* Do You KNOW HOW To Love Me? *












このピンポンを押すのは、3回目。
だけど今までで一番緊張しながら押しているかもしれない。

ピン、ポン。

押して、ゆっくりと離すと、
5秒もせずにガチャっと扉は開いた。

いつもどおり優しい笑顔の秀ちゃんがそこにいた。
私も平常心を装って挨拶をする。


「やっほ」

「いらっしゃい。大丈夫、迷わなかった?」

「3回も来てるしさすがに大丈夫だよ」


相変わらず心配性だなぁって笑っちゃった。
廊下を抜けた先、冷房の効いた部屋は心地が良かった。


「はぁー涼しい!」

「今日は外暑そうだな」

「最高気温30℃超えらしいよ」


今朝のニュースで得た情報を伝える。
今日は本当に暑い。
日傘を差してきたけど歩いてきたら結構汗かいちゃったな、と。


「お手洗い借りるね」

「どうぞ」


案内された洗面所で、手を洗って、鏡で顔、髪型、改めて確認。

秀ちゃん、結構普通だったな…。
私だけなのかな、こんなにドキドキしているのは。


今日は、初めてのお泊まり。


秀ちゃんの部屋は、いつ来てもとても綺麗だ。
私が来るからって掃除頑張ってくれたんだろうなぁと思う。
秀ちゃんのことだから、日頃から散らかってる様子はあまり想像できないけれど。

ベッドに腰掛けさせてもらって、冷房で冷えた空気で体を冷やす。
パタパタと胸元を仰いで「来るまでに汗掻いちゃった」と言うと、
「シャワー浴びたい?」と秀ちゃんに聞かれた。
冗談だと思って「なぁにそれ。そこまでじゃないよ」笑って返してから
え、もしかして私、汗臭い!?と不安になったけど、
「だよな」って笑う秀ちゃんはいつも通りだった。
優しすぎて必要以上に気を遣ってくれる人だからな、秀ちゃんは。




その後は借りていたDVDを観て、お茶を飲みながら色々感想を言い合った。
同じ映画を見ているのに、着眼点が違うのが面白い。
自分よりも、秀ちゃんの方がロマンチストだなぁっていっつも思う。

日が暮れ始めた頃に買い出しに出かけて、一緒に晩ご飯を作った。
意外と秀ちゃんはそんなに料理が得意ではないみたいで、
私なんかでも教えられることがあって嬉しかった。
普段は、いかにも「男の料理」みたいのしかしないんだって。

一緒に作って、一緒に食べる。
幸せだなぁって思いながら、一日が終わりに向かっていく。

だけどきっと、このままでは終わらない。


「そろそろ、シャワー浴びる?」


ドキン。
心臓が跳ねた。

ついに、その時が近付いている。
そう想像するだけで緊張が高まってきたけれど、
「今度こそね」と冗談を言って笑ってごまかした。

いざシャワーを浴びる。
昼間家を出る前にもシャワーは浴びて、
ありとあらゆる場所の処理は済んでいる、はず。
だけど改めて確認…。
問題、ない。はず。

でもこの体を見られるのか…。
なんか不安…。
こことか、あそことか、秀ちゃんに触られるのか…。


「(わーーー!!)」


これからすぐあとの未来のことなのに、
想像するだけで頭が爆発しそうになった。

本当に大丈夫かな、私。
できるのかな、私たち。
……はぁ、緊張。




  **




「わーなんかいい匂いする」


部屋に戻ると、秀ちゃんは読書をしているみたいだった。
部屋の中は、先ほどとは違う香りがした。


「ああ、昼間の香りから変えてみたけど、どうかな」

「なんかエキゾチックな香り〜結構好き」


そういえば今日来て部屋に入ったときもいい香りがしてた。
しかしわざわざ変えるなんて、マメだなぁ。
なんか、高級ホテルみたい…。

ホテル……。


「じゃあ、俺も浴びてくるな」

「はーいごゆっくり〜」


秀ちゃんもシャワーに向かって、部屋に一人になる。
この時間……妙に緊張するな。

このあと、どうなるんだろ…。
そういうことにならないってことは、ないよね?

