触れるか触れないかの
 ギリギリくらいのとこで下から上に伝わせる感じ」
「……うん。それから?」
「一旦口は離して、手で、根本のあたり、強く握ったり、押したり、ぐいぐいして」
「うん」
「その間にお口の中に唾液溜めておいて、先っちょぱくって咥えて、れろれろって」

いつもは何も考える余裕がないけど、
今日は逆に想像力が駆り立てられるみたいだ。
そんな私に、秀ちゃんは相槌ではなく疑問を投げかけてきた。

「今の、やってもらった憶えはないけど」
「今考えた」
「明日の楽しみが増えちゃったな」

ハァ、って、また秀ちゃん吐息が聞こえた。
それだけで、何回でも私の体の奥の方がキュンとなる。



甘ったるい声が、私の名前を呼ぶ。

「抱き締めたいし、キスしたいよ」

抱き締めたい。
キスしたい。
……うん、そうだね。本当に。

「早く会いたいな」
「うん。早く会いたい」

早く会いたい。
触れ合いたい。
お互いを感じ合いたいよ。

「じゃあ、下着の中に手を入れて」
「うん」
の液に、指をたっぷり浸して」
「…うん」
「ゆっくり、中に入れてごらん」
「……ン」

するりと飲み込んだ。
寧ろ、もっと求めてる。

「指、もう一本入る?」
「…入った」
「そうしたら、一番奥まで差し込んで、引き抜いて、って、何回かしてごらん」
「うん……」
「どう、気持ちいい?」
「んー…」

気持ちよくないわけじゃないけど、
なんだか乗り切らない。

「ほら、。入ってきてるのが、俺だって思って」

秀ちゃんはそう言った、けど。

「無理だよぉ…」
「え?」
「こんなじゃないよー…」

秀ちゃんはもっと、
熱くて、太くて、硬くて、
腰が打ち付けられてると同時にそれが奥まで届いて、
私の中はイッパイになって、
汗に濡れた肌が触れ合って、
その息遣いが聞こえてきて、
手が握られて、
名前が呼ばれて。

秀ちゃん。
秀ちゃん。

「早く本当の秀ちゃんが欲しいよ」

切なくって、ちょっと涙声になった。

「明日いっぱいしてあげるから、今は我慢して」
「明日ね、約束だからね」

そうだ、明日、会えるんだ…。
私たち、あと一日を待てなかったんだって改めて考えたら笑っちゃいそうだ。
でも違うよね。
本当は、会えるんだったら毎日会いたい。
それくらいに大好きだから。

「自分の手を俺だって思い込むのは難しいかもしれないけど、
 今、と一緒に気持ちよくなってる俺は、本物だから」
「そっか…」

その気持ちで改めて、自分の中に刺激を与える。
通話をハンドレスにして、もう片手で胸を触って、
下半身の外側の敏感な部分にも刺激を与えて。

秀ちゃんはどうやって私に触れてきていたっけ。
どうやって私を愛してくれていたっけ。

この手は私の手かもしれないけど、
私の頭の中はがどんどん秀ちゃんだらけになってきた。
そして秀ちゃんは、そんな私のことを考えてくれてて。
そして一緒に気持ちよくなっている。
体がどんどん高まっていく。

「秀ちゃん、キモチイイの?」
「気持ちいいよ。は?」
「キモチイよ」

だんだん余裕がなくなってきた。
秀ちゃんはこんな触り方、動かし方をしてたっけ、わかんない。
がむしゃらに快感を追い求め始めた。

、どう?俺そろそろ、キそう」
「うん、私も、キモチイ…!」
も、良くなったら、いつでもイっていいからな」
「うん…」

そのへんから秀ちゃんの言葉は途切れ途切れになって、
会話はそのままなくなって、
受話器の向こう側からは、秀ちゃんの荒い息と、
たまに「…」と、私を呼ぶ声が聞こえた。
それだけで私の体も反応して、
早く本物が欲しいなあって思いながらも
でも、今この瞬間私たちが同時にお互いのことを考えながら
行為に及んでいるのは紛れもない真実なんだ、って。

「(気持ちいいよ。秀ちゃん、ダイスキ)」

手がどんどん早くなる。
指示はなんだったっけ。
秀ちゃんならどうしてくるだろう、
だめ、考えらんない、イク、イク…!

「秀ちゃん…アッ!」

スキ……。

そこまで言葉に出すには間に合わず、
私の秘部は弾けるような収縮を始めた。
ぎゅうぎゅうと絞め付けられる指の感覚に、
これをいつも秀ちゃんは感じてくれてるのかな、って、
頭の端で考えながら、
快感の海に沈んでいった。
遠くで秀ちゃんの声が聞こえる頃には、私は半分まどろんでいた。





  **





翌日、9時半。

「まずは、映画を見ようって言ってたんだっけ」
「そうだな」

普段は手を繋ぐのに、秀ちゃんの腕は私の腰を抱いていた。
そして、時折、手が腰からお尻にかけてをさする。

「(紐……)」

今日会ってからまだ10分。
歩いた時間はわずか5分。
目の前には新作映画の席数ありの表示。

だけど秀ちゃんはこう言った。

「なあ、疲れてないか」

だから私はこう返す。

「ちょっと、休憩する?」

私の言葉に秀ちゃんは力一杯頷いた。
映画館に背を向ける私たちは日が沈むのを待ちきれずに昼の街を後にした。
























結局夜まで我慢できない大石イェーイ(笑)(楽しい)

煩悩にまみれる大石を書くのが好きすぎるんよ。
いつでも冷静さを欠かない大石が冷静さを欠く瞬間を書きたいんよ。

この話書いたことすっかり忘れてたんだけど
読み返したら私のツボを色んなところで抑えすぎてて
マシュマロに長文感想送りつけてやろかと思った(←)


2021/01/21