一時間も経つ頃には、私はきっと、その渦中…。
一体、どうなって居るんだろう。


今更不安になってきて、
スマホで、
色々検索。

………。


「(本当に、大丈夫かな…)」


うまくできるかな、
私の体、変じゃないかな、
痛いかな。

調べれば調べるほど不安になる気がする。
だけど、気になって調べずにいられない。
ドツボ…。


「おまたせ」

「ぜんぜ〜ん!」


焦って、スマホの画面を落として鞄にしまった。
恥ずかしくって、秀ちゃんの顔を直視できない…。

でも、意識してると思われるのも恥ずかしい。
なるべく平然を装った。
緊張をほぐすように、雑談しながら大きな声を出して笑った。

そうこうしているうちに、そのときが来る。


「そろそろ、寝ようか」

「そだね」


シャワーも浴びたし、歯磨きもして、あとは寝るだけ、なんだけど。

このベッドで、寝るんだ。
この、ベッドで……!


「秀ちゃん、右側と左側どっちがいいとかある?」

「どっちでもいいよ」

「じゃあ私奥側にしよ〜」


真っ赤な顔を見られないように、ベッドの奥に潜り込んだ。
だけど、布団から秀ちゃんの匂いがする気がして、
なおさら顔が熱くなった。


「じゃあ、消すぞ」

「はーい」


秀ちゃんが電気を消すと、部屋は一気に暗くなった。
だけど真っ暗闇ではなくて、アクアリウムがぼんやりと部屋を灯していた。


「お魚さんたち光るんだ。おしゃれ〜」


場つなぎのような私の言葉には「そうかな」しか返事がこなくて、そのまま沈黙が訪れた。
秀ちゃんも布団に入ってきた。
わ、あったかい…。

会話はなくて静か、なはずなのに、
心臓の音で、耳と脳みそが爆発しそう…!

私だけ?
こんなにドキドキしてるの私だけ!?
秀ちゃんは平然として
「大丈夫、枕。寝にくくない?」
とか聞いてくれてる。

枕とか、そんなの気遣ってる余裕はない。
それどころじゃないよ!
それどころじゃないのに、
「冷房強いかな?」
とか、相変わらず気配りがきめ細やか…。

「大丈夫だけど」

と端的に返す私に対して、

「俺は、少し寒いかな」

と返されて、体を抱き締められた。


死ぬ。
死ぬ。
死ぬ!!!

マジで死ぬんじゃっていうくらい心臓がバクバクする。
心臓爆発する。血管破裂する。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!

そんなパニックのまま、
何かが頬に触れた。
今の、唇?

秀ちゃんの顔を見ようと横を向いたら、
今度は唇同士が触れた。
そして、何度も付けて離してを繰り返す。
そのキスが、少しずつ深くなってきた。
舌も絡ませるようなオトナのキス。

脳が痺れる。
何も考えられない。
苦しいみたいな、切ないみたいな…。
出したいつもりはなかったのに「んっ」って勝手に声が漏れた。

いよいよ、この時が、来たんだ…!
ああなったらこうしようとか色々シミュレーションしてきたけど、
なんだっけ、もう、何も思い出せない!

体勢を変えながらぎゅっと抱き直された。
そのとき、私の太ももあたりに何か硬いものが。
これは。もしかして。
アレ?




「ん?」

「わかる?当たってるの」


やっぱり、そういうことなんだ…。
秀ちゃんもそのつもりで、当ててきてたってことかな。
「うん」としか言えなかったし、声がちょっと掠れた。


「考えてた?今日こういう感じになるって」

「…かなぁ、とは思ってた」

「そうか。イヤじゃない?」


聞いてくる秀ちゃんの方を見た。
アクアリウムの光は逆光で、ぼんやりとしか表情は見えない。
だけど真っ直ぐ目線は合っている。それはわかった。

イヤじゃ、ない。
コクンと頷いた。


「嬉しいよ」


秀ちゃんがそう言うと私の胸に触れた。
ドキンと心臓がまた跳ね上がった。
このドキドキは、秀ちゃんの手にも伝わってるのかな。

そしてその感触を確かめるように揉みしだいて、
「柔らかい」と感想を伝えてきた。

恥ずかしい。
気持ちいいとかよくわからない。
とにかく心臓が爆発しそうで苦しい。


、自分で貧乳だなんていうけど、ちゃんとあるじゃないか」

「やめてよ恥ずかしい」


限界過ぎて、逃げるように体を捩った。
のに、秀ちゃんは私の体を組み敷いた。

これは、いわゆる「乙女憧れの体勢」。


真上から視線が降りてきている。

真っ直ぐに、目線が重なる。


秀ちゃんは優しく目元を細めた。
その顔が近付いてきて、キスされた。

そして、服の中に手が侵入してくる。
秀ちゃんの手が私のお腹のあたり、そして、胸に触れる。
そのまま通過して、体を持ち上げるように肩を支えられた。
そしてもう一つの手は背中に回って。
プツン。


「(え、片手とかで外れるものなのコレ!?)」


あっという間にブラを外された。
えええ思ってたより展開が早い!

動揺しているうちに見る見る私は上半身を裸にさせられていた。
そして、直に胸を揉まれる。

ぞわぞわする。
全身に鳥肌が立つ感じ。
これが気持ちいいってことなのかな?
なんか、体がふわふわする。

そのなんとも形容しがたい感覚に酔いしれていると、
秀ちゃんは乳首の先端を摘んだり舐めたりしてきた。
予想以上の刺激に、咄嗟に声が出てしまった。


「(ウソ……きもちい)」


感じたことのない感覚だった。
明確に、これが快感というものだとわかった。
自分の中にある本能のようなものなのだろうか。
そこを弄られるがままに、声が勝手に溢れそうだった。
しかも情けない声しか出そうにない。


「(どうしよう、抑えようとしても声出ちゃいそう…)」

「ここ、気持ちいいの?」


秀ちゃんに聞かれて、「ウン」と小さく返すと、
「可愛い」と言って頭を撫でられた。
なんか、普段の秀ちゃんより、男らしく見えるというか…。
なおさらドキドキした。


そうこうしているうちに乳首を舐められる舌の動きが早くなった気がした。

きもち、いい…!
ぞわぞわがどんどん大きくなってくる。
声を抑えるのがしんどくなってきた。


「いいよ、声抑えなくて。聞かせて」


そう言われて、もう限界だった。
もう、どうにでもなれ。


「秀ちゃ、」


名前を呼ぼうとしたけど、
その瞬間に与えられた刺激に


「ふっ、あぁん…!」


今まで一度も出したことのないような甘い声が勝手に口から飛び出した。
私から、こんな声が出るの…?

このままだとおかしくなる。
もう、おかしくなってる…?


「(私ばっかり、こんな)」


わけもわからなくなってる私に反して、秀ちゃんは冷静に見えた。
大丈夫?変じゃない、私?


考えているうちに秀ちゃんは服を脱ぎ捨てた。
引き締まった体に、胸が高まった。
本当に、“男の人”なんだ。
さっきからずっと秀ちゃんは別人みたいだ。


私の服も取り払われた。
あっという間に、下着一枚の姿になった。
恥ずかしくて腕で体を隠しそうとしたけど、
それもあっさり退けられた。

恥ずかしい。し、
私の体、何か変だったりしないかな。
秀ちゃん、今何考えてる…?

「(……あ)」

ぎゅっと抱き締められた。
それだけで、不安な気持ちが減った気がした。

秀ちゃん、好き…。
背中に腕を回し返した。

再び胸を揉まれて、
その手が撫でる位置は少しずつ下っていって、
ついに下着に手が掛かった。

恥ずかしい。
今まで誰にも触れられたことの無い場所だ。
自分でもよくわからない。


「大丈夫?」

「……うん」


そう返しながら、本当はどこかに不安な気持ちがあった。

何故だろう。
初めてでわからないことだらけだから。
本当に?それだけ?


「(この不安な気持ちは、私だけじゃないと思ってたのに……)」


それだ。
きっと、私だけが不安に感じているように思えるからだ。

さっきから秀ちゃんはずっと“男の人”で、
慣れた手付きで私の体に触れてくる。
私は何もわからなくて何もできていないのに。
秀ちゃんは戸惑った様子一つ見せず、事が進んでいく。


もしかして、初めてじゃない?


頭に一つの考えがよぎった。

そうか、そうなのかもしれない。
思えば確認したことはなかった。
確認するようなことでもないと思ったし。

秀ちゃんは私が初めての彼女だって言ってた。
でもそれも嘘かもしれないし。
付き合ってない相手と経験があるかもしれないし…。


秀ちゃん。
私はさっきから、ドキドキが止まらないよ。
恥ずかしいし、ちょっと怖いし、頭おかしくなりそうだよ。

だけど、私だけ?
こんな気持ちになっているのは。


ついに、秀ちゃんの指が、私の敏感な場所に迫る。

そして、指が、中に入っていく感じがした。


「痛い?」

「そんなには…」


言葉通りの意味だった。
すごく痛いわけではない。
でも全く痛くないわけではない。

そんな私に秀ちゃんは笑顔で

「ゆっくり慣らすから。安心して」

と言って、キスをしてきた。


安心して、って。


「(やっぱり、こんなに不安なのは、私だけみたいだ)」


でも、それならそれで、いいか。
私が秀ちゃんのことを好きな気持ちは変わらないし。
私の初めての相手が、秀ちゃんだった。
それで充分じゃないかな。


そう考えてるうちに、また秀ちゃんの指が私の秘部に触れた。
そして、内側を念入りに解してくる。
それと同時に、キスされたり舐められたり全身に愛撫されていく。

やっぱり、慣れてる。
そう考えると、もう全て納得だった。


「(秀ちゃん、私以外の人にも、こうやって触れてきたの?)」


私だけが必死みたいで、恥ずかしいし、淋しい。
淋しがったって意味はないのもわかってるけど、
急に胸にぽっかり穴が空いたみたいだ。
いっそ、私も慣れてる女みたいな態度を取れないものか。
だけどそれは難しそう。私はあまりに不慣れだ。

体は正直で、敏感な部分に刺激が与えられると勝手に跳ねた。
唇が触れているのは首元なのに、足元まで電気が走るみたいだった。


、指二本入ったよ。きつくない?」


私の体の中に、秀ちゃんの指が二本入ってるんだ…。
さっき一本目が入ってきたときよりも痛くない気がした。


「うん…始めより慣れてきたみたい」

「良かった」


確認した秀ちゃんは、少しずつ指の動きを早めた。
痛くない、だけじゃない。
ちょっと、下の方も気持ち良くなってきたような…?


「(あ、また…、あの声出そう……)」


さっき、抑えきれずに飛び出してしまった声。
そのときの感覚が蘇った。


、痛い?」

「うぅん、だい、じょぶ……んっ」


返事をしようすると、声が勝手に裏返った。
また出た。
さっきみたいな甘い声。

私、いつの間にかすごく気持ち良くなってる。


「(秀ちゃん……)」



吐息と喘ぎの中間みたいな声が漏れる。
時折体が勝手にビクンと跳ねる。


「気持ち良くなってきてるってことで、いいのかな」


そう聞かれた。

気持ち良いのか良くないのかよくわからないくらいおかしくなっちゃってるよ。
でも、それは私だけなんだよね。
私、さっきから秀ちゃんに何もしてあげられてない。
でも仕方ないか、私は初めてで、何をすればいいかもよくわかってない。

秀ちゃんは、色々してもらったことがあるのかな。
私はダメな女って思われてないかな。


「えっ、と……!」


質問の返事をしないと、と思ったのにそれより先に口が塞がれた。
秀、ちゃん……。


「何も言わなくていいよ。俺のことだけ考えてて」


長ぁーー…いキスを終えて、秀ちゃんは囁くようにそう告げた。

秀ちゃんらしくない台詞に胸がきゅっとなった。
さっきから、ときめかされるほどに悲しくなる。
秀ちゃんは、カッコイイけど。
カッコイイから。


「(その言葉、今まで別の人にも掛けてきたの?)」


泣きそう。
泣くな、耐えろ。

幸せな時間になるはずだった。
不安はあったけれど、楽しみにもしていた。
どんなことになるんだろうって。

まさかこんなことになってるだなんて、
一時間前の私は想像してもいなかった…。

慣れた手付きでコンドームを装着して、
秀ちゃんは私に覆いかぶさってきた。


「痛くないようにするから。安心して」


だからその、
安心して、って。
何。


抑えられずに、一気に両目に涙が溜まった。
その先で秀ちゃんが驚いて目を見開くのが見えた。

もう、無理だ。


「今日の秀ちゃん…秀ちゃんらしくない」


指で拭っても拭っても涙が奥から沸いてくる。
ボロボロと溢れだした。


「こういうこと…慣れてるの?」


情けない。
つまらないヤキモチ。
秀ちゃんが初めてだろうとそうでなかろうと
私が秀ちゃんのことを大好きな気持ちは変わらないんだからいいよね、って、
自分で確認したばかりだったのに。

でも私だけがこんな不安なんだって思ったら、
悲しくて淋しくて苦しくて、耐えられないよ。


「うっ……ヒッ…う、うぅ〜…」


秀ちゃんは何も言ってきてくれない。
それが悲しくって涙も嗚咽も止まらない。
顔を上げられないまま手で覆った。

しばらくの沈黙のあと、ようやく秀ちゃんは言葉を発した。


、そんな風に思わせてしまってごめん」


背中の後ろに腕を回されてぎゅっと抱き締められた。
だけど、嗚咽は止まらない。

その体勢のまま言葉を続ける秀ちゃんは、こう言った。


「必死なだけだよ。カッコ悪いとこ見せたくなくて」


どういう、こと?

腕を解かれて、秀ちゃんの顔を見た
申し訳なさそうな顔をしたまま、
秀ちゃんは涙で濡れた私の頬を撫でた。


「こういうことって、女性の方が負担も大きいだろうし、
 に辛い思いしてほしくなくて……」


……間が長い。

言いづらそうに、秀ちゃんは口を開いた。


「……正直ものすごい勉強した」


勉強。

つまり、
いかにも慣れてる風にこなされていた
私が不安になってしまったあれもこれも、
全部マニュアル通りってこと?

思わず吹き出してしまった。


「秀ちゃんらしい」


何それ。
バカみたい。
勝手に誤解して不安な気持ちになってたんだ、私。


「(良かった。強がって、我慢したままにしないで)」


私は不安だったけど、秀ちゃんだって、きっと不安だったんだ。
だけど私が不安にならないようにって気を遣ってくれてたんだ。

その結果が、勉強?
その行動パターンがあまりに秀ちゃんらしすぎる。

やっぱり、気持ちはちゃんと伝え合わないとダメだ。


「私もごめん。泣き出したりして。なんか…不安になっちゃって」

「俺こそごめん。まさかそんな風に思うだなんて考えもしなかった」


手を頭に当てて、本当に思いつめた顔。

そうだよ、秀ちゃんはこういう人じゃん。


「本当のこというと、自信はないんだ。でも、なるべく辛くないようにしてあげたい。
 …大丈夫かな?」


そう確認してくれた。

良かった。
秀ちゃんは、ずっと秀ちゃんのままだった。
私の大好きな秀ちゃんのまま。

私は自然と笑顔で頷くことができた。


自然と笑顔が重なって、
引き合うようにキスをした。

そして体勢を変えると、
秀ちゃんのその、硬くなった棒の先が、
私の入り口部分に触れた。

今度こそ、このときが来たんだ。

胸がバクバクした。
でも、不安じゃない。
大丈夫。


「いくよ」

「…うん」


合図をして、秀ちゃんは腰を近づけてきた。
そして、力が加わる。
あ、なんか、痛い?
入ってる?
よくわかんない。
ぎゅーっと痛い。


「(う〜〜〜……)」

「ごめん、辛いよな」

「う……秀ちゃん」


秀ちゃんは体を起こしていた。
これは、入ってなさそう?

そしてその秀ちゃんの目線は不安そうに私を見つめていた。
そうだ、大丈夫だ。
二人一緒だから。


「もうちょっとだけ、頑張れるか?」


コクンと首を頷かせた。
秀ちゃんは私の手を取って、指を絡ませるように両手をそれぞれ繋いだ。

そして再び、同じ部分が押し付けられるようになって。

「つぷ」、って。

痛ァ!!


「(イタイイタイイタイ!!)」

「ごめん痛いよな、…っ」


秀ちゃんが心配してくれる声に返事する余裕もない。
痛いマジで痛い辛い。

でも、これは、入ったよね。
私たち、やっと一つになれたんだ…!


、一旦抜こうか?」


秀ちゃん、優しい。
そうだ秀ちゃんはいつだって私のことを一番に考えてくれてる。

痛い。
すごく痛い、けど。
私は首を横に振った。


「せっかく一つになれたのに…まだ抜かないで」


無意識にぎゅっとつむっていた目を、開けた。
ちょっと驚いたような顔で私を見ている秀ちゃんと目が合った。

すごいよ、私たち。
繋がった状態で見つめ合ってるんだ。
体も、心も、一つになれてる気がする。

痛いけど、幸せだ。

その時が数秒間続いて、
ふいに、秀ちゃんがきゅっと眉を顰めた。


「あ、ごめ……」

「え?」


秀ちゃん?

声を掛ける暇もなく、秀ちゃんは小さくうめき声を上げて、
そしたら私の中で、
わ、すごい、
なんか、脈打ってる。


これ、秀ちゃん、イってるの?

私の中で。

わぁー……。


「抜くよ」


長い間のあと、そう確認して秀ちゃんは私の中からおちんちんを抜いた。


ついに。
初体験を終えてしまった。
私たち、一歩進んじゃったんだ。

すごぉーい……。


、どうした?」

「え、ふふふっ」


秀ちゃんは不思議そうに私を見てきていた。
というのも、私は一人でニヤけてしまっていた。

ダメだ。
幸せすぎて笑顔が止まらない!


「ついにエッチしちゃったんだねぇ、私たち」


私はニヤけが止まらないのに、
秀ちゃんは苦笑いで顔を逸らす。


「ごめん、カッコ悪いとこ見せて…」

「そんなことないよ」


座ってる秀ちゃんと目を合わせたくて体を起こそうとした。
けど、なんか力がうまく入らない…。
のっそり動く私の背中を秀ちゃんは支えてくれた。

やっぱり秀ちゃんは、優しい。
大好き。


「カッコ良かったし、とびきり優しくて、私の大好きな秀ちゃんだった」


そう伝えるや否や、秀ちゃんは思いきり私の体を抱き締めてきた。


、大好きだよ」

「……私も、大好き」


大好き。
幸せ。

しかし、不安になって泣いちゃうなんて。


「(私もまだまだだなー…)」

「体、大丈夫?どこか痛かったりしないか?」

「痛いけど、なんかそれが嬉しい」

「無理しないでくれよ」


そう言って、腕枕してくれた。
わー!憧れー!!

あったかくて、
安心できる。


「(秀ちゃん、私、幸せだよ)」


もっと色々喋りたい気がするけど、
気が抜けたせいか眠気が勝っちゃいそう。

起きたら、必ず伝えよう。

やっぱり、気持ちはちゃんと伝え合わないとダメだってわかったからね。


幸せ。
ありがとう
これからもずっとずっと大好き。
おやすみ。
























『HOW TO Escort You』の主人公視点なw
前作が、良かれと思った行動で誤解を招きまくることを描いたお話なので
アザーサイドはこうでしたっていう種明かしがほしいなとw

あっけらかんとしてると思った主人公は実はずっと緊張してるし
大石の慣れてる風の態度は想像以上にうまく決まってたっていうw
これ読んだあとに前作読んだらめっちゃマヌケに見えるだろうねw
(いや前作単体でも充分マヌケなんだけどさwwそんな大石も良いよねw)

前作は「ハウツー」、今回は「ノウハウ」をタイトルに入れましたw


2021/01/